顧客満足経営のツボ10 〜近江商人の三方よしの精神『自分よし、相手よし、世間よし』が新しい〜

2017年9月16日 16:42

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 顧客満足経営は新しい概念ではありません。古の時代から近江商人が経営の基本として大事にしてきました。

【前回は】顧客満足経営のツボ9 〜『お客さまはありがたい』という理念を行動化する〜

●近江商人の三方よしとは

 『自分よし』とは、商売をしている訳ですから、自分の利益を考えるのは当り前、しっかり儲け、会社を継続させることが大事と考えたのです。会社を潰すことは迷惑だ、安かろう悪かろうの商品はダメ、良い商品をお値打ちで商売をするという考え方です。

 『相手よし』の相手は顧客、取引先です。近江商人の商売は『のこぎり商売』と呼ばれていました。その商売方法は、近江の特産品持って行商を行ない、赴いた地区で近江特産品を売り切り、代金を得る。その売上代金すべてを使ってその地区の特産品を購入、近江に戻って商売をします。その繰り返しを各地で行うのです。

 のこぎりは木を往復し、引けば必ず大鋸屑が出ます。近江商人は各地を往復し、その場に何かを残す。近江商人はその地区で得たお金はその地区に落としていくのです。

 (のこぎりは押しても、引いても切れることから、どっちに転んでも利益を残すという近江商人の抜け目無さを強調する説もあります。)

 『世間よし』とは自分の利益は地域へ還元するという考え方です。安政の大獄と言われる彦根藩主井伊直弼が暗殺された事件の時、近江商人は既に大金を井伊家へ融通していたにも関わらず、見舞金として三千両(約9億円)を差し出し、井伊家を支援、彦根地区を守ったと言われています。

●三方よしの現代的教訓

 教訓の一つ目は、利益の出ない店舗、事業は『悪』という考え方です。赤字の店舗、事業はお客さまから『あなたは要らない』と宣告されていることと同じです。赤字はお客さまから存在を否定されていると考えるべきなのです。利益を残してこそ、存在する意味があるのです。

 二つ目。マーケティングでは、プロダクトアウトの思想とマーケットインの思想があります。プロダクトアウトは自社の強み/自社の技術的特性から発想し、製品開発、事業運営することです。一方マーケットインは市場の顧客のニーズを基に製品開発、事業運営することです。

 顧客満足経営を意識し過ぎるとマーケットインの発想が強くなり、『お客さまは神様です』という極論になります。大事なことはプロダクトアウト思想とマーケットイン思想のバランスです。

 三つ目では、自分の製品/事業には社会的存在の意義があるということです。自分の存在が相手のためのなること、相手や社会の付加価値創造へ貢献出来ることです。言い換えればCSR。社会的責任を如何に果たすかを常に考え、事業運営することなのです。利益は回り回って自分に戻ってくるものなのです。
 
 P.F .ドラッガーは「あなたの会社の顧客は誰か?」、「あなたの会社の問題は何か?」、「あなたの会社の使命は何か?」と問い続けています。(記事:KMAきむらマーケティング&マネジメント研究所 木村博・記事一覧を見る

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