関連記事
「中途採用は即戦力」と決めつけて人材をつぶしていないか
プロ野球のドラフト会議などを見ていると、「即戦力」と「将来性」という区別で、候補選手を説明しているところを見かけます。
社会人や大学生の一部、ある程度の年齢に達している選手はだいたい「即戦力」と言われ、逆に高校生で「即戦力」などと明言されるような選手は、少なくとも私は今まで一人も見たことがなく、高校生イコール「将来性」という言葉で語られます。
【こちらも】企業の人材ニーズは?採用意欲や求めるスキルなど、マイナビが調査
ただ、実際に「即戦力」という触れ込みで入団しても、本当に1年目から活躍できる選手は決して多くはありません。初めのうちはとりあえず出番が与えられてそこそこの成績が得られ、それから2、3年のうちにレギュラークラスに育てば、選手の育成としては十分に成功だと言えるでしょう。
また、「将来性」だといわれる高卒選手であっても、1年目からレギュラークラスで活躍する人は、ごく少数ですが存在します。でも、初めから「即戦力」と言われていた人は知りません。
そもそもプロに指名されるような選手は、そこで活躍できるだけの能力は必ず持っているはずで、それが開花できるかどうか、それまでにどのくらいの時間がかかるのかは、運や成り行きも含めたいろいろな状況があります。指導体制やコーチとの相性もあるでしょうし、けがや故障といった事情もあるでしょう。
プロのスカウトが、一人の選手を長い期間追いかけて、見続けてきたうえでの判断でも100%の確率ということはありませんから、人材の見極めというのは、それほど難しいということです。
これを企業に置き換えてみたとき、企業の採用で「即戦力」といえば、おおむね中途採用のことで、「将来性」といえば、こちらは新卒採用にあたるのだと思います。
もう少しいうと、中途採用は「即戦力で特に教育が必要ない人材」、新卒採用は「将来性を求めていて教育を施さなければならない人材」と切り分けられています。
中途採用で入社した人を対象に、時間をかけて丁寧な研修をおこなうような会社はほとんどなく、その一方、新卒採用で入社した新入社員には、長ければ半年、一年というような研修期間が設けられています。
しかし、この「即戦力」と「将来性」の区別は、企業側の勝手な思い込みというところがあります。
私は今まで多くの企業で採用活動にかかわってきましたが、本当の意味で「即戦力」といえるような、入社して即バリバリ活躍するような人材は、今までほんの数人しか出会ったことがありません。
多くの人は、初めのうちはかなり苦労しながら、何年かしてようやく会社になじんで仕事が軌道に乗ってくるという感じで、そこに到達する前に辞めてしまう例もたくさんあります。
また、中途採用は「即戦力」ということになっているので、特に教育することなく、いきなり現場に放り込んでOJTと称して仕事をさせることがほとんどでしょう。
一方、新卒採用の中でもごく少数の「即戦力」という人はいましたが、こちらは多少の配慮はあったとしても、新人のスタート時点ではあまり差がつかないようにしようという会社の方が多いです。どんなに能力が高くても、基礎を学ぶということで、長い新人研修は受けなければならないことがほとんどです。
こうやってみていくとわかるのは、入社直後に教育期間や準備期間がいらないような「即戦力」というのは実際にはほとんどおらず、何かしら手をかけた方が良い人材がほとんどだということです。
実際に転職した経験がある人はわかると思いますが、同じような業界で同じような職種だったとしても、会社が変われば仕事の進め方は全く違い、これに慣れるだけでも一苦労です。初めから多くのことは望まれないかもしれませんが、中途採用で経験者として扱われているために、「自分で何とかするしかない」と思いながら仕事をしているはずです。「もっとサポートがあれば効率が良いのに」などと思ったことは必ずあるでしょう。
私が思うのは、これからは中途採用であっても「即戦力」などといって仕事になじむことを本人任せばかりにせず、もっとサポートが必要だということです。
ある会社では、中途採用者にも入社後2週間の研修期間を設け、そこで自社の商品知識や仕事の進め方、ほか社内知識を丁寧に教える共通カリキュラムを実施しています。これによって中途採用者のストレスが減り、配属先の業務にスムーズに入れるなどの効果が上がっているということです。
「即戦力」という言葉は、多くが勝手な思い込みでこちらの一方的な都合です。どんな経験がある人でも、それなりの準備期間を設けていないことで、その後の活躍の芽をつぶしているかもしれません。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。
スポンサードリンク