大前研一「イタリアの狡猾さに学ぶ地方創生。『Made in Japan』ブランド&デザインを死守する」

2017年3月30日 11:31

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記事提供元:biblion

 【連載第7回】鞄や家具などのものづくり、ファッションやオペラなどの文化。歴史的建造物が連なる町並みや穏やかな農村。国のいたるところに文化と産業が息づく町があるイタリア。国家財政・社会情勢が悪化する中、なぜイタリアの地方都市は活気に満ちているのか。イタリアに日本の課題「地方創生」解決のヒントを探る。

大前研一「イタリアの狡猾さに学ぶ地方創生。『Made in Japan』ブランド&デザインを死守する」

 本連載では書籍『大前研一ビジネスジャーナルNo.11』(2016年8月発行)より、日本の「地方創生」の課題に迫ります(本記事の解説は2015年7月の大前研一さんの経営セミナー「イタリア『国破れて地方都市あり』の真髄」より編集部にて再編集・収録しました)。

イタリアの産業は水平型、日本の産業は垂直型

 イタリアのさまざまな地方都市の状況を知ると、国にとっての地方の重要性、地場産業の大きな可能性について、理解できるのではないでしょうか。
 地方の小さな町が、常に「世界」を捉えているイタリア。これまでの話を整理しながら、そのグローバル展開のポイントを押さえていきましょう。

 まず、産業のあり方です。図-30をご覧ください。日本は産業を発展させる際に、ヒエラルキーとして大企業がトップに君臨し、中小企業を下請けとしてバックに置きながら、世界のマーケットを相手にするのが通例です。
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 価格競争の時代には、生産拠点を国外の低コスト国へシフトし、「Made in Japan」を「Made in China」に変えることで対処してきました。その海外シフトは当然のことながら、国内の中小企業の廃業や工場の閉鎖を招くことにもなりました。

 こうした日本の「垂直型」に対して、「水平型」なのがイタリアです。
 産地の発展期には、各地の中核企業を中心に、中小企業、大学、研究機関、業界団体など横のつながりを広げ、世界化してきました。今でこそ大企業へと成長したグッチもプラダも、もともとは地域の中核企業として伸びてきたのです。

 そして、価格競争の時代には、何もかもを海外生産へとシフトせずに、ルーマニアやトルコといった生産地を取り入れながらも、デザイン、最終加工など付加価値の大半を国内に残すことで、「Made in Italy」を継続できる仕組みを保持してきました。イタリアは中国での生産を非常に警戒しています。そこが緩むと、フランスのピエール・カルダンのようにOEM の乱発でブランド価値を失って値段が保てなくなり、経営が悪化することになるからです。

国を挙げてデザインの力で世界を呼び込む

 もう1つ、イタリアのグローバル展開を支える重要なファクターが「デザイン」です。とにかく、国を挙げてデザインの力を強調しています。

 図-31はイタリアのデザインの中心地であるロンバルディア州(ミラノ)、トスカーナ州(フィレンツェ)のコミュニティモデルです。
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 地元の大学や研究機関、産業支援機関などと、企業・職人などのクラスターの連携があります。ファッションのミラノ、ルネサンス文化が街中に息づいているフィレンツェというように、街そのものにも強い魅力があります。世界的な見本市も開催されます。こうした要素が一体となることで、グローバル市場で勝てる競争力が備わるとともに、留学生や世界中のデザイナー、建築家、関連企業など、世界から企業・カネ・人材を呼び込む吸引力をも生み出しているのです。
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大企業、中小企業、地方都市 それぞれのヒント

 イタリアのような自立性の高い地方中核都市は、一体どうすればつくり出せるのか。最後に、日本がイタリアに学ぶべきことを総括したいと思います(図-32)。
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 大企業に関してはまず、デザインというものに対する価値観を反転させる必要があります。日本の大企業は生産が中心で、デザイナーは借り物であるケースが多いです。ですから、デザイン部門を生産部門からしっかりと切り分け、デザイナーをきちんと会社の中核に据えること。他部門はデザインに口を挟まずに、デザイナーに自由に創造してもらう覚悟が必要です。そこで初めて、製品のブランド化、高付加価値化が達成されるのではないでしょうか。

 また、イタリアの企業あるいはブランドを買収し、ブランド化・高付加価値化といったイタリア流のノウハウを会得するのも1つの方法です。

 中小企業に関してはとにかく、ニッチを深堀りせよ、ということでしょう。
 例えばアパレルであれば、ニットだけ、眼鏡だけ、というレベルまで落とし込むこと。器用な企業はつい横に広げがちですが、屏風のごとく、横に広げすぎると倒れます。
 狭く深く追求しながら世界に販路を開拓し、世界一を目指すのです。そのためには、イタリアの地場産業のように、地元の同業企業との連携を強化し、産業クラスターとして競争力を高めていくことも必要です。
 日本の場合、同業企業を競争相手と捉えて敬遠しがちですが、そうではなく、「零細でもいいんだ、“この町”で世界に売り込んでいくんだ」と発想することが大切なのです。そのようにして地場産業が活気づいていけば、自ずと後継者育成にもつながります。

 産品に関しては、いい意味でイタリアの狡猾さを学ぶことです。海外で製造をしてもデザインや最終工程は国内で行い「Made in Japan」ブランドを死守するべきです。
 農産物や加工食品においては、マーケティングを強化すると同時に、品質基準や製造基準を明確化し、世界に通用するブランドを確立することが重要です。

イタリア「Made in Italy」産地ブランド戦略詳細はコチラの記事へ

イタリア「Made in Italy」産地ブランド戦略詳細はコチラの記事へ大前研一「イタリアで箱詰めさえすればOK。最強ブランド『Made in Italy』の定義」日本の一村一品運動にも、あるいは鯖江市の眼鏡のような地場産業にも、そのポテンシャルは十分にあるはずなのです。ただ、ブランドを確立して世界に売り込んでいくというコンセプトが欠けていたり、デザインの重要性を正しく理解できていなかったのです。

 このようなイタリアから学んだことを日本の地方で実行していくためには、現状の自治権の見直しなども必要になるでしょう。
 そして何より、当事者である産地、そこに生きる人々が、国家や政府に頼るのではなく、自分たちの産業を自分たちの力で盛り上げて世界化していくのだという気概を持つこと。それこそが、イタリアに学ぶべき真髄と言えるのではないでしょうか。(本連載は今回で終了です。)

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大前研一

大前研一株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長/ビジネス・ブレークスルー大学学長1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセツ工科大学(MIT)大学院原子力工学科で博士号を取得。日立製作所原子力開発部技師を経て、1972年に経営コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社後、本社ディレクター、日本支社長、常務会メンバー、アジア太平洋地区会長を歴任し、1994年に退社。以後も世界の大企業、国家レベルのアドバイザーとして活躍するかたわら、グローバルな視点と大胆な発想による活発な提言を続けている。現在、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長及びビジネス・ブレークスルー大学大学院学長(2005年4月に本邦初の遠隔教育法によるMBAプログラムとして開講)。2010年4月にはビジネス・ブレークスルー大学が開校、学長に就任。日本の将来を担う人材の育成に力を注いでいる。 元のページを表示 ≫

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