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慶大がヒトiPS細胞でマウスの損傷脊髄の再髄鞘化に成功
脊髄を損傷すると、損傷部以下の知覚・運動・自律神経系が麻痺する。医療の進歩により、脊髄損傷患者の平均余命は一般人とそれほど変わらなくなったが、損傷した脊髄そのものを再生する治療法は確立されていない。一度損傷した脳や脊髄は、二度と再生しないと長い間信じられて来た。しかし、神経科学の急激な進歩により、その通説は覆されつつあるという。
脊髄損傷に対する神経幹細胞移植による機能回復メカニズムとして、主に三つの機序が提唱されている。一つ目は移植細胞がニューロンに分化して傷ついた神経回路を再構築するというもの、二つ目は中枢神経の細胞の増殖や維持に関わる神経栄養因子と呼ばれる因子を移植細胞が分泌するというもの、そして三つ目は移植細胞がオリゴデンドロサイトに分化して、神経の再髄鞘化に寄与するというもの。
しかし、ヒトiPS細胞由来神経幹細胞は主にニューロンに分化し、オリゴデンドロサイトへはあまり分化しなかった。今回、慶應義塾大学医学部生理学教室(岡野栄之教授)と同整形外科学教室(中村雅也教授)は、ヒト iPS細胞から効率的にオリゴデンドロサイト前駆細胞へと分化誘導する方法を開発し、マウス損傷脊髄の再髄鞘化に成功した。この研究は2014年に開発したヒトiPS細胞から効率的にオリゴデンドロサイト前駆細胞を多く含む神経幹細胞(human iPS cell derived oligodendrocyteprecursor cell-enriched neural stem/progenitor cells :hiPS-OPC-enriched NS/PCs)へと分化誘導する方法を用いて、マウス脊髄損傷に対しhiPSC-OPC-enriched NS/PCsを移植し、その有効性を検証した。
hiPS-OPC-enriched NS/PCs は多くの神経栄養因子を分泌していることを確認しました。移植後 12週のマウスの脊髄内で、移植細胞はニューロン、アストロサイトに加え、成熟オリゴデンドロサイトに分化していた。さらに、移植細胞由来オリゴデンドロサイトは、残存軸索を再髄鞘化しており、この所見は従来のヒト iPS 細胞由来神経幹細胞の移植では見られなかったという。また、移植細胞由来ニューロンは、ホストマウスのニューロンとシナプスを形成していた。
次に、脊髄損傷後に hiPS-OPC-enriched NS/PCs を移植したマウスと、リン酸緩衝生理食塩水のみを注入したマウスで、後肢運動機能評価を行った結果、細胞移植したマウスで明らかな運動機能の改善が観察され、後肢で体重を支えての歩行が可能となっていた。さらに、回転するロッド上での歩行可能時間と平地歩行時の後肢歩幅の計測においても、細胞移植したマウスで明らかな改善を認めたという。
さらに、電気生理学的評価として運動誘発電位を計測したところ、細胞移植したマウスで明らかな改善を認めた。このことより、移植細胞由来のニューロンやオリゴデンドロサイトが、神経回路の再構築や、神経伝達速度の回復に寄与していることが示唆されたとしている。(編集担当:慶尾六郎)
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※この記事はエコノミックニュースから提供を受けて配信しています。
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