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K中間子崩壊のCP対称性破れを計算できることを実証―理研・出渕卓氏ら
理研BNL研究センターを含む国際研究グループの一部。前列左から3番目が出渕卓グループリーダー、4番目がクリストファー・ケリー研究員(理化学研究所の発表資料より)[写真拡大]
理化学研究所の出渕卓グループリーダー、クリストファー・ケリー研究員らによる国際共同研究グループは、K中間子崩壊における「CP対称性の破れ」のスーパーコンピュータを用いた計算に成功した。
約138億年前、宇宙誕生のビッグバンにおいて、超高温・超高圧の光の塊から、同数の粒子と反粒子が対生成されたと考えられている。しかし現在の宇宙には、物質が集まった星や銀河は存在しているが、反物質から成る星や銀河は観測されていない。すべての物理法則が物質と反物質の入れ替え(CP変換)で不変(CP対称)だとすると宇宙の進化を説明できないため、CP対称性は破られる必要がある。
今回の研究では、中性K中間子が2つのπ(パイ)中間子に崩壊する格子量子色力学に基づく大規模数値計算を行った。その際、計算機上に表した空間格子の境界条件に工夫を加えることによって、K中間子が自然界と同じ運動量を持ったπ(パイ)中間子へ崩壊する状況を実現し、さらにクォークの運動方程式の解法を大幅に高速化するアルゴリズムを導入した。そして、理論上1秒間に700兆回の計算を行うことができるスーパーコンピュータ「IBM Blue Gene/Q」で大規模格子量子色力学計算を行い、小林・益川理論と素粒子の標準理論から導き出されるCP対称性の破れのサイズを初めて計算で示し、実験結果との比較を可能にした。
今回の理論計算は、実験結果と比較して最終的な結論を出すための精度は不足しているが、直接的なCP対称性の破れの理論計算が可能であることを証明した。
今後は、さらに高速のスーパーコンピュータ(2016年完成予定)を用ることで、より一層の計算精度を向上させる計画を作成しており、それが未知の物理法則の発見につながると期待されている。
なお、この内容は「Physical Review Letters」に掲載された。論文タイトルは、「Standard-model prediction for direct CP violation in K→ππ decay」。
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