妊娠中の脂質摂取バランスが、仔マウスの脳形成と情動に影響を与える―東北大・大隅典子氏ら

　東北大学の大隅典子教授、酒寄信幸元研究員らは、妊娠マウスがオメガ6過多/オメガ3欠乏飼料を摂取すると、生まれてくる仔マウスの脳（大脳新皮質）の神経細胞の数が減少することを明らかにした。

　油は脂肪酸という物質から構成されており、多価不飽和脂肪酸は主にオメガ6とオメガ3に分類され、エイコサペンタエン酸（EPA）やドコサヘキサエン酸（DHA） などが知られている。その摂取バランスはオメガ6:オメガ3=4:1程度が理想とされているが、多くの国々において、大豆油などの摂取の増加や魚介類などの摂取の減少に伴い、25:1にまで達している。

　今回の研究では、妊娠マウスにオメガ6過多/オメガ3欠乏飼料を与え、その仔マウスの大脳新皮質を解析した。その結果、仔マウスの大脳新皮質の厚さが薄くなっていること、脳を構成する様々な細胞を生み出す神経幹細胞の数は変わっておらず、実際に脳機能を担う神経細胞の数が減っていることが分かった。

　さらに、この原因を探るため、仔マウスから神経幹細胞を培養し、どのような細胞が生まれてくるかを解析したところ、オメガ6過多/オメガ3欠乏飼料を摂取した仔マウスの神経幹細胞は神経細胞を生み出す能力が低下しており、その分アストロサイトという神経細胞の補助をする細胞が多く作られた。そして、これによりオメガ6過多/オメガ3欠乏飼料が神経幹細胞の細胞産生能を神経細胞からアストロサイトへ偏らせることが分かった。

　また、このような脳形成異常が情動に与える影響を調べるため、生後10日目以降、オメガ6過多／オメガ3欠乏飼料を与えていたマウスにも標準的な飼料を与え、仔が成体になった後に不安行動を解析した。その結果、胎生期にオメガ6過多／オメガ3欠乏飼料を投与されていた仔マウスは過剰な不安行動を示すことが分かった。

　生後の早い時期から成体に至るまで標準的な飼料を食べたにも関わらず、仔マウスがこのような異常行動を示したことは、母親の脂質摂取が仔の脳形成に大きな影響を及ぼすことと、その際に仔マウスの将来の情動の一部が決定される可能性があることを意味している。

　日本ではオメガ3を豊富に含む魚介類を頻繁に食べていることなどから、現在のところオメガ6過多／オメガ3欠乏状態は報告されていないが、近年では欧米型の食事の増加や魚離れが見られることから、今後は日本でもオメガ6過多／オメガ3欠乏が起こるおそれもある。研究グループは、今回の研究が、食生活が見直される端緒になりえるとしている。

　今回の研究内容は、Stem Cellsに掲載された。論文タイトルは、「Maternal dietary imbalance between omega-6 and omega-3 polyunsaturated fatty acids impairs neocortical development via epoxy metabolites」（和訳：母親におけるオメガ6およびオメガ3多価不飽和脂肪酸摂取比の乱れはエポキシ代謝産物を介して大脳新皮質形成を阻害する）。