変異マウスが自発的なうつ状態を繰り返すことを発見―新たな治療薬の開発につながる可能性=理研・加藤忠史氏ら

2015年10月23日 17:51

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モデルマウスのうつ状態の原因脳部位を示す図。異常なミトコンドリアDNAが視床室傍核(PVT)に著しく蓄積し(左の図の赤い部分)、この部位にはミトコンドリア機能障害を持つ細胞(黄色枠内の赤く見える細胞)が多く見られた。(理化学研究所の発表資料より)

モデルマウスのうつ状態の原因脳部位を示す図。異常なミトコンドリアDNAが視床室傍核(PVT)に著しく蓄積し(左の図の赤い部分)、この部位にはミトコンドリア機能障害を持つ細胞(黄色枠内の赤く見える細胞)が多く見られた。(理化学研究所の発表資料より)[写真拡大]

 理化学研究所の加藤忠史チームリーダー・笠原和起副チームリーダーらの共同研究グループは、うつ病・躁うつ病を伴う遺伝病の原因遺伝子の変異マウスが、自発的なうつ状態を示すことを発見した。

 日本でうつ病や躁うつ病により治療を受けている人は約100万人おり、日本人の健康寿命を奪う主な疾患の1つとなっている。抗うつ薬や気分安定薬などによる治療が行われているものの、すべての人に有効とはいえず、副作用もあることから、新たな薬の開発が期待されている。

 研究グループは、以前、ミトコンドリア病という遺伝病の1つである「慢性進行性外眼筋麻痺」が、しばしばうつ病や躁うつ病を伴うことに着目し、その原因遺伝子の変異が神経のみで働くモデルマウスを作成したところ、2週間ほど、輪回し行動をあまりしなくなる時があることを発見していた。

 今回の研究では、このモデルマウスが活動低下状態にある時の行動を詳しく解析した。その結果、興味喪失、睡眠障害、食欲の変化、動作が緩慢になる、疲れやすいといった症状、および社会行動の障害を示し、精神疾患の診断基準であるDSM-5のうつ状態の基準に合致することが分かった。

 また、この状態は、抗うつ薬治療により減少し、気分安定薬であるリチウム投与を中止すると増加するなど、治療薬に対してうつ病や躁うつ病のうつ状態と同様の反応を示すこと、この状態の間には、副腎皮質ホルモンの増加など、うつ病患者と同様の生理学的変化が見られることも明らかにした。

 今後は、このモデルマウスを用いることにより、これまでとは全く作用メカニズムの異なる抗うつ薬や気分安定薬の開発が可能になると期待されている。

 なお、この内容は「Molecular Psychiatry」に掲載された。論文タイトルは、「Depression-like Episodes in Mice Harboring mtDNA Deletions in Paraventricular Thalamus」。

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