京大、RNAを使って細胞機能を制御する人工回路を開発―がん細胞だけ除去する技術への応用に期待

2015年8月8日 20:58

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京都大学の遠藤慧研究員、齊藤博英教授らの研究グループが開発した、RNAを細胞に導入することで機能する人工回路の概要を示す図。RNAをヒト細胞に直接導入することで、細胞内で人工回路が形成される。この回路はDNAからの転写制御を基盤とする天然の回路(左)とは異なり、RNAとRNA結合タンパク質の相互作用による転写後制御を基盤とする(右)。RNAは遺伝子を傷つける可能性が低く安全性が高い上に、精密に細胞内の状態を検知し、その運命をコントロールできる。(京都大学の発表資料より)

京都大学の遠藤慧研究員、齊藤博英教授らの研究グループが開発した、RNAを細胞に導入することで機能する人工回路の概要を示す図。RNAをヒト細胞に直接導入することで、細胞内で人工回路が形成される。この回路はDNAからの転写制御を基盤とする天然の回路(左)とは異なり、RNAとRNA結合タンパク質の相互作用による転写後制御を基盤とする(右)。RNAは遺伝子を傷つける可能性が低く安全性が高い上に、精密に細胞内の状態を検知し、その運命をコントロールできる。(京都大学の発表資料より)[写真拡大]

 京都大学の遠藤慧研究員、齊藤博英教授らの研究グループは、RNAを細胞に導入することで機能するさまざまな人工回路を開発した。正常細胞には影響を与えず、目的のがん細胞を選択的に除去できる技術の開発につながることが期待されるという。

 DNA上の遺伝子情報は、RNAとして転写され、最終的にはタンパク質となって細胞内で機能する。細胞には、タンパク質に対して、適切なタイミングや量を調節する回路が備わっているが、この回路を制御するための薬や低分子化合物には、予想外の副作用をもたらす場合もあるため、細胞の状態に応じてタンパク質の発現をコントロールできる人工回路の構築が望まれていた。

 今回の研究では、まず、細胞内の複数のマイクロRNA(miRNA)を検知し、かつ標的がん細胞にのみ細胞死を誘導できるRNAからなる人工回路を作製した。この人工回路は、miRNAに応答する2種類の人工mRNA「L7Aeを発現するmRNA(1)」「L7Aeにより翻訳が抑制されるmRNA(2)」を細胞に導入するだけの単純な仕組みで構築できる。そして、出力として細胞死を誘導するタンパク質「hBax」を用いることで、シャーレ上で培養中のヒト子宮頸がん由来HeLa細胞HEK293細胞の中から、HeLa細胞のみに細胞死を誘導することに成功した。

 研究メンバーは、「今回の研究で構築に成功した人工RNAを用いた回路は決められた期間のみ機能させることができ、ゲノムDNAを傷つけるリスクが低いという利点があります。(中略)人工mRNAにより特定の細胞を識別して細胞死を起こす回路は、設計が簡単な上に、RNAが一時的に細胞内にとどまった後に分解され、ゲノムDNAを傷つけることないという安全性の面からも、将来の医療応用が期待されます」とコメントしている。

 なお、この内容は「Nature Biotechnology」に掲載された。論文タイトルは、「Mammalian synthetic circuits with RNA binding proteins for RNA-only delivery」。

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