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飼い主とイヌの絆には、視線とオキシトシンが関与―哺乳類の母子間に類似=麻布大など
麻布大学、自治医科大学並びに東京医療学院大学の共同研究グループは17日、ヒト(飼い主)とイヌの関係性が、哺乳類の母子間に共通に認められるような、絆の形成に関与するホルモンとアタッチメント(愛着)行動によって促進されるものであることを明らかにしたと発表した。研究成果はScience(2015年4月16日号)に掲載予定。
近年、比較認知科学においてイヌの特異的な能力が注目されるようになってきた。戦略的知能は類人猿であるチンパンジーのほうが優れているが、ヒトが示す協力的なシグナルを理解するなど、「心のありよう」がヒトに近いのはむしろイヌであることが、最新の研究によって明らかになりつつある。しかし、ヒトとイヌの両者の間に生まれる絆はこれまで、科学的な研究対象として扱われて来なかった。
一般的に、動物では相手を直視することは威嚇のサインとなるが、例外的にヒトでは「みつめあい」として親和的なサインとして受け取られる。また、イヌを飼ったことがある人は、イヌの視線も乳幼児のものと同様に愛らしく感じ、惹きつけられることを感じる。そこで研究グループは、イヌの視線がアタッチメント行動として、飼い主の体内で絆の形成に関与するホルモンであるオキシトシンの分泌を促進するという仮説をたてて実験を行った。
一般家庭犬とその飼い主30組に協力してもらい、実験室にて 30 分間の交流を行った。その間の行動はすべて録画され、交流の前後に飼い主とイヌの尿を採取し、実験後に行動解析と尿中オキシトシン測定を行った。その結果、イヌが飼い主をよく見つめる群では、飼い主もイヌも30分の交流後に尿中オキシトシン濃度が上昇したことがわかった。
研究グループは次に、このような視線によるオキシトシンの変化が、イヌと共通の祖先種を持つオオカミにもみられるか調べたが、オオカミはほとんど飼い主の顔を直接見ないこと、また、オオカミと飼い主のいずれも交流による尿中オキシトシン濃度の変化はみとめられなかったという。他にも、飼い主以外に初対面の2人のヒトが加わった実験など条件を変えて、飼い主とイヌのオキシトシン濃度の変化を調べた。
これらの実験の結果、イヌの飼い主にむけた視線はアタッチメント行動として飼い主のオキシトシン分泌を促進するとともに、それによって促進した相互のやりとりはイヌのオキシトシン分泌も促進することがわかった。ヒトとイヌとの間には母子間と同様の視線とオキシトシン神経系を介したポジティブ・ループが存在し、それにより生物学的な絆が形成されることが明らかになった。
このようなヒトとイヌの異種間における生理学的な絆形成の存在は、イヌの優れた社会的能力を示すものであるとともに、イヌと生活環境を共有するヒトの社会の成り立ちの理解の手がかりになることが期待される。
※オキシトシン:脳の視床下部の室傍核と視索上核の神経分泌細胞で合成され、下垂体後葉から分泌されるホルモン。恋愛ホルモン、癒しホルモンなどとも呼ばれる。
(記事:町田光・記事一覧を見る)
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