京大、ヒゲクジラ類の嗅覚で失われている遺伝子を明らかに

2015年3月7日 20:40

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ホッキョククジラの嗅球の冠状切片。糸球体を抗OMP抗体で染色している。スケールバーの長さは1mm。画面上が背側、下が腹側、右が外側、左が内側(京都大学の発表資料より)

ホッキョククジラの嗅球の冠状切片。糸球体を抗OMP抗体で染色している。スケールバーの長さは1mm。画面上が背側、下が腹側、右が外側、左が内側(京都大学の発表資料より)[写真拡大]

  • 今回の研究結果を要約した図。Kishida et al. 2015を改変(京都大学の発表資料より)

 京都大学の岸田拓士特定助教らによる研究グループは、ヒゲクジラ類の嗅球には背側の領域が存在しないことを明らかにした。

 鯨類の嗅覚能力はほとんど失われていると従来は考えられていたが、ヒゲクジラ類に関しては、著しく退化しているものの、嗅覚に必要な全ての神経系を備えており、ヒトと同じく空気中に揮発している化学物質をニオイとして識別できることが分かっている。しかし、ヒゲクジラ類の嗅覚能力は陸上哺乳類のそれと比べてどのような点が退化しているのかについての詳細は明らかになっていなかった。

 今回の研究では、ホッキョククジラ(ヒゲクジラ亜目)の嗅球をOMP抗体で免疫染色して、嗅球上の糸球体の分布を調べたところ、嗅球背側に糸球体が分布しないことが分かった。さらに、クロミンククジラ(ヒゲクジラ亜目)の全ゲノムを世界に先駆けて解読し、ハンドウイルカ(ハクジラ亜目)やウシ(偶蹄目)のゲノムと比較したところ、クロミンククジラとハンドウイルカの両者で嗅球背側に特異的に発現する遺伝子が失われていることも明らかになった。

 嗅球の背側領域を人為的に除去した変異マウスは、天敵や腐敗物のニオイに対する先天的な忌避行動を示さないことが報告されている。今回の研究結果から、ヒゲクジラ類も、進化の過程でこうした忌避行動につながる嗅覚能力を失った可能性が示唆された。また、全ての現生鯨類は、甘味やうま味、苦味を感知するための遺伝子を失っていることも解明された。

 研究メンバーは、「ある変異マウスの嗅球が、クジラ類のそれにそっくりであることに気付いたことが、本研究最大のブレイクスルーでした」とコメントしている。

 なお、この内容は「Zoological Letters」に掲載された。

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