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【コラム 山口利昭】募集株式の有利発行決議の際の理由説明と決議の瑕疵
【2月17日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
2月12日、ファッション通販の夢展望さん(東証マザーズ)が支配権の移動(0%→73%)を伴う第三者割当を実施することをリリースされています(リリースはこちら(http://ir.dreamv.co.jp/ja/irnews/irnews8911431984588959669/TopLink/RedirectFile/%E8%B3%87%E6%9C%AC%E6%A5%AD%E5%8B%99%E6%8F%90%E6%90%BA.pdf)です)。同社を子会社化するのは、あのライザップのCMで有名な健康コーポレーションさんだそうです。今後の業務提携のシナジー効果や株価の帰趨はよくわかりませんが、2月10日の終値が600円程度だったのが、割当価格は192円ということで、かなりのディスカウント価格です。当然、現株式の価値を希薄化するものなので募集株式の有利発行に該当し、3月30日に開催される臨時株主総会で特別決議をもって承認されることが条件となります(会社法201条1項、同199条3項)。
募集株式の有利発行といえば、発行金額が「特に有利な発行価格」にあたるかどうか、という論点が有名ですが、有利発行に当たる場合には、株主総会で取締役が「当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由」を説明しなければなりません。そこで、たとえ決議が成立したとしても、この「理由」が客観的にみて合理性がない場合には株主総会の決議の取消事由となるかどうか、という論点があります。平成26年改正会社法372条の2(特定監査役会設置会社が社外取締役を置かない場合の理由の開示)に近い規定といえそうです。
この論点について(旧商法の時代ですが)鈴木・竹内「会社法(第三版)」(有斐閣)397頁以下では、
「この必要とする理由の有無は株主総会の判断に任された問題であり、理由の開示は株主がその有利発行についての賛否を決する判断材料を提供するためである。したがって、理由を開示しなかった場合、有利発行に賛成するかどうかを判断するのに必要と思われる程度の開示がなかった場合、または事実と異なる開示がなされその結果決議の賛否に影響を及ぼす可能性がある場合には、決議取消の原因となると解すべきであるが、それ以上に進んで開示された理由が客観的にみて合理性のあるものでなければ決議取消の原因となると解するのは妥当でない」
とされています(江頭先生も、割当第三者が議決権を行使しない状況を前提とすれば、ほぼ同様の見解かと)。なお、田中誠二先生は開示された理由が客観的合理性を欠く場合には決議取消原因となるとしており、そのほか、取消原因にはならないが、取締役の責任問題を生じるとする説もあります。
そもそも有利発行をしなければならない状況がある中で、「客観的合理性」の有無にどこまで司法が介入できるのか、という素朴な疑問もありますが(この状況では会社と取締役の間に利益相反構造があるとは言えないと思います)、上記の鈴木・竹内の見解を前提とした場合、「理由の開示はなんでもあり」というわけにもいかないような気がします。20年前と現在とでは、開示内容や開示方法も変わりましたが、それでも争いようによっては、「株主が賛否の判断を行うに足りる説明がなされなかった」とか「説明内容に虚偽記載があった」との理由で決議取消訴訟を提起する、ということも考えられそうです。ただ、有利発行による第三者割当を受け入れなければ債務超過となり上場廃止のおそれあり、といった状況が明らかとなりますと、既存株主側に争うための十分なメリットが必要ですね。
いずれにしても、このような状況において、夢展望さん側の情報開示の真実性や説明の十分性には慎重な配慮が必要ですね。【了】
山口利昭(やまぐち・としあき)/山口利昭法律事務所代表弁護士。
大阪府立三国丘高校、大阪大学法学部卒業。大阪弁護士会所属(平成2年登録 司法修習所42期)。現在、株式会社ニッセンホールディングス、大東建託株式会社の社外取締役を務める。著書に『法の世界からみた会計監査 弁護士と会計士のわかりあえないミソを考える』 (同文館出版)がある。ブログ「ビジネス法務の部屋」(http://yamaguchi-law-office.way-nifty.com/weblog/)より、本人の許可を経て転載。
※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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