産総研、脳損傷で失われた運動機能を肩代わりする脳の変化を明らかに

2015年1月10日 21:30

印刷

運動指令を担う領域の損傷後、把握動作を用いたリハビリにより手の運動機能が回復した。このとき残存する脳領域で損傷した領域の機能を肩代わりする脳活動の変化が生じていた(産総研の発表資料より)

運動指令を担う領域の損傷後、把握動作を用いたリハビリにより手の運動機能が回復した。このとき残存する脳領域で損傷した領域の機能を肩代わりする脳活動の変化が生じていた(産総研の発表資料より)[写真拡大]

  • 脳損傷前(左)と機能回復直後(右)のPET画像。回復直後には損傷前と比べて運動前野腹側部の活動が高まった(産総研の発表資料より)
  • 機能回復後数カ月経過した安定期のPET画像。回復後の安定期には損傷近くの第一次運動野の活動が高まった(産総研の発表資料より)

 産業技術総合研究所の村田弓研究員・肥後範行主任研究員らによる研究グループは、脳損傷で失われた運動機能が、残存する脳領域によって肩代わりされることを明らかにした。

 高齢化の進む日本では、脳卒中をはじめとする脳の損傷は深刻な社会問題となる。最近、脳の回復メカニズムに基づいた新しいリハビリ「ニューロリハビリテーション」が注目を集めているが、回復をもたらす脳の変化についての詳細は解明されていなかった。

 今回の研究では、手の運動機能を担う領域に局所的に損傷を起こさせたモデル動物に積極的なリハビリを行わせた結果、約1ヶ月後に手先の器用な動作を含む手の運動機能が回復した。陽電子放出断層撮影(PET)を用いて、手を用いた器用な動作を行っているときの脳活動を調べたところ、脳の損傷前は第一次運動野を中心とした脳の活動が見られたが、リハビリを行って動作が回復した直後には運動前野腹側部の活動が上昇し、損傷数ヶ月後には損傷近くの第一次運動野の活動が変化していることが分かった。

 今後は、リハビリが脳活動の変化を生み出すまでの詳細な過程を解明し、新たなリハビリ手法や、より直接的に脳の活動を変える脳電気刺激療法、リハビリ促進薬剤の開発、リハビリ効果の評価法の開発に貢献できると期待されている。

 なお、この内容は1月7日に「Journal of Neuroscience」にオンライン掲載された。

関連記事