東大、鉄系高温超伝導体の電子状態を解明

2014年12月2日 14:06

印刷

「s±」型の超伝導ギャップの模式図。図は電子状態を議論する際に用いられる波数空間における超伝導ギャップの大きさを幅で示したもの。正の符号が赤で、負の符号が青で表されている。大部分が正符号を持つ部位と、大部分が負符号を持つ部位とがそれぞれ分かれた構造をとる(東京大学と東北大学の発表資料より)

「s±」型の超伝導ギャップの模式図。図は電子状態を議論する際に用いられる波数空間における超伝導ギャップの大きさを幅で示したもの。正の符号が赤で、負の符号が青で表されている。大部分が正符号を持つ部位と、大部分が負符号を持つ部位とがそれぞれ分かれた構造をとる(東京大学と東北大学の発表資料より)[写真拡大]

 東京大学の水上雄太助教・芝内孝禎教授らによる研究グループは、鉄系高温超伝導体についてこれまで明らかになっていなかった超伝導電子の電子状態を明らかにした。

 温度を下げることで電気抵抗がゼロになる超伝導状態は、BCS理論と呼ばれる理論によって説明されてきた。しかし、近年では鉄系高温超伝導体などの新しいメカニズムによる超伝導現象が発見され、その主となる超伝導発現機構は未解明のままとなっていた。

 今回の研究では、電子線を試料に照射するという新しい方法を用いて試料内部にまんべんなく欠陥(不純物)を作り出し、不純物量が増えるのに従い超伝導電子の数がいったん増加し、次に減少に転じることを明らかにした。

 これまで鉄系超伝導体に対してさまざまな超伝導電子の電子状態の対称性が理論的に提案されてきたが、このような非単調な超伝導電子の数の変化は、磁気揺らぎを媒介した機構で提案された「s±(エスプラスマイナス)」型の対称性を持つ場合にのみ説明できる。

 今回の研究で決定された超伝導の電子状態は、従来のBCS理論とは異なる磁気揺らぎを主な機構とする超伝導において提案されたもので、今後は、より高い温度の超伝導の実現を目指し、この機構を用いた超伝導体の設計指針に繋がることが期待される。

 なお、この内容は11月28日に「Nature Communications」に掲載された。

関連記事