東大、遺伝的性質のわずかな違いが生態系に大きく影響する可能性を実証

2014年10月24日 16:29

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実験生態系を構成する藻類 (クロレラ) と、それを捕食する動物プランクトン (ワムシ)。写真では、藻類はすべて同じように見えるが、重要な性質に遺伝的な違いがある(東京大学の発表資料より)

実験生態系を構成する藻類 (クロレラ) と、それを捕食する動物プランクトン (ワムシ)。写真では、藻類はすべて同じように見えるが、重要な性質に遺伝的な違いがある(東京大学の発表資料より)[写真拡大]

  • 動物プランクトン (ワムシ)の拡大写真(東京大学の発表資料より)
  • プランクトンを材料にした実験生態系のシステム。小さな実験生態系であるが、個体数の変化と進化は右図のようにダイナミックである(東京大学の発表資料より)
  • 似たような実験環境下でも、初期の遺伝子構成が異なると、生物個体数と密接に連動しながら異なる進化が引き起こされる(東京大学の発表資料より)

 東京大学の吉田丈人准教授、笠田実大学院生らによる研究グループは、遺伝的性質のわずかな違いが進化や個体数変化のあり方を大きく変えることで、生態系に大きな影響を与える可能性を発見した。

 生物は個体ごとに異なる遺伝子を持っており、同じ種でも遺伝的な多様性があることが知られている。遺伝的多様性は生物多様性の重要な要素であると考えられているが、遺伝的多様性が具体的にどのように生態系に影響を与えるのかは明らかになっていなかった。

 今回の研究では、藻類(クロレラ)とその捕食者である動物プランクトン(ワムシ)を使って人工的な生態系を構築し、遺伝的多様性が生態系を構成する種の個体数にどのような変化を与えるのかを観測した。その結果、数世代の時間が経過すると、防御コストが低い藻類では防御形質がそのまま進化し、防御コストの高い藻類では防御形質よりも増殖力を高めるように進化することが分かった。つまり、初期の遺伝的性質のわずかな違いが、生態系へ異なる影響を与えるということが実験的に証明され、「遺伝的多様性が存在するか否か」だけでなく、「どのような遺伝的多様性をもっているか」という質的な要素が非常に重要であることも示された。

 今後は、遺伝的多様性の理解をさらに深めていき、感染症や生物管理の現場でも活用されることが期待されている。

 なお、この内容は10月20日に「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」に掲載された。

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