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鈴木裕子の「トーキョー・メンタルクリニック」(3)
【10月16日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
■秘密警察に狙われている!
2012年の調査で、精神科病院は全国で1071施設、精神科病床数は34万2194床である。
これは諸外国に比べ4倍の数であるという。躁うつ病や、知的障害者なども若干はいるが、その病床を占めるのは、ほぼ慢性期の統合失調症患者である。統合失調症患者が71.3万人なのでおそらく、その40パーセント程度は入院しているのではないかと思われる。数年、場合によっては数十年入院していて、退院はほぼ望めない。
なぜ退院できないのかというと、家族が受け入れを拒否するのだ。「秘密警察に狙われている」との被害妄想に基づきバリケードをつくって何年も入浴もせずに引きこもったり、「近所から嫌がらせされている」と近所に迷惑行為をしたり、何度も110番したり、救急車を呼んだり。家族にしてみれば、患者のために肩身のせまい思いをしたり、多大な迷惑をこうむったりしている。
■死んでよかったのかもしれません
ずいぶん前だが、まだ若い女性の統合失調患者で、不必要に毎日のように救急車を呼び、夜間受診する人がいた。入院予約をしていたが間に合わず、あるとき冷たくなって運ばれてきた。自死したのだ。たまたま私がその日の当直をしていて死亡確認をした。
担当医ではなかったが、当直中に何度か診ていたこともあり、なんとか救うことはできなかったのかと、胸が痛んだ。
父親に死亡を告げると、目に涙を浮かべて、「ありがとうございました」と言った後、「死んで幸せだったのかもしれません」とぼそっとつぶやき、肩を落として帰っていった。
家族の辛さを目の当たりにした。患者を精神病院に閉じ込めて知らん顔をしていると、家族に対して憤っていたが、安易に責められないと思った。
統合失調症は、急性期は幻聴や被害妄想により落ち着かなくなり、興奮状態に陥いったりする。しかし時間が経過し慢性期となると、「無為・自閉」といわれる、無表情にぼうっとして、1日中横になってゴロゴロしている状態になる。感情が麻痺し、高尚なことは考えられなくなってくる。家族や同じ病棟の患者が亡くなったとしても、何の反応も示さない。食べて、寝て、排泄し、ただ生きているだけのように見える。
■底知れぬ苦悩に周囲が巻き込まれる
とある精神病院に30歳代の入院患者同士のカップルがいた。両名とも統合失調症である。付き合っていると行っても、外出が許されている日中に、2.3時間、病院のロビーでおしゃべりするだけの間柄だ。あるとき、女性の方が病状が悪化し外出が禁止になった。しばらくすると男性のほうも幻聴が再燃し病状が増悪したのだ。
一見、ぼうっとし、感情がなく見える彼らなので、情緒的に強く結びついているわけではないだろうと考えていたため、とても意外に感じた。
「気が狂っている」と一緒くたにされる精神病だが、病像や重症度は様々で、各々の個性もある。彼らには底知れぬ苦悩があり、それに回りが巻き込まれる。それは本人の責任ではなく、「脳の病気」がそうさせることなのであるが、当事者にとってはそんな説明は何の慰めにもならない。
うつ病については、製薬会社のコマーシャルなどで、かなり認知されたが、現在は薬物療法も進み、内服をしながら普通に社会生活を営んでいる方も多いのに、統合失調症についてはいまだにタブー視されているのが現状だ。
「うつ」のように一般的に広まりすぎ、正しく理解されていないのも問題だが、今後は「精神病」の中核である統合失調症についても、社会の理解が進むことを望みたい。【了】
すずき・ゆうこ/鈴木裕子
平成10年医師免許取得。その後、大学病院、市中病院、精神科専門病院などで研鑽を積み、触法精神障害者からストレス性疾患患者まで、幅広い層への治療歴を持つ。専門はうつ病の精神療法。興味の対象は女性精神医学、社会精神医学、家族病理、医療格差など。数年前より都内某所でメンタルクリニックを開業し、日々診療にあたっている。精神保健指定医、日本医師会認定産業医。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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