東大、ドーパミンの報酬作用機構を解明 依存症などの治療法開発に期待

2014年9月29日 17:44

印刷

動物の報酬学習と関連する神経回路を示す図(東京大学の発表資料より)

動物の報酬学習と関連する神経回路を示す図(東京大学の発表資料より)[写真拡大]

 東京大学の河西春郎教授・柳下祥特任助教らによる研究グループは、「パブロフの犬」の実験などで知られる行動の「条件付け」が起きる分子細胞機構を明らかにした。

 動物が行動を起こした直後に報酬を与えると、その行動が強化される「条件付け」は、行動選択の基本機構として医学的・心理学的にも広く研究・利用されている。また、条件付けの学習では、行動に対する報酬を与えるタイミングが重要であることが明らかになっている。これまでの知見から、神経伝達物質であるドーパミンがヒトや動物の報酬学習に関与すると考えられているが、ドーパミンがどのような機構によって報酬信号として働くかは不明であった。

 今回の研究では、グルタミン酸刺激(2光子アンケイジング法)と光遺伝学を組み合わせることで、ドーパミンが作用するタイミングについて調べた。その結果、グルタミン酸刺激後0.3~2秒の間に報酬が与えられた時のみ、海馬のスパイン頭部が増大し、シナプス結合が増強されることが分かった。この時間枠は、ドーパミン神経細胞の電気自己刺激や報酬と行動を調べた実験で、学習が成立するために報酬を与えなければいけない時間枠とほぼ一致していた。

 このことから、ドーパミンは一定の時間枠においてのみ報酬作用を持ち、動物個体の報酬学習を起こすことが示唆された。

 報酬学習は依存症や強迫性障害などの精神疾患の病態の根幹となっているため、今回の研究を発展させ、快記憶の形成過程や消失過程に関わるシナプスや分子機構を明らかにすることで、これまでとは全く異なる新しい治療戦略を考案できる可能性がある。

 なお、この内容は9月26日に「Science」に掲載された。

関連記事