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政治家に訊く:長島昭久民主党衆議院議員(2)「安倍政権の対北外交は野田政権の延長線上」
【9月11日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
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9月3日に第二次安倍内閣が発足した。岸田文雄外相は留任。懸案だった新設の安全保障担当相には江渡聡徳衆議院議員が防衛相と兼務することとなった。この間、ロシアの軍事的な脅威が高まり、ウクライナ情勢は緊迫化した。また、9月上旬には、北朝鮮の特別調査委員会が拉致被害者の再報告書を提出する予定だったが、状況は不透明なものに。安倍総理は10日、「北朝鮮は正直に誠意をもって全て回答をすることが必要だ」と語った。SFNでは、安倍政権の対アジア外交について、米国の事情にも精通している民主党の長島議員に話を聞いた。
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■北朝鮮交渉は危うい
横田 北朝鮮による拉致被害者や特定失踪者の家族らが署名などの活動を活発化させています。
一部メディアが先行して報じていましたが、7日、山谷えり子拉致問題担当相は「北朝鮮による拉致被害者らの調査報告は、今月中に行われることを期待するが、具体的な時期を言える段階ではない」という認識を示しました。内閣改造前の古屋拉致問題担当相は相当な自信を見せていましたが・・。その古屋さんから、山谷さんに担当閣僚が代わったことも疑問です。
長島 安倍政権の対北外交は、野田政権の延長線上で行われているというのが、私たちの認識です。つまり、安倍政権が交渉で頼っているルートは野田政権と同じなんだろうと思います。
ただし、横田さんが指摘されたように、安倍政権の拉致問題解決に向けた並々ならぬ積極姿勢は他としますが、北朝鮮相手に確たることを断言できる人間は世界広しといえども誰もいいないわけで、あまり自信過剰になってもいけないのではないか。その意味で、今の段階で言えることは、「危うい」のひとことに尽きます。
仰るように、古屋前拉致担当相が非常に自信を持って話していたので、国民やマスコミの期待値がかなり上がっている。傍目から見ていると「失敗は許されない」というところまで、自ら追い込んだ形になっていました。
山谷新大臣も、これまで拉致問題に中心的に取り組んで来られた方なので、私個人は党派を超えて信頼しています。ですから、今回の大臣交代が北朝鮮との交渉にマイナスとなることはないと思いいます。
私もアメリカでの研究者時代には、「朝鮮半島平和プロジェクト」のメンバーでしたし、民主党政権時代は総理補佐官という立場から、外交交渉の裏舞台を目にすることも少なくなかった。北との交渉でとにかく実感したのは、「今上手くいっていても、明日どうなるかは誰にも予測できない」ということです。
結果として、家族会(=拉致被害者家族連絡会)を切り裂いてしまう可能性も否定できません。一番、私が心配しているのは、この問題は「解決」に終わりがないということです。どの段階で「解決」になるのかということが、誰にもわからない。
例えば、今回の日朝間交渉では、拉致被害者だけでなく、北朝鮮に渡った配偶者の問題も全て解決するというけれど、その「全て」の定義が当方でも明確になっていない。特定失踪者の家族から見れば、それこそ、何百人という人たちが戻って来ない限り完全解決とは言えないわけです。
横田 決して北朝鮮の肩を持つわけではないですが、交渉相手として考えた時に、「いったい、日本はどこまで要求してくるのか」という疑問が出てくるわけですね。
北朝鮮の言い分を取材すると、「そもそも02年の小泉訪朝の時に、当時の最高指導者だった金正日が謝罪までした」、「(拉致被害者である)5人は一度戻すという約束だったのに、その約束は破られた」、「約束していた支援米も半分は未納のままだ」という不満の声が断片的に伝えられています。この部分で先ず、相容れない。
■「解決ムード」への変化に疑問
長島 北からすると、そこが交渉の基礎にある。でも、我が方からしてみれば、「誘拐して連れて行って何を言うか」ということになる。相当な隔たりがあるわけです。
その延長で言えば、遺骨の問題でも齟齬がある。北の主張を聞くと「何でもいいから出せと言われたから出したのに、DNA鑑定まで持ち出されて、いちゃもんをつけられた。5人の一時帰国、コメ、遺骨と三度にわたって騙された」という声までありました。
民主党が政権にいた時は、こうした事が尾を引き、大変に厳しい情勢の中でどう交渉の道筋をつけていけばいいのか、大変に悩んでいた。今日の「変化」につながるような期待できる情報も断片的には伝わっていましたが、全体としては行き詰まっていたという方が正確でしょう。
それが、安倍政権が誕生した途端、一気に解決ムードに変わりました。正直、そんなに簡単にいくものなのか疑問です。
とはいえ、北からしてみれば、安倍政権は民主党政権よりも交渉しやすいと考えている節があります。国内政治基盤が安定している分、外交の柔軟性も発揮できると踏んでいるでしょう。しかし、北朝鮮が期待する「外交の柔軟性」は、どこかで妥協しても国内の反発を抑え込めるという点にあるわけですから、決して楽観はできません。
新たな要素があるとすれば、北朝鮮の孤立化がいよいよ深まってきたということでしょう。これは、小泉電撃訪朝の02年と似たような状況です。
今、北朝鮮は、米国や韓国に加え、最大の友好国である中国との関係も悪化している。周辺外交の出口戦略の鍵を持っているのは日本しかないのです。だからといって、日本の外交だけが先走るのはよくない。これまで、北+5カ国で歩調を合わせて協議を重ねてきました。そこで突出した行動をとると、アメリカや韓国との関係がぎくしゃくしてしまうわけです。私が7月に訪米した時、さかんに言われたのは、
「我々も散々騙されてきたけど、日本は大丈夫なのか?」
ということでした。
■拉致問題の解決が核・ミサイル問題の解決にもつながる
横田 日朝間の交渉で日本側は「拉致・核・ミサイル」の包括的解決を目指すとしています。しかし、米・韓は、圧倒的に「核・ミサイル」の比重が高い。日本とは、やや姿勢が違うことが懸念されます。
長島 ワシントンに行って2つ説明をしました。ひとつは、「制裁解除」といっても、核やミサイル開発を断念させるためにかけられた国際的な制裁は解除しないということ。拉致問題をめぐる制裁は、核・ミサイルという国連を中心とした制裁に加えて、日本が独自にかけている部分なので、今回実施された制裁の解除は、国際社会との共同努力に影響を与えるものではない。
もう一点は、「六カ国協議」の中で何が一番の足かせとなってきたのかという問題です。それは日朝間の拉致問題でした。せっかく米中韓露が足並みをそろえて北朝鮮とディールをしようとしても、日朝間の拉致問題が障害となって、六か国が一致した行動を取ることができなかった。
しかし、拉致をめぐる日朝固有の問題を日本が独自の努力で解決することは、抜け駆けでも何でもなく、むしろ北の核・ミサイル問題解決への国際努力を円滑にする効果を持っているのだと。したがって、私が常日頃、外務省に言っているのは、
「拉致問題の解決が、どのように(より大きな戦略的課題である)核・ミサイル開発の解決にも結びつくのかということをきちんと説明するべき。日本としての包括的解決に向けたビッグ・ピクチャーを世界に示し、日本だけが勝手に動いているといった誤った認識を正さねばならない。すなわち、拉致問題を前進させることが、全体を前進させるということを理解させる努力をすべきだ」
ということです。
せっかく、NSC(国家安全保障会議)を作ったのだから、谷内(正太郎)さんを中心に、戦略的な全体図を描いて、韓国とアメリカに説明する努力をしなければならない。それが、今の日本外交に決定的に欠けている点です。
しかも、このたび谷内局長のカウンターパートである米国の安全保障担当のスーザン・ライス大統領補佐官が訪中して、六か国協議の再開を促したようですから、この点は日本外交にとってなおさら重要です。
では、どのような絵を描けばいいのかというと、妙案はありません。
しかし、圧力をかけながら粘り強く交渉して、相手の譲歩を引き出していけばいい。北は人質カードを持っていますが、それを切ってくれれば、日本も大規模な経済支援を行うこともできるはずです。この経済支援カードは、じつは六カ国協議の過程でも西側諸国の「切り札」でした。北朝鮮との外交交渉における最後の切り札は、アメリカでも韓国でも中国でもなく、日本が握っているのです。
そうした、拉致問題だけでなく、核やミサイルの問題でも妥協すれば、北の願う大規模な経済支援や体制支援を得ることができる----そこのディールをうまく日本のNSCが主導して、韓国やアメリカとの共通戦略で実行して行くのです。
日米韓の共通戦略を策定する上でもう一つ障害になっているのが、じつは安倍さんの歴史認識に対するこだわりです。これは、対北朝鮮外交のみならず、東アジアの平和と安定の秩序づくりそのものにおける「ワイルド・カード」になっていますので、今後慎重を要する課題だと思います。(聞き手・SFN編集長 横田由美子)【了】
長島昭久/ながしま・あきひさ
1962年、横浜生まれ。慶応義塾大学大学院卒。石原伸晃衆議院議員公設第1秘書を経て渡米。ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)で修士号取得。米外交問題評議会で日本人初の上席研究員(アジア担当)に。97年夏から「朝鮮半島和平構想」プロジェクトに参画。帰国後、03年、衆議院議員選挙に初当選。現在4期目。民主党政権下では、防衛大臣政務官、副大臣、内閣総理大臣補佐官等を歴任。著書に「『活米』という流儀」(講談社)、「日米同盟の新しい設計図」(日本評論社)等多数。公式HPに長島フォーラム(http://www.nagashima21.net)。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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