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『いまどき真っ当な』投資家道(2)「カリスマファンドマネージャー、日本経済復活の鍵の在処を教える」
【9月6日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
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藤野英人/ふじの・ひでと
ひふみ投信ファンドマネージャー。レオス・キャピタルワークス取締役・最高投資責任者(CIO)。野村投資顧問(現:野村アセットマネジメント)、ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントなどを経て2003年レオス・キャピタルワークス創業に参加。?特に中小型株および成長株の運用経験が長く、23年で延べ5300社、 5700人以上の社長に取材し、ファンドマネージャーとして豊富な経験を持つ。東証アカデミーフェロー。明治大学ベンチャーファイナンス論講師(12年間)公益社団法人スクールエイドジャパン理事。著書に『5700人の社長と会ったカリスマファンドマネジャーが明かす 儲かる会社、つぶれる会社の法則』(ダイヤモンド社)などがある。
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カリスマ的な実績を持つファンドマネージャーとして著名な藤野氏は、コモンズ投信の渋沢健氏、セゾン投信の中野晴啓氏らと共に長期投資を応援する「草食投資隊」を結成し、東証と連携して全国キャラバンなどを展開中だ。投資家教育に力を注ぐ、「『いまどき真っ当』な株式投資」の伝道師のような存在でもある。
前回(http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20140827_1)は、個人投資家が実践に役立つ方法として、「社長を見る」、「会社を見る」という部分にポイントを絞って、お話を伺った。今回は、資本市場改革、指数改革についても論じて貰った。(旅人・SFN特派記者・高山泰三)
■裁判官だけでなく、国民全体の金融リテラシー向上を!
高山 このインタビューが掲載されている、さくらフィナンシャルニュースは司法関係の記事、特に商事事件を扱う東京地方裁判所民事8部の事件も多く扱っています。
最近頻発する、不当廉価TOBについては投資家としてどのようなご意見をお持ちですか?
藤野 そうですね。目立たないけれども、親会社による子会社のスクイーズアウトは小さい会社も含めてかなりあります。「投資家としては頭にくるところ」でしょう。株式投資の復興がないと経済の復興はありえませんし、そのなかで少数株主の権利をきっちり守っていくのは基本的なこと。
極めて重要な事案だと考えています。
高山 昨年のジュピターテレコム(東京都千代田区)や東宝不動産(東京都千代田区)の例もありました。なぜあのような事例がまかり通るのでしょうか。
藤野 まだ、係争中の事件なので、はっきりしたことは判りません。
ただ、日本の資本市場の問題点のひとつに裁判官がマーケットをよく理解していない部分もあるでしょう。
高山 数年前、村上ファンド事件に対して東京地裁が下した異常な判決文の内容に日本中の投資家が慄然としたことがありました。
藤野 鶏が先か卵が先かという部分もありますが、そもそも日本人の金融リテラシーが低いことに、最大の要因があるかもしれません。
日本人の全体の「感覚」が裁判所の判断には反映されがちです。つまり、日本人全体の金融リテラシーを上げなくては、今後も「異常な判決文」は出続けるということです。
高山 もし、藤野さんのファンドの投資先が不当に安い価格でキャッシュアウトされてしまった場合は、具体的にどのように対応されていますか。
藤野 実は、幸か不幸か今までそうしたケースに遭遇した経験がないのです。というのも、そもそもそういう株主軽視の匂いがする会社は根本的に投資先として避けています。
仮に遭遇してしまったとしたら、プレミアムにもよりますが、相当慎重に検討する必要が出てくるだろうなという懸念は抱いています。
■日経平均は死んでいる
高山 話は変わりますが、藤野さんの「日経平均を捨ててこの銘柄を買いなさい」(ダイヤモンド社)という本も熟読させていただきました。はしがきに「日経平均は死んだ」とあります(笑)。
過去の優良企業ではなく、将来本当に成長する企業に投資しなさいという意味だろうと思います。とはいえ、いまだに株価というと日経平均やTOPIXを思い浮かべる方が多いですね。
藤野 指数改革は必須だと考えています。例えば、TOPIX。TOPIXは、時価総額上位の会社が中心です。つまり、その会社のガバナンスに問題があるということになるのです。
少し分かりやすく説明します。
アベノミクス相場直前の2002年から2011年の10年間は「失われた10年」と言われています。この間、TOPIXもほぼ横ばいでした。よく皆さん驚かれるのですが、全上場企業のうち株価が上昇している企業は70%を超えています。
上昇した銘柄を平均して見ると、株価も営業利益も従業員数も倍になっています。しかし、大型株といわれる時価総額3000億円以上の会社は、4%の銘柄しか株価が上昇していないのです。
また、日本を代表する銘柄群で構成されるTOPIXコア30は実に24%も株価がマイナスになっている。
■「サラリーマン経営者」が日本経済をダメにする
高山 こうした事実は、金融庁の官僚も、政府もわかっているのでしょうか。
藤野 そう思います。また、一部のマーケットについて理解している政治家も気がついているでしょう。日本の経済全体を良くするためには、大きな会社のリターンを上げる必要があるので、なんとかしなくてはいけないと思っているのです。
一番わかっていないのが経団連に代表される大企業のサラリーマン経営者達です。
高山 当事者ですから。
藤野 わかってないというよりも、変化を拒んで守旧派になっているという構造があります。彼らは、会社の優先順位として、存続か成長かで比較すると、存続させる方に極めて強いインセンティブがはたらく。
誰もが名前を聞けば知っているような、時価総額30位くらいの会社の社長で、大過なく任期を全う出来れば、引退後も報酬が約束されます、勲章も貰えて、悠々自適に財界暮らしを20年くらいは楽しめる。
現在の日本の大企業の状況は、経営者が新しい分野に投資して、利益が3倍になれば報酬も3倍になるというような構造になっていません。リターンに対する報酬がない上、失敗した時には批判されるリスクばかりが大きい。
だから、キャッシュを過剰に溜め込むという結果につながるのです。
この10年で、日本企業が莫大な内部留保を積み上げてきた背景にはこういう構造があるのです。
経営者の任期が短すぎる点も問題です。リスクをとって投資をしても、投資は結果が出るまでに時間がかかるので、果実を得るのは後任の経営者になる。結果として、「2年から4年という任期の範囲内では投資をしない」、という行動が最も合理的になる。
高山 経営者のインセンティブ構造に歪みがあるのですね。
藤野 それだけではありません。日本人は成長という言葉を使うことを嫌がる人もいて、成長よりもサステイナブルであることに重きを置く価値観が根強い。日本の大企業は孫(正義)さんや永守(重信)さんのようなオーナー経営者は稀で、ほとんどがサラリーマン経営者なので、保守的な経営に陥り易い。
日本が低成長なのは、投資不足が原因です。アメリカや韓国や中国の成長率が高いのは積極的に投資をしているからです。
高山 その構造を変えるのは容易ではない気がします。
■日本復活の鍵は投資による企業選別
藤野 投資を積極的に増やそう、資本市場による選別をしよう----というのが金融庁や財務省、東証、GPIFなどのやろうとしていることです。
JPX400を作りでROE中心にするといった動きは、そういった戦略の一環だと思われます。実際、GPIFも5月に、日本株の運用委託先を見直して、旧来の日系の信託銀行から外資系に切り換えています。これは、インデックスではなくてグロースでパフォーマンスを上げる方向に大きく舵を切ったという意味です。
今後は、単なる大企業ではなくて確実に成長する会社に投資していく方向に変わるでしょう。
高山 それは大きな変化ですね。
藤野 実は、金融庁や財務省は市場原理主義者の集まりです。しかし、相手は民間企業ですから、政策的な介入は難しく、会社法等で規定するのも難しい。
そうすると、資本市場による選別が重要になってくる。
高山 確かに、法律を改正するのは、政治的にも手続き的にも難しい。最近は、スチュワードシップコードやコーポレートガバナンスコードといったソフトローで企業のガバナンス改革を進めていく傾向もありますが。
藤野 スチュワードシップコードの導入は良いことだと思います。女性取締役の比率について新経団連などの民間の団体が努力目標を出すことも良いでしょう。
ただ、本当に資本市場による選別を可能にするには、根本的な構造問題がある。実は、多くの運用会社は大手の銀行や証券会社の子会社なので、パフォーマンスの善し悪しではなく、販売力=資金量になってくる。すると、運用会社も良いパフォーマンスを上げるというインセンティブが弱い。
パフォーマンスの良いところに必ずしもお金が集まる構造になっていないので、市場による選別が機能していないのが現状です。
独立社外取締役についても疑問がある。私は独立取締役を導入すればするほど、サステイナブルな経営の方に傾く恐れがあるとすら思っています。
無難な公認会計士や弁護士などを半分置物化して、保守的な経営者を追認するだけになる危険性が高いのです。
高山 そういうリスクは否定できないと、私も感じています。
藤野 ガバナンスの形態や、女性比率云々という形式的な問題よりも、実質的なところで株式市場を通じた資本による選別が進むことが日本経済復活のカギになるでしょう。【了】
たかやま・たいぞう/旅人・SFN特派記者?1976年、東京生まれ。米国ワシントン州公認会計士・文京区議会議員(民主党所属)。立教大学法学部卒、早稲田大学大学大学院修了。大学卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)にて中小企業向け融資業務を担当。個人投資家として数社に対する株主提案の共同提案者となり、増配や社外取締役の選任を促す等の成果を得る。区議会議員としては監査委員等を歴任。
ひふみ投信とは:「できるだけ安いコストで幅広いお客様の資産形成を長期にわたって応援したい」という思いをこめて2008年10月にスタート。「守りながら増やす」をコンセプトに成長する日本株に投資し、高い成績をおさめ続け、株式会社格付投資情報センター(R&I)が選定する「R&I ファンド大賞」を投資信託/国内株式部門で3年連続受賞している。
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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