政治家に訊く:山崎拓元自民党元副総裁(2)「習近平の抱く、中華民族の偉大な復興という夢」

2014年7月10日 09:05

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【7月10日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

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 中国と我が国との関係は未だかつてないほど、「最悪な状況」に陥っている。米中の関係も悪化の一途をたどっていると言われている中、両国は9〜10日に、両国間の懸案を閣僚級で話し合う戦略・経済対話を北京で開いた。中国は南シナ海への進出を強めているだけでなく、アジアに国際金融期間を設立し、独自の経済圏をつくる動きを見せている。日本の対中外交戦略が問われている。SFNは、外交・安保問題の専門家でもある山崎拓元自民党副総裁に、5回にわたりインタビューを行った。前回記事は、政治家に訊く:山崎拓元自民党副総裁(1) 「安倍政権が引き継いだ対中外交負の遺産」(http://www.sakurafinancialnews.com/news/9999/20140703_1)

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●安倍政権に対する牽制

 横田 米中戦略・経済対話に先駆けた7日、習近平中国国家主席は、中国人民抗日戦争記念館を訪れて、全民族抗日戦争勃発77周年記念式典に参加したことが報じられました。
 
 山崎 7月7日は抗日戦争の導火線となった盧溝橋事件(七七事変)が起きた日です。安倍政権に対する牽制と見ていいでしょう。

 現状を冷静に分析すると、日中の政治関係が非常に悪い状態になっているために、経済や文化、観光、その他の面で不利益が生じているということです。中国が経済の発展を目指していることは誰が見ても間違いない。米国での経済対話では、雇用や投資の促進に向けた協調を演出するでしょう。

 日本からの対中投資の伸びも強く望んでいます。マルクス経済学によれば、経済が「下部構造」で政治は上部構造になっています。日中関係は政治が「下部構造」で、経済が「上部構造」なのです。それが日中交流全般に悪影響をもたらしている。

 とはいえ、中国は国レベルでの交流は避けていますが、地方自治体との交流は重視しています。今夏には、九州・沖縄の全県知事が中国に招待を受けていると聞いています。また、現政権とは外交政策で距離のある国会議員には声を掛けているそうです。
 
 横田 7月3〜4日には訪韓して、朴槿恵大統領に「中国と韓国が共に帝国主義を戦った仲間である」と述べ、「中韓歴史認識同盟」構築を意味する提案をしています。

●歴史認識が招いた不信

 山崎 習国家主席が安倍総理に対して不信感を抱いている最大の理由は「歴史認識にある」と言っても過言ではない。

 安倍総理が、「(太平洋戦争で)あたかも中国に対する侵略はなかった」かのような国会答弁をしたことがあり、中国を激しく刺激してしまった。また、これだけ外遊に出る総理大臣も珍しいのではと思うほど安倍総理の外遊は多い。中国側から、「間違った歴史認識をまき散らしている」とか「中国包囲網を敷こうとしている」という疑念が出てくるのも、ある意味、仕方がない。
 
 それに、中国にとって、「侵略戦争はなかった」というような歴史認識は、耐え難いことです。いわゆる「南京大虐殺」も、総理に近い右翼言論人は否定している。これは数の問題ではなく、ひとりでもふたりでも女子供を殺したら、それは「虐殺」になる。非戦闘員を殺すことは国際法上、禁じられているわけですから。

 数の問題に戻せば、30万人は大げさにしても3000人でも大問題でしょう。何人殺したかの問題ではなく、「歴史の事実を隠蔽しようとしている」と、中国に感じさせていることが問題なのです。日本は、侵略戦争を認めて、それを前提として極東裁判が行われた。そして1951年9月8日に、サンフランシスコ平和条約が結ばれた。侵略行為は歴然としています。

 実際、日本軍は中国大陸の上で戦ったのですから、侵略以外の何ものでもないでしょう。

 2013年3月17日の習国家主席の就任演説では、「中国の夢」という言葉を何度も使い、

 「中国の特色ある社会主義事業を前進させ、中華民族の偉大なる復興という夢の実現のために奮闘しましょう」

 「中華民族の偉大な復興という夢を実現することは、国家の富強、民族の振興、人民の幸福を実現することだ」

 と、述べています。

 つまり、アヘン戦争(1840〜42年)以来、列強に干渉・侵略された屈辱の歴史を取り返すという意味なのです。

 靖国神社参拝の問題は、歴史認識と深く噛み合っています。小泉(純一郎)元総理が靖国参拝をしても、中国との間にここまで激しい亀裂が入らなかったのは、中国は小泉元総理の歴史認識は必ずしも間違っていないのではないかと理解していたからです。ところが、

 「安倍総理は歴史認識が間違っているだけでなく、日中・日韓首脳会談をやらずに、中国を悪者に仕立てようとしている」

 という疑念を中国は抱いている。それが北朝鮮を飛び越えてまで、韓国に急接近させた原因にあるような気がしてならないのです。

 横田 中国はなぜ「自国の包囲網がひかれている」と考えたのでしょう。単に外遊が多いからという理由ではない気がします。

 山崎 中国側は、安倍外交は「価値観外交」と称して中国包囲網を自由民主主義陣営でつくろうとしているのではないかと疑っている。たしかに中国は民主主義ではないし、言論の自由もない。だから価値観で包囲網をひこうという考え方は以前からありましたが、ちょっと無理な気がします。

 それに加えて、集団的自衛権の問題があります。この話は長くなるので次回に譲りたいと思います。(聞き手・SFN編集長 横田 由美子)【了】

 やまさき・たく/近未来政治研究会最高顧問?1936年生まれ。福岡県立修猷館高校卒業。 早稲田大学第一商学部卒業後サラリーマン生活などを経て 1967年に福岡県議会議員に当選。1972年の総選挙で衆議院議員初当選。以後、12回当選。防衛庁長官、建設大臣、自民党政調会長、自民党幹事長,自民党副総裁などの要職を歴任。柔道6段、囲碁5段。?2012年、秋の叙勲で旭日大授賞を受章。HPにYAMASAKI TAKU OFFCIAL WEBSITE(http://www.taku.net)がある。

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