【コラム 山口亮】第三局の政治家に捧げる「みんなの党が壊れた理由」(下)

2014年7月10日 11:28

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【7月10日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

●声にして、初めて認識が広がる


  みんなの党の議員諸氏は、労働市場や資本市場の政策は、難しい論点だから、一般の有権者にはわからないと思うかもしれないが、そんなことはない。小泉純一郎首相が90年代前半に「郵政3事業の民営化」を主張していた時、その意味を理解できるマスコミ関係者や一般の有権者はいなかったはずだ。声をあげて、初めて認識されていくのであって、ポピュリズム的な主張の繰り返しでは、限界がある。

 我が国の若者が不幸だと思うのは、労働市場政策を主要政党の誰も主張していないという点である。世界の投資家が日本市場に懐疑的なのは、資本市場政策の具体的な実現が、到底シンガポールや香港の市場を凌駕できるような改革が行われるとは、期待していないからだ。

 みんなの党の議員諸氏には、まず労働市場改革については、八代尚宏氏の『労働市場改革の経済学』(東洋経済新報社、2009年)などを参照にしてほしい。資本市場はより難しい論点だが、イギリスの証券市場からお雇い外国人を雇用してもいいくらいだ。労働市場の問題にまともな発言を行っていたのは、政治家では中川秀直氏がはじめてだったと思うが、なぜみんなの党の議員ではないのか、残念で仕方がない。

なお農業政策において大規模農業やFTA(自由貿易協定)を推進することや、持続可能な財政政策、事業申請完了までの期間の長さや必要とされる個別手続き数、土地投機や建築許可の取得などの事業活動に係るコストを削減すること、育児サービスの分野での新規参入と競争を制限する規制を取り除くこと、非効率な徴税システムの是正、法人税を引き下げること、都市部での住居表示制度の構築などは、政策の方向性として主張するべきだが、これら分野での政策形成においても、みんなの党を含む第三局の存在感は、あまりない(推奨されている政策については、星岳雄・アニル・K・カシャップ著『何が日本の経済成長を止めたのか―再生への処方箋―』(日本経済新聞出版社)2013年を参照)。

 個別分野について、別稿に譲りたいが、第二次安倍政権の対応も不十分だと言わざるを得ないので、本来であれば、第三局の頑張りを期待したいところである。

 そもそも、渡辺党首時代のみんなの党の政策形成は、全般に経済学者の高橋洋一氏の影響が過度に強いことが明らかだった。政党の役職もなく、議員でもない人物が、その他のチェック機能もなしに、これほどまでに一政党の政策決定に影響力を与えているというのは、異常だったと思う。

 公務員制度改革は確かに必要だが、議員の政策秘書の人員がほとんどおらず、法案や政策形成に対して、チェックできないのも問題だ。特にみんなの党の政策面での躓きを鑑みると、シンクタンクを機能させる制度的基盤を整える議員立法も必要と感じる。

 また「国会議員がまず身を切れ」などという主張も、問題の本質を見誤らせるので、いい加減やめるべきだ。小コストで、同じ結果が出れば問題はないが、実際には議員歳費や官僚に支給される給与は、国会財政の中で占める割合は微々たるものでしかない。

 財政赤字の主因は社会保障関係の予算の膨張なので、議員定数や議員歳費を削減しても、本質的な解決策にはならないことは、少し数字をみる能力のある有権者なら、容易に気が付く。資本市場改革や労働市場改革など、経済の効率化にとって必要なはずの真剣な議論を回避して、ポピュリズム的主張だけ繰り返していても、これ以上の多数派にはなれないのは当然だ。

 また実際に政治家などのパブリック・セクターに、優秀で志のある人材が目指すような、制度的な基盤がなければ、優秀な人材が選抜される仕組みとはならない。ゴールドマン・サックスのような外資系企業で頭脳労働して、1億円の年収を稼いでいる人が、今度はパブリックな領域で活躍したいと真面目に思った時に、政府の幹部人事や政界を真面目に目指せるような待遇やキャリアパスを実現できるよう、制度的環境を整えるべきだ。

 実際に、みんなの党の議員や候補者は、主流政党から少し外れた人材が多く、政策理解能力などに問題があるように感じられる。どのように政党が人材リクルートを行い、その中での選抜する仕組みを構築するのか、ぜひ橋下徹氏や江田憲司氏のご意見を拝聴したい。

●第三極の政党には最低限のガバナンスもない


 決定的に第三局の政党に不足しているのは、政党としての最低限のガバナンス(統治)だ。自民党の政治家には、地方議員出身者が多く、官僚出身者でも、自民党時代の仕組みを体感していれば、陳情の受け方、捌き方というものをある程度は心得ている人が多い。民主党も、労働組合出身者の中には、候補者に選抜されるまでに、一定の競争がある。

 みんなの党を含む第三局の議員の大半は、そもそも有権者や様々な団体(業界団体だけでなく、NPOなども含む)からの陳情の受け方とか、それを政策形成に反映させる仕組みについて、無知・無理解もいいところだ。もし第三局の議員が、子分は馬鹿がいいと考えているのであれば、組織としての成長はそこで止まる。

 そもそも政党に限らず、まともな組織は、どのように人材を獲得し、採用された人に一定の技能・能力形成する機会を与え、幹部登用する道をひらき、どう後継者への継承を行うかなどについて、ある程度の仕組みが備わっている。日本電算やソフトバンクのようにカリスマ的な創業者がいて、なお成長している会社は確かにあり、いい点もあるが、自民党はすでに、「創業者」の強いリーダーシップから離れて、システムとして人材が流入し、一定の選抜がされ、政権が運営される体制になっている。

 実際に、みんなの党でも、ある時期からは、公募で優秀とされる候補が応募してこなくなったと聞く。ホワイトカラーで知的水準も高い人物が、政治家という職業を目指すかと言えば、待遇や、落選した時の状況などを考慮すると、よほど志が高い人以外でも躊躇するだろう。それでもと思う人は、自民党から出馬しようという結論になりがちだ。

 その背景には、みんなの党をはじめとする第三局の政党が、まともな統治能力を持っているとは思えないので、現状だと、まだ自民党の方がいいという消極的な理由だからだ。「政党のガバナンス」の問題を、第三極の当事者だけでなく、政界関係者はすべて、今一度、冷静に考えて、解決策を考えてみる必要がある。シンクタンクや政策秘書の充実に関する議員立法だけでなく、今後の政党ガバナンス関連の政策提言も必要になる。

(以上は、【コラム 山口亮】第三局の政治家に捧げる「みんなの党が壊れた理由」(上)からの続きです。)【了】

 やまぐち・りょう/経済コラムニスト
1976年、東京都生まれ。東京大学経済学部卒業後、現在、某投資会社でファンドマネージャー兼起業家として活躍中。さくらフィナンシャルニュースのコラムニスト。年間100万円以上を書籍代に消費するほど、読書が趣味。

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