【小倉正男の経済羅針盤】「あまロス」症候群と岩手県

2014年7月7日 09:47

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

■「あまロス」にどう立ち向かうのか

  昨年は、NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」に沸いた岩手県――。主演の能年玲奈の人気は爆発的だった。だが、さすがに「あまちゃん」ブームがずっと続くわけではない。

  「あまちゃん」の放送が終了した後、視聴者は「あまロス」症候群に陥ったといわれた。

  天から降った「あまちゃん」ブームに救われた岩手県なのだが、こちらも深刻な「あまロス」症候群に見舞われた模様――。

  そのテコ入れなのか、岩手県の達増拓也知事は物産、観光の情報発信特使に俳優・村上弘明氏を就任させた。村上氏は、岩手県陸前高田市出身で、地縁からの起用ということである。

  知事が、物産や観光などでトップセールスを行うのは、東国原英夫・前宮崎県知事が知られている。

  こちらは口八丁手八丁の芸能人の手法であり、簡単には誰もマネのできないものである。

  岩手県の達増知事は、外務官僚、衆院議員からの転進であり、地道に物産・観光にテコ入れを図る方針を採用するしかない。

  岩手県としては、何とか知恵をめぐらしたのだろうが、はたしてこの成否はどうだろうか。

■パラダイムシフト=競争を意識しない地方は生き残れない

  地方自治体が、物産販売や観光客誘致で他の地方自治体と競争するのは悪いことではない。そのはしりが、各地方自治体の「ゆるキャラ」による地域興しキャンペーン、あるいは「ふるさと納税」などなのだろう。

  本来、地方自治あるいは地方分権とは、「うちの地方は税金が安くて住みやすい」、例えば「相続税や法人地方税、個人地方税が安いから、他の地方から移り住んでくれ」、ということである。

  住民の福祉や選択の自由――、競争を意識しない地方は、生き残れない時代がいずれ到来するとみられる。

  地方自治体は、いまだに「独占事業体」でアグラをかいているが、競争原理が導入されていく必要がある。地方がそれぞれ競争すれば、住民は住みやすくて、納得できる地方を選ぶことができるようになる。

  税金を当たり前のようにむさぼる地方自治体には、耳が痛いことだが、住民から敬遠される。そうしたパラダイムの大転換が、地方に迫っている。

■物産、観光がとりあえず競争の主役

  岩手県は、ようやく大震災による沿岸部のガレキ処理が完了――。応急的な仮設住宅から恒久的な住宅に移れるような取り組みを進める段階にある。学校、病院といった社会的インフラの復旧・復興も加速させていかなければならない。

  「岩手県がいまどうなっているのか、強力に情報を発信・展開していく」と達増知事。岩手県としても大震災の風化が深刻に懸念されており、それと闘う必要がある。

  恐縮ながらその昔の田中角栄内閣による列島改造時代――。私の新人記者時代だが、盛岡市の県庁で、当時の千田正・岩手県知事(故人)に単独でインタビューしたことがある。   千田正知事は、弁舌がなんとも面白い、人気のある名物政治家だった。当時は、地方は工業団地などを整備して、製造業=工場を誘致するのがメインのアジェンダだった。

  いまや製造業はグローバル展開で、地方に工場はなかなか建たない。物産販売、観光がとりあえずの競争の主役に変わっている。いまの岩手県の使命・立ち位置は、大震災からの復興もあるが、地域経済を盛り立てなければならない。

  おざなりな地域興しイベントや記者会見でお茶を濁して地方をPRするような手法では、地方が生き残れない時代に入ろうとしている。

  各地方自治体には、天地が引っくり返るようなパラダイムシフト=コペルニクス的展開になるが、「競争」というものを深く認識すべきである。(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。

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