【経済分析】日銀の「2年で物価2%」は無理(3)

2014年5月26日 16:53

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【5月26日、さくらフィナンシャルニュース=東京】

ここで問題にしなければいけないのは「デフレ」ではなく「低成長化」の方です。「物価」はあくまでも「経済」を構成する一因子であり、経済のありようによって物価は決まってくるものです。人の体にたとえれば、血圧が高めの人もいれば低めの人もいるのと同じです。「デフレ」がダメだというのはちょうど、血圧が低めの人に対して「血圧が低いからもっと上げなければいけない」と言っているのと同じです。普段から血圧が低い人はその血圧が健康体を維持していくのにちょうど良い水準なのであり、低血圧の人に血圧を上げる薬を飲ませると逆に体がおかしくなってしまいます。経済もそれと同じで、「デフレ」は低成長の経済にとってバランスがとれるちょうど良い物価水準なのであり、デフレが低成長の原因になっているわけではありません。同じ先週の『エコノミスト』に、日本大学教授の水野和夫さんが、「デフレも低金利も経済低迷の元凶ではなく、資本主義が成熟した帰結である」と書いていましたが、まったくそのとおりだと思います。

日銀が金融緩和によって物価を2%に上げようとする行為は、たとえていえば健康な低血圧の人に血圧を上げる薬を大量に飲ませているようなもので、いずれ体が不調をきたすことになります。

不思議なのは、黒田総裁自身が「デフレの原因を特定するのは容易ではない」と述べていることです。デフレの原因はよくわからないけれども、デフレは悪いものだから退治しなければいけない、というわけです。ちょうど、低血圧の人に向かって、「血圧が低い原因はわからないけれど、血圧が低いのは良くないので上げなければいけない」と言っているようなものです。これでは、病気の本当の原因がわからないのに、「これは効くはずだ」と考えた薬を大量に処方している医者と同じです。

「デフレ」も、その原因である「低成長」も、金融緩和では到底解消されない以上、物価の長期的なトレンドから見ても、「2年以内に2%」という日銀の物価目標は難しいと考えざるを得ません。

日銀は、以上のような2つのハードルを越えることができないという現実にいずれ直面することになると思われます。まず先に超えなければならないのは、「景気回復の持続」という一つめのハードルですが、このハードルを越えられず、異次元の金融緩和によるデフレ脱却が幻想であったことが明らかとなる日がやってくるのはそう遠くないかもしれないと考えています。【了】

のだせいじ/埼玉県狭山市在住の在野エコノミスト
1982年に東北大学卒業後、埼玉銀行(現埼玉りそな銀行)入行。94年にあさひ投資顧問に出向し、チーフエコノミストとしてマクロ経済調査・予測を担当。04年から日興コーディアル証券FAを経て独立し、講演や執筆活動を行っている。専門は景気循環論。景気循環学会会員。著書に『複雑系で解く景気循環』(東洋経済新報社)『景気ウォッチャー投資法入門』(日本実業出版社)がある。著者のブログ『私の相場観』より、本人の許可を得て転載。

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