【コラム 山口亮】社外取締役導入は万能薬にあらず(中)

2014年5月6日 12:47

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記事提供元:さくらフィナンシャルニュース

【5月6日、さくらフィナンシャルニュース=東京】前回コラムでは、上場企業の社外取締役のポストが、高級官僚や弁護士らの天下り先になりがちだという現状を指摘した。

この点では、社外取締役万能論からは一線を画している週刊誌メディアは、きちんと報じて感心する。

例えば、『週刊ポスト』(2014年5月9・16日号)は、「東証一部企業に官庁、日銀OB等が役員などで667人が天下り」とするタイトルの記事は、こんな内容だ。

「安倍政権下で進む官僚の天下りラッシュの実態」

「トヨタ、キヤノン、新日鐵住金など名だたる企業がやむを得ずポストをつくると、待ってましたとばかりに高級官僚たちがその役員の椅子に座り、“華麗な転身”をはかっている」

 実際に、天下り的な老齢の高級官僚が社外取締役になるよりは、家庭の事情などでキャリアを中断していた若い30代、40代の女性などを、一定の訓練を受けることを条件として、積極的に登用することも考えていいと思う。
別に、落選している過去官僚でも、老齢の高級官僚よりは、はるかに社外取締役としての適性が高いことが多いのではないだろうか。

もっとも、社外取締役の過半数は、「独立社外取締役」であるべきだ。

昨今、種類株主総会の決議を取消しとされたアムスクのように、あまり社会経験もなさそうな、「二代目社長の妻を社外取締役候補にしていた」ケースは、到底「独立社外取締役」とは言えないだろう。それこそ、家庭内不和でも起きれば、最強の社外取締役になる可能性もあるが、会社の取締役会から提案されているならば、まず身内側だ。

日本では、利益相反関係への配慮が、社会の中で自覚的に意識されることがないのではないか。

そういった意味では、まず取締役にとっての「独立性」と言う概念を、日本社会に即して、今一度、きちんと解釈する必要がある。
高級官僚の行動原理は、メインバンク出身者と同じように、出身母体に再就職先を斡旋してもらうのが、従来の慣行(もちろん例外はあり、形式面だけで判断するべきでないことは言うまでもないが)であり、高級官僚が出身官庁との関係で「独立性」があるとは到底思えない。

当該会社の取引先や、監査法人出身者、メインバンク出身者などは、当該会社の(少数)株主の方を向いておらず、出身母体の利益を優先する傾向にある。つまり、これらの取締役は「社外取締役」であっても、「独立」ではないとするのが、米国などでのコーポレートガバナンス論の結果だ。日本で議決権行使助言を行っているISSやグラスルイスなどの会社の、議決権行使助言ポリシーも、同じ考え方に則っている。

米国では73年に法制化された、ERISA法(Employment Retirement Income Security Act:従業員退職所得保障法)によって、機関投資家には、実質的に投資先会社の株式に対する議決権行使を義務付けられている。
議決権行使実務の担当者は、議決権行使助言会社のレポートを参考にして議決権行使を行うケースが一般的だ。しかし、官僚の天下りとしか思えない取締役候補に対して形式的に「独立性」があるとして、選任議案賛成の議決権行使助言を画一的に行うとすれば大問題でになる。

現在のようなことが続けば、日本のコーポレートガバナンスは向こう10年は停滞するだろう。

実際に、ISSやグラスルイスなどの議決権行使助言は、官僚出身者を「独立性」があるとして、一般に問題にしてこなかった。ぜひ議決権行使助言会社や機関投資家の実務担当者には、官僚出身者の「独立性」については、画一的にではなく、慎重に検討してもらいたい。

もし霞が関が、天下りが増えたと喜んでいるとすれば、それも大きな誤算になる危険性がある。

日本の会社法では、取締役の責任は重く、一歩間違えると代表訴訟や損害賠償請求訴訟の被告となってしまう。例えば実際に最近のケースでは、ほんの一瞬だけ社外取締役を務めただけの的場順三氏(元大蔵省、第1次安倍内閣官房副長官)は、代表者が逮捕されるなどしたホッコクの中国人投資家グループから代表訴訟の提起を受けて、東京地裁民事8部で証人尋問された。

日本振興銀行の社外取締役を務めていた平将明衆議院議員(自民党・前経産省政務官)も、現在は民事訴訟の被告の立場だ。児玉幸治氏(元通産省事務次官)は、株主提案を招集通知に不記載にした損害賠償事件で同じく被告となっている。

法律で規定された善管注意義務、忠実義務は、それなりに重いものであり、あまり代表訴訟で被告側が敗訴しないのは、あくまで裁判所がそのような運用を解釈で行っているのにすぎず、最高裁事務総局の方針が気持ちだけでも変われば、取締役の責任を次々と認定する判決がでてもおかしくない。【続】

 やまぐちりょう/経済評論家
1976年、東京都生まれ。東大経済学部卒。現在、投資会社でファンドマネージャー兼起業家として活躍中。年間100万円以上を書籍代に消費するほど、読書が趣味。

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