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郷原信郎氏、激白!「誤りを認めず、無謬性にこだわる厚労省の体質が年金行政を混乱させた」(上)
【5月3日、さくらフィナンシャルニュース=東京】
郷原信郎(郷原綜合コンプライアンス法律事務所代表・元総務省年金業務監視委員会委員長)
ごうはら・のぶお/1955年、島根県出身。東大理学部卒。83年に検事任官。長崎地検次席検事などを経て、03年からは桐蔭横浜大学大学院特任教授を兼任。06年に退官し、郷原綜合法律事務所を設立。関西大学客員教授。防衛省公正入札調査会議委員等多くの公職に就く。
----脱サラ被保険者の主婦年金、いわゆる「運用3号」問題はじめ、厚生労働省年金局や日本年金機構に対し、年金に関する重大な問題を追及してきた総務省年金業務監視委員会が今年3月末で廃止された。2010年、社会保険庁が廃止され、年金業務は日本年金機構にしたことを機に、年金業務全般を監視する目的で設置された8条委員会であった。4年間、委員長を務めた弁護士の郷原信郎氏は、今、この委員会を廃止することで厚労省の体質に根差す年金業務にまつわる様々な問題が、今後、水面下で蓄積されていくことを危惧している。ジャーナリストの川村昌代氏が、年金行政の混乱ぶりについて聞いた。
●年金行政に関する監視はどうなる?
川村 年金業務監視委員会が総務省に置かれたのは、なぜだったのでしょう。
郷原 かつて総理府の外局で行政管理庁という行政機関に対する監察や評価を担っていた庁がありました。これが現在、総務省に統合され、行政評価局となっているわけですが、年期業務監視委員会は、その諮問機関として、2010年に、国家行政組織法8条に基づき設置された、外部有識者によって構成される機関です。
厚労省や日本年金機構の年金業務を、第三者による機関が、国民の目線を踏まえた外部者の観点から監視することが委員会設置の目的です。
川村 今後、年金行政に関する監視はどうなるのでしょうか。
郷原 昨年12月、突然、総務省の行政評価局長が私のオフィスを訪れ、遠慮がちにこう言ったのです。
「今後は厚労省の社会保障審議会に、部会として第三者機関を作り、そこで審議してもらう。総務省は年金問題から手を引くという方向です」
私は、それで本当にいいのだろうか、と思いました。
この4年間で年金業務監視委員会が扱った問題の中には、年金機構の現職職員や社会保険労務士が、「現場ではおかしい、不公平だ」と思っている矛盾を厚生労働省が取り上げてくれないから、我々に問題を指摘してきたものもありました。それを厚労省が事務局になっている審議会の、厚労省の息のかかった有識者で組織される部会で、どうやって指摘できるのか。
その後、開催した委員会の場でも、私は、年金業務監視委員会が、それまで果たしてきた役割を考えた時、現時点で委員会を廃止することが適切なのか、という意見を言いました。
川村 郷原さんたちが委員会で取扱った問題は、どのようなものだったのでしょうか。
郷原 ひとつはサラリーマンの専業主婦にかかる年金、いわゆる「運用3号」問題です。
厚生年金などに加入しているサラリーマンは2号被保険者。その扶養家族である主婦は、3号保険者といって、保険料を払わなくてもいい。旦那さんの払っている保険料にトータルで含まれていることになっていて、主婦の年金は保険料を払わなくても、年金がもらえるという制度です。
●重大な不公平
ところが、旦那さんが脱サラすると、サラリーマンの厚生年金から国民年金に移行し、1号被保険者になる。同時に、奥さんは、2号被保険者に付随した3号被保険者の資格がなくなってしまう。このため、主婦も自分で1号被保険者に変更する手続きをして、それ以降は、自分の保険料も払わなければならない。それが、年金記録上3号保険者のままになっていて、旦那さんは1号保険者になっているのに、奥さんの方は3号のまま、まったく保険料払っていなくても将来年金がもらえるような扱いになっているという人たちがたくさんいた。
これを、2010年12月15日、突然、厚労省が出した課長通知で、払っていなかった保険料を2年分払えば、全額年金がもらえるという取扱いにしたのです。
しかし、そういう措置は、保険料を払っていないのに年金がもらえるようにするということで、明らかに国民年金法に違反するものですし、それ以前に年金裁定請求をして保険料を払っていたいという理由で受給資格を失っていた人や最初から真面目に保険料を払っていた人との関係で、重大な不公平が生じてしまう。
我々、年金業務監視委員会は、社会保険労務士の指摘でこの問題を取り上げ、当初、厚労省は、「課長通知は違法ではない、問題はない」と言い張っていましたが、委員会として総務大臣に意見具申し、国会で追及されたこともあって、課長通知は廃止され、立法措置がとられました。
もう一つの大きな問題は、時効特例給付をめぐる問題でした。
●時効特例法で現場が混乱
これは日本年金機構の現職職員から委員長の私宛の内部告発でわかったのです。本来、年金にかかる時効は5年。第一次安倍政権下で、消えた年金記録問題などが表面化し、膨大な数の年金記録の訂正を行うことになりました。
ところが、年金記録を訂正しても、5年消滅時効が完成していると救済されないことになり、国民からの批判に耐えられない。そこで、急遽、時効特例法という法律を成立させて、記録の訂正があった場合は一切時効を適用せず、全部払う、ということにしたのです。その法律を、2007年7月の参議院選挙に間に合わせようとバタバタで一気に作ったので、法律があいまいになってしまい、どの場合、どの範囲まで救済したらいいのかはっきりしなかった。
その点の基準も定められておらず、現場はものすごく混乱しました。
そうした案件については、年金機構から厚労省年金局に「疑義照会」という問い合わせをしても、きちんとした対応をしない。途中で解釈を変更した場合、それより以前までの取り扱いとの不公平が生じるても放ったらかし、という状況であることが明らかになりました。
この問題についても、当初、年金機構は「問題はない」と言い張っていましたが、年金業務監視委員会側から、運用に不統一・不公平があった可能性があるのではないかと指摘されて、最終的には、外部者中心の調査委員会が設置され、その報告書も公表されて、機構も厚労省年金局も相当な反省を迫られ、内部処分も行われました。【続】
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※この記事はSakura Financial Newsより提供を受けて配信しています。
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