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【小倉正男の経済羅針盤】「日銀が泣いている」という心境か・・・
■「銀が泣いている」、阪田三吉ではないが・・・
「(ワテの)銀が泣いている」、将棋界の鬼才・阪田三吉が大一番で残したといわれるセリフである。
「進むに進めず、引くに引かれず――」、攻めに強い銀も打ち方を誤るとにっちもさっちも行かなくなる。
このセリフが出た関根金次郎(後に名人)との大勝負では、最終的に阪田三吉が勝った。阪田三吉は泣きを入れたが、銀はしぶとく活かされた、ということだ。
対局している相手の駒の陣形配置と、そして自分の駒の陣形や動き、つまり全体の攻防のなかで、銀が活きたり死んだり、そして泣いたりする。
強い駒である銀も使いようである。使い時を間違うと、何にもならない。
いまそんな心境にあるのは、あるいは日銀の黒田東彦総裁かもしれない・・・。
■第3の矢=構造改革が見えない
日銀・黒田総裁は、昨2013年4月に「異次元」といわれる量的・質的な金融緩和を行った。為替は円安に大きく振れ、株価は一気に上昇した。その効果は絶大で、「日銀バズーカ」と評された。
「どうやら日本は、アベノミクスによるデフレ克服に本気だ」、と内外に受け止められた。「日本は変わる」――、そうしたメッセージの嚆矢となったわけである。
黒田総裁は、「兵力の逐次投入はしない」と語った。小さく刻んだような数回におよぶ金融緩和策は採らない。やるなら一気に一括でやる――。それは奏効した。
しかし、バズーカ砲の効果はあっても、それに続いて陸軍兵団が一挙に進撃しなければ、効果はいずれ限定的で一時的なものになる。
異次元の金融緩和に機を合わせて、規制緩和などの構造改革を並行してやる必要がある。
ところが・・・。その第3の矢=構造改革らしいものは、何らほとんど見ることができなかった。
アベノミクスのトータルな工程ということでいえば、残念なことだが「日銀バズーカ」の絶大な効果がそこで寸断された。
■「日銀が泣いている」の所以(ゆえん)
アベノミクスでいえば、「日銀バズーカ」は単発的な効果に終わっている。アベノミクスとしては、それこそせっかくの機を逸した感が否定できない。
「日銀バズーカ」は、第1の矢として、為替(円安)、株価に十分な効果をもたらした。しかし、肝心のデフレ克服には、どうしても第3の矢=構造改革が不可欠である。
「日銀」を効果的に使う。それによって敵の王将をチェィスする陣形をつくる。相手の王将を詰むのはほかの駒たちである。望まれるシナリオはそうしたものだった――。
だが、第3の矢=構造改革(TPPなどの結果としての構造改革も)がなかなか放たれない。マーケットが、日銀の金融緩和第二弾を過剰なまで期待するのは、ここに真因がある。
第3の矢が見えないために、マーケットの期待が金融緩和第二弾にねじれてしまっている。「日銀バズーカ」の再発動で、せめて為替、株価にテコ入れしてくれ、と――。
「日銀が泣いている」――、筆者がそう思っている所以(ゆえん)がそこにある。
■「日銀バズーカ」再発動は早期ほど効果が出る
4月の消費税増税、これによる景気反落は必至だ。さらなる消費税増税スケジュール(来15年10月8%→10%)をにらんで、景気テコ入れ策がどうしても求められることになる。
「日銀バズーカ」再発動は、おそらく早期に行われるとみられる。やるなら拙速に断行するほうが効果を極大化できる――。
景気を見極めてからおもむろに再発動、では手遅れになり最悪になりかねない。
レイテ戦の決戦で生き残った戦艦・大和が、大勢決した沖縄戦に出撃するといった再発動では効果は大きくは出ない。
やるなら早期――。機を逃せば、また再び「日銀が泣いている」という結果を招くことになる。
(経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職。『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』(PHP研究所刊)など著書多数) (情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)
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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。
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