【小倉正男の経済羅針盤】振り返れば「財政の崖」--オバマの内向き行動

2014年4月7日 09:29

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

■見て見ぬ振りでクリミア編入を黙認?

  ロシアのクリミア半島の事実上の支配・制圧に対して、アメリカもNATOもさほどでもない経済制裁を行うのみである。

  アメリカもNATOも、「ウクライナやクリミアに軍事支援・介入も辞さない」といった牽制すら行わなかった。 オバマ大統領は、「アメリカはウクライナで軍事行動に関与しない」と早々に表明――。

  冷静にというか客観的に言えば、これではロシアのクリミア編入=軍事支配を「黙認」したに等しいのでないか。

  ロシアは、ウクライナを威嚇するように国境沿いに大軍団を集め、長々と軍事演習を行っている。しかし、一方でプーチン大統領は当初から「ウクライナへの軍事介入は望まない」としてきた。

  いま世界は見て見ない振りをしているようなものだ。 クリミア問題の長期化――、暗黙のうちにロシアのクリミア編入で手打ち、事実として「休戦」状態に入ったということになる。

  アメリカ、EU、そしてロシアもそうだがカタストロフィは避けたい――。無理もないのだが、株式、為替といった世界の金融マーケットも大破局・大混乱を嫌った。そうした経過から直近のNYダウは史上最高値圏に上昇を果たしている。

■「尖閣有事」でアメリカは動けるか

  日本では早速のこと、尖閣諸島で有事となってもアメリカは動かないのではないか、という見方がささやかれている。

  それこそ、アメリカにとっての「集団的自衛権」の問題である。だが、少なくとも確かにあまり動きたくないのは目に見えているように思える。

  アメリカの心の底には、(日本と中国が争う人も住んでいない島ごときで何故――)という思いがあっても不思議ではない。「日米同盟」というが、それは抑止力として有効だが、現実となれば一筋縄ではいかないのでないか。

■「財政の崖」=膨大な財政赤字のツケ

  オバマ大統領を「内向き」にしているのは、膨大な財政赤字にあるとみられる。

  アメリカの財政赤字は、リーマンショックの2008年から1兆ドル接近という膨大な額となった。2009年~2012年は1兆ドルをはるかに大きく超えるものとなり、2011年8月には米国債は格下げショックに見舞われている。

  アメリカは「財政の崖」に転落しないために巨額の財政赤字を削減する必要に迫られる事態になっている。

  ウクライナでも、そしてシリア問題を抱える中東でも、アジアでも、おカネが膨大にかかることにはいまや踏み込めない。内向き、消極姿勢を採るしかない。

  アメリカがアフガニスタン、イラクなどに「介入」していったのは、アメリカが「1人勝ち経済」で経済・財政がまだ隆々としていた2000年代前半のことだ。「介入」、「戦争」もおカネがあっての話で、使い果たせば内向きにならざるをえない。

■石油価格に左右されるロシア経済・財政

  かたやロシア経済・財政は、石油、天然ガスを輸出し、自動車、家電などの工業製品を輸入する形態――。

  ロシアは、中東の戦争・内戦などの緊迫や混乱、中国の経済勃興による石油ガブ飲みなどに大きく救われてきた。石油価格が超高値圏で推移、この間はその恩恵をずっと受けてきている。

  ロシアの「復活」――、ロシアの経済・財政は比較的に順調にきていたといえる。 だが、ようやくソチ冬季五輪への建設投資などで財政圧迫の傾向が見られるようになっている。

  そこに加えて今回のクリミア半島への全軍上げての軍事行動である。

  ロシアにとってもクリミアへの軍事行動は、自分の首を締め上げることになる。軍事行動の長期化は避けられず、長期になればなるほどズシリと自らに不利になる。

■ロシアは新たな「凋落」に向かうか

  ロシアの「復活」は、束の間に終わる可能性がある。クリミアへの軍事行動を境に「復活」は終焉、坂道を転げ落ちるのではないか。

  世界経済に変調が起これば、それこそ一気に悪化――、新たな「凋落」が始まりかねない。

  クリミア問題の影響や警戒から、ロシアへの外国資本投資が先細るどころか、ロシアから資本が逃避する事態もありえる。

  それに中国経済が「高成長」から、「中成長」、「低成長」に向かえば、需給の緩和から石油価格もさすがに低下せざるをえない。アメリカの金融緩和縮小の本格化は、確実に新興国経済に打撃を与える。

  世界経済の多難な先行きから見て、ロシアが石油、天然ガスで稼げる余地はどこから見ても狭くなる。ロシアも、アメリカと同じように経済・財政が比較的よい時に動き回り、悪くなってその厳しい咎めを受けることになるのだろうか。 (経済ジャーナリスト&評論家・小倉正男=東洋経済新報社・金融証券部長、企業情報部長などを経て現職)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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