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NIMSが金を含む新しい超伝導体「SrAuSi3」の合成に成功
あるAnonymous Coward 曰く、 物質材料研究機構(National Institute for Material Science; NIMS)が、主成分に金が含まれる新しい超伝導体SrAuSi3の合成に成功した(プレスリリース、マイナビニュース)。SrAuSi3では、従来型の超伝導体とは違うメカニズムによって超伝導が発現している可能性があるという。
普通の超伝導は、クーパー対と呼ばれる電子のペアの量子力学的な位相が揃うことで発現する。具体的には、結晶中を運動する電子と、結晶格子を構成する陽イオンの相互作用 (電子-フォノン相互作用) によって、結晶中を運動する2つの電子に間接的な引力が働き、2つの電子がクーパー対を作る。もともと電子はフェルミ粒子なので、通常は結晶中の最もエネルギーの低い状態 (基底状態) に多数の電子が落ち込むことはできないが、2つのフェルミ粒子からなるクーパー対はボーズ粒子なので、多数のクーパー対が同時に基底状態に落ち込むことができる。温度を下げていき、超伝導転移温度に達すると、基底状態に落ち込むクーパー対の数が劇的に増え、多数のクーパー対の量子力学的な位相が揃い、結晶全体が量子力学的な状態となるため超伝導が発現する。これが電子-フォノン相互作用による普通の超伝導である。
電子-フォノン相互作用によってクーパー対が形成されるためには、空間的な反転対称操作に対して、結晶中の電磁場が不変でなければならない。いっぽう、結晶場の空間反転対称性が破れており、かつ重い元素を含む系では、スピン-軌道相互作用と呼ばれる力が電子に対して強く働くことが知られており、最近ではスピン-軌道相互作用によっても超伝導が発現する可能性があることが話題となっている。すでに、CePt3Siという、空間反転対称性が破れており、かつ重い元素Ptを含む物質で超伝導の発現が報告されている。今回NIMSは、対称性の低い結晶構造をもつと考えられ、かつ重い元素Auを含むSrAuSi3を初めて合成し、確かに超伝導が発現することを確かめた。
詳細プレスリリースによると、NIMSはAu、Si、SrSi2を、60,000気圧、摂氏1,500度の下で化学反応させることで、SrAuSi3を合成した。超伝導転移温度は1.6ケルビンだった。
今回のような「空間反転対称性の破れた系における超伝導」の発現は基礎的にも興味深いが、応用的にも重要となる可能性がある。従来型の電子-フォノン相互作用による超伝導では、常磁性破壊効果と呼ばれる効果によって、強い磁場をかけると超伝導が壊れてしまうため、コイルの線材として超伝導体を使った数10テスラ級の強力な電磁石を作ることはできなかった。そのような超強磁場を作り出すためには、一度しか使えない上に瞬間的な磁場しか発生させることのできない破壊型の電磁石を用いるのが一般的である。一方、スピン-軌道相互作用由来の超伝導体は、従来型よりも外部磁場に強いことが期待されるので、安定な非破壊型超強力電磁石を作製できる可能性がある。ただ、今回合成されたSrAuSi3では、軌道破壊効果という別の効果によって0.2テスラ程度の弱い磁場をかけただけで超伝導が壊れてしまっており、さらなる研究が求められている。
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※この記事はスラドから提供を受けて配信しています。
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