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本に載らない現場のノウハウ-中小企業の人事制度の作り方:第13回 評価制度の検討(6)(1/2)
今回は、「評価制度」の留意事項について、まとめていきたいと思います。
■ 中小企業の課題-鉛筆をなめたがる経営者や上司
まずは前回のコラムで述べた「決めた手順やプロセスを実行しない」という問題についてです。
これは、どんな企業であっても多少はあるものですが、特に中小企業の場合は、現場の人たちよりも経営者や上司といった組織の上位の人たちから先に、手抜きや我流の運用を始めたり、前のやり方に勝手に戻したり、自分に都合の良い方法にアレンジをしてしまうことが往々にしてあります。
それまで経営者や管理者の裁量で評価を決めているような会社も多く、当事者はなかなかその感覚から抜けられないようです。このあたりの手順を制度で決めようとすると、自分たちの権限を奪われたとばかりに怒りだす人もいます。
自己流アレンジの理由を聞くと、だいたいが「評価とその反映結果である給与額や賞与額の整合を図るため」とおっしゃいます。その中身を突っ込んで聞いていくと、「彼は頑張ったから、もうXX円プラスしよう」「彼は前に比べて上がりすぎだからXX円減らそう」など、要は最終的な金額を見て自分の感覚と合うように、とにかく鉛筆をなめたいということのようです。また、社員にとってもそれが良いことだと思っています。
確かにお金がいっぱいあるわけではない中小企業ですから、500円、1000円でもその差は大きいでしょうし、原資の有効活用のためと思えば、そんな個別調整も一概に悪いことばかりとは言えません。自分の頑張りを見てくれていたとやる気を増す社員もいるでしょう。
その一方での問題は、その500円、1000円を足したり引いたりした理由と、その金額が妥当なのかどうかを誰も説明できないということです。完全な個人の主観になるからです。鉛筆をなめる当事者は、その調整によって公正さが増すと思っている節がありますが、権限を持った者が説明できない評価をするということは「恣意的で公正ではない」ということを自覚する必要があります。
中小企業の場合は、大企業のようにきっちりした決まりでは動きづらい面がありますが、何でも個別の裁量で動いていては、そもそも制度化する意味がありません。結局はどこまで制度で決めて、どこから運用に任せるかというバランスの問題で、各社の事情で判断していくしかありません。
このあたり、制度上ではこの個別調整の余地は残しながら、裁量の範囲(金額や調整幅など)に一定の制限をかけたりしていきますが、裁量を持つ人たちから意外に強く抵抗されることがあります。制度の主旨を考え、筋を通そうとしたが圧力に耐えられなかった人事担当者をずいぶん見てきました。
根拠なく鉛筆をなめるような制度運用は、好ましいことではありませんが、権限を持つ人にそういう意識が少ないと、対抗するのはなかなか難しいものがあります。中小企業、オーナー企業などの場合はなおさらそうです。
こんな中でできることとすれば、社員の多くを巻き込んで、多数意見で権限者に理解してもらうことです。そして多くの人を巻き込むためには、情報公開と共有が重要になってきます。外部人材をうまく使っていくのも一つの方法です。少々政治的な駆け引きが必要な場面もあるかもしれません。
作り上げた制度を当初の想定通りに運用することが難しい会社は確かにありますが、決して焦らずに、なおかつあきらめずに取り組んでいっていただきたいと思います。
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