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【近況リポート】テクマトリックス:医療分野のクラウド展開を聞く
クラウドを提供するテクマトリックス <3762> (東2)は、医療業界で画期的な技術を活かした事業を展開している。医用画像などの医療情報をクラウド上で安全に保管・利用できるサービス「NOBORI」と、子会社の「医知悟」による遠隔画像診断のITインフラ提供サービスの開発・販売。これらのサービスは医療業界のニーズに合致しており、急速に普及していくものと見られる。今回は、テクマトリックス取締役・医療システム事業部長の依田佳久氏に近況などを聞いた。
――医療システム事業について、個人投資家の皆さんに分かりやすく、ご説明をお願いします。
「医療システムというと幅広いですが、その中でも医用画像を中心に取り扱っています。事業開始から15年近くになり、国内では約300の病院等施設(以下「病院」という。)に、医用画像システムを提供しています。これまでは病院自らコンピュータやサーバを買って、病院内にシステムを置く必要がありました。壊れれば自分達で直す必要があります。しかし、当社が今年9月からサービスを開始した「NOBORI」というクラウドサービスを使えば、病院は大型のサーバを持たずに同じサービスを受けられ、故障対応の追加費用も発生しません。」
――病院では初期費用が少なく済むのですね。
「病院にはCT、MRIなど検査画像が沢山ありますが、このような装置の人口当たりの保有率は、世界でも日本が1番です。この装置が患者1人の身体から1,000枚もの画像を取り出します。昔はフィルムでしたので、それだけでも多額の費用が発生しました。現在ではフィルムがデジタルデータに置き換わっています。「NOBORI」では、ここで発生する大量の画像データを全てお預かりし、PCのモニター画面で、先生と患者さんが一緒に画像を見られるようなサービスを提供しています。病院は医療サービスを提供して、2ヶ月後に支払機関から医療費を受け取ることで、運営されている組織といえます。従って大きな設備投資をするには外部からのファイナンスが前提です。そこで、我々が設備投資をしてクラウド上にデータ保管場所を設け、病院には使った分だけ月額で請求させていただきます。全国約9,000ある病院のニーズに合致したサービスと言えます。」
――病院にとっては有難いサービスを提供していますね。
「昨年、大震災が発生し、病院の建物が流されるとか、壊れるとか、火事になるとか、電力不足でデータセンターが停止するとか、色々なリスクが明らかになってきました。また、インターネット接続ができなくなるといったリスクもあります。そのため、「NOBORI」では60ヘルツと50ヘルツの2つの電力周波数帯それぞれに、データセンターを置いています。かつ1つのデータセンター内で、病院からお預かりしたデータを2重化しています。1枚の画像をお預かりしたとすると4重のコピーを作って別々の金庫にしまうのと同じです。データの保存性はかなり高いといえます。」
――そうするとセキュリティはしっかり保たれていることになりますが、費用の問題はいかがですか。
「同一のサーバを設置することを考えれば、病院の中にサーバを立てても、病院の外に立てても費用は変わりません。安くするためには、どの病院でも利用できる大きな仮想スペースを作って、共同利用する形にする必要があります。データセンターを利用する事業者は、一般的にデータセンターのサービスを買う場合がほとんどですが、我々は場所だけ借りて、中の仕掛けは自分達で組み立てています。広いITの世界の中で、クラウドストレージではアマゾンが圧倒的に1位です。人には笑われると思いますが、我々が今やろうとしていることは、真面目にアマゾンと勝負することです。たまたまその適用分野が医療情報というだけです。」
――NOBORIという名前の由来は。
「NOBORIという名前は、「のぼり雲」という言葉に由来します。空高く昇ってゆく雲、またその雲が昇ってゆく様を表しています。自然界で空気や水が循環するように、大切な医療情報をクラウド環境に安全に保管し、共有して社会の共通知へと高め、病院や患者さんに還元するという循環を、どんどん昇華させていく、そうした願いを込めています。 お預かりするデータは医療情報を含む個人データですので、通常はプライバシーを守りたい。ところが、医療情報は少し変わっていて、個人の利益もありますが、大量のデータを集めると、例えば病状に対する薬の効果といった統計情報になり得ます。この性質は医療情報の公益性といえます。我々はこのサービスを使って、個人に有益な情報をお返ししていきたいのです。 ヘルスケア分野で情報サービスを行っている企業は実は限られます。我々は最終的に、預かっているデータを個人が必要とするときに自身の意思で利用可能にしたいのです。中国では外来患者について、病院にはデータの保存義務がなく、自分で持って帰ります。インドも同様で、子どもが一人生まれたときに大きな鞄を買うそうです。かかった病院のファイルやフィルムを全部その鞄に入れます。どの病院に行くかは自分で選択し、そこに信頼できる先生がいれば、そのファイルを見せて診断してもらいます。しかし、日本では診療データに対しては法律で病院に保存義務が存在します。自身に関わる情報でありながら、個人による医療情報の取り扱いは、かなり制限されています。従ってまず我々ができることは、共通インフラで医療情報を集めて、個人に対するサービスを準備することだと思っています。」
――NORORIの競合について教えてください。
「2010年の2月1日に厚生労働省から通達が出て、民間企業が医療情報を預かることが可能となりました。また、今年、2012年4月のガイドライン改訂により、複数施設のデータを巨大な仮想ストレージに保管することが可能となり、これに基づき医療情報のクラウドサービスが誕生しています。市場そのものが始まったばかりです。競合には従来は医療機器(CT、MRIなど)を販売している企業群、また医療用フィルムを病院に納入していた企業群など超大手ばかりです。ところがこれらの大手企業はクラウドサービスを提供することに関してはむしろ遅れています。我々は3年前からこの準備をしてきました。クラウドへの方向転換とサービス提供の準備では、国内はもとより世界を見てもかなり先行している自負があります。このまったく新しい市場を世界で見ると、北米の最も先行している企業でも、累積の保管データ量が1ぺタバイト(1ペタは1の千兆倍)という報告があります。我々は3年で2ぺタの情報をお預かりする目標です。また、ユーザ施設は来年3月までに50に達する予定です。来年度末までに200ユーザが目標です。今まで15年間で300ユーザでしたが、NOBORIのサービスに対して、急激に引き合いが伸びています。クラウド化により、競争ルールそのものが変わって行きます。IT企業に、よりチャンスが拡大していると捉えています。」
――クラウドのサービスに関しては、御社が圧倒的に先行しているということですね。
「そうですね。我々はこれに加えて、医療情報を保護するためのセキュリティに力を入れています。当社では病院からお預かりした情報を暗号化して、更に一旦バラバラに分割して無意味な断片データに変え、病院で使うときに瞬時にそのデータを集めて元の情報に戻す、という技術(秘密分散法)を応用しています。この技術で分割されたデータはもはや個人情報ではないとの見解もあり、医療業界を問わず注目されています。この技術を医療クラウドに使っている当社サービスのセキュリティレベルは非常に高いものとなっています。」
――セキュリティも万全の体制と言えますね。その他に何か御社独自の技術がありますか。
「はい。病院で簡単に導入できるよう、高性能コンピュータの入った小さなボックスを開発しました。例えば、大学病院で取扱う情報量は、年間数テラバイトと膨大なので、従来は大型のコンピュータを設置する必要がありましたが、NOBORIでは小型のボックスを数個置くスペースがあれば対応できます。また、中身はハードディスクを一切使わず、メモリーだけで作られておりますので、障害が起こりにくいです。当社では過去10年間ユーザ対応の履歴を全てデータベース化しています。障害の95%がハードディスク由来であった分析と経験を活かしたものです。更に、万一、ハードウェアに障害があっても、ボックスを入れ替えるだけで運用の復帰が可能なのです。 機能面で優れているところは、全データを病院から離れたデータセンターで預かりながら、NOROBIでは病院内でどの画像が利用されそうなのかを先読みして、予めデータセンターから取り寄せることで、短時間でデータを閲覧できることを可能としています。これもITの世界に身を置く我々が、独自に開発した技術です。 現在、リリースしたばかりのNOBORIに対して、取り扱いを希望されるパートナーも増えています。専用のボックスの設置だけと簡素化されていることから、従来であれば採算が合わずシステム導入を控えていた小規模な医療機関への展開にも道が開けてきています。」
――このボックスは全部クラウドと繋がっているということですね?
「そうです。全てがインターネットで繋がります。当社のセンターで見ていて、どの病院向けのボックスが動いているか、データがどのくらい入っているか確認できます。CT、MRI等の画像の他、顕微鏡画像、遺伝子データ、手術動画も預かって欲しいとの依頼もあります。また、病院に営業に行くと画像についてはNOBORIを使うが、電子カルテのデータも預かってくれとの依頼もあります。現在、病院のデータの法定保存は5年です。しかし、多くの医療機関では10年間、さらに長い機関のデータを保存しています。例えば病院での保持期限を越えた時点からは、個人がその費用を負担して、自身のデータを維持するという選択肢が出てくるかもしれません。」
――そうすると病院から預かるデータ量は今後もますます増えますね。
「当社としては、預かるだけでなく、ゆくゆくはそのデータを共通の統計データに例に変えて、如何にして公益のために還元していくか、ということを視野に入れています。医学も科学ですので、統計に根ざすべきと考えます。例えば、肺がん検診、胃がん検診は自治体別で行っています。その結果、精密検査を受けた方が良いですよと判断される基準が、地域によってかなり異なっている可能性もあります。我々はデータを集めることで、統計的なアプローチから、医師の判定を支援することもできると考えます。データを保存するだけで終わるのではなく、医療現場でデータを有効活用できるようにすることが求められています。」
――業績については、どのような見通しを持っていらっしゃいますか?
「医療部門の売上高は、しばらくはやや減少する傾向となり、その後着実に増加していく想定です。これはクラウドビジネス全般に言えることかと思いますが、今まで一括で売り上げていたものを、サービス期間に応じて按分して計上するため、一時的に売上が減少し、その後、取扱件数の増加とともに売上が増加していきます。このような一時的な副作用はありますが、当社としては、将来の継続的・安定的な成長のために、このビジネスモデルの変革に敢えて取り組んでいきます。今まで、病院に納めていた機器をクラウドに変えたことで、料金モデルが安くなり、病院としては使いやすくなる。蓄積したデータを共通化することでメリットを還元し、更にここで扱ったものを個人に対して直接サービスを行うという変化を、クラウドサービスを提供する中で実現していきたいと考えています。」
――そうですね。事業の社会貢献ということも重要視しなければなりませんね。
「NOBORIを始めた時このようなボックスで大丈夫ですか、試験は行っているんですか、という話をいただくこともありました。実際にはこの事業を今年の4月にアナウンスして、9月からサービスの開始をしました。しかし、実は当社ではこの事業より5年先行しているビジネスがあります。これが遠隔画像診断という分野です。2007年8月に子会社として合同会社「医知悟」を設立しました。当社が95%出資して5人の専門医と作ったのですが、医療に対して継続的に、絶対誠実に向かい合おうということで、出資比率に拠らず先生方に多くの議決権がもてる会社を設計しました。設立メンバの医師の皆さんは、実際に日々の医療業務をされている先生方で、寝る暇もないくらい忙しいのですが、2ヶ月に1回は必ず集まります。その会議で、どのようなサービスをしなければならないのかを話し合っています。」
――医療にかかわる事業ですから、現場で働く医師の考えを尊重し、積極的に取り入れる方針ですね。
「そうです。日本には病院は約9,000あります。世界でもCT、MRIの導入率が一番高いことは先ほど述べたとおりです。画像診断を専門とする認定された医師は約5,000名程度です。しかし、実際の医療現場では業務の掛け持ちで、本当に画像診断に専従できている医師の実数は約3,500と言われています。従ってCTは保有しているが、画像診断の専門医師のいない病院が沢山あります。これは変えるべきだと思いました。如何に供給を需要に合せていけるかお手伝いしたかったのです。そのためのシステムを作って、1回分のCT検査の画像を1件送ったらいくらという費用負担だけで利用可能な、通信の支援をするシステムとしたのです。 医知悟では小さなボックス(NOBORIとは違うもの)を病院と画像診断をする専門医側(オフィス、自宅等)の両方に設置します。そして、病院で撮影した画像を遠隔地にいる専門医に送り、専門医が診断した結果をレポートにして病院に送り返す仕組みです。このビジネスを開始した時、同じモデルで行っているところは全くありませんでした。例えば、先生方を自社で抱え込んで画像診断するサービス企業は複数ありました。しかし、医知悟はどの先生に読んでいただくかは、病院任せです。院長先生が良く知っている地元の専門医に頼めれば、それに越した事はありません。契約者の医師が、1件いくらで診断されているかも一切関知していません。ただ通信のインフラを提供して、1件分の検査を送信したら100円というモデルを目指したのです。」
――遠隔画像診断で医療問題の解決に役立っていますね。
「調査会社のレポートでは、2012年全国ベースで病院が月間で28万4,000件の遠隔診断を依頼しています。そのうち当社が8万2,000件ですので、マーケットで3割弱のシェアとなります。依頼件数のシェアでは日本で1番です。医知悟を利用しているのは画像診断専門医の数が550人から600人です。また、医知悟のボックスを置いている病院は約300です。最初の3年間は赤字の計画でスタートしましたが、先期より黒字化しており、今後も増収増益を見込んでいます。」
――これほど伸びている要因はどこにありますか?
「順調に伸びていますが、需給バランスで見るとまだまだ足りない状況です。実は撮影されたにもかかわらず、専門医により診断されていない画像は沢山あります。医知悟ではこれを改善することに貢献したいと思っています。先ほど件数ベース3割のシェアと申しましたが、インターネットを介して送受信されているデータ通信量は、国内最大の病院での画像発生量をはるかに超えています。医知悟で数える依頼1件には、数千枚の画像が含まれる場合もあります。過去の検査画像も添付しても追加の費用はいただきません。それは診断の精度を維持することが目的だからです。NOBORIのサービスに先行して、これだけ大量の医療情報をインターネット経由で、送受信管理する実績を5年間積んできたのです。全ユーザが共通の通信ボックスを利用していますから、ソフトウェアのバージョンアップも一斉に自動配布可能です。これにより低価格のサービスが実現可能となっています。このサービスに対しては、海外からも引き合いがあり、海外への進出を目指しています。すでに英語等の主要言語への対応も完了しています。」
――御社の活動が、現在の医療現場で必要とされていることがよく分かりました。長い時間有難うございました。(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)
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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。
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