我々の住む宇宙はコンピュータシミュレーションの中には存在しえない

2012年11月6日 17:24

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記事提供元:スラド

insiderman 曰く、 「私たちの住む宇宙は、誰かがコンピュータの中で作ったシミュレーションの世界だったんだよ!」という設定の小説などはいくつかあるが、私たちの住む世界はコンピュータシミュレーションではありえない、という答えが出たという(GIZMODO)。

 元記事であるMIT Technology Reviewの記事ではもう少し詳しい背景が説明されている。そもそもの発端は、我々の世界は量子色力学という、量子どうしの相互作用によって支配されているという点だ。もしこの量子色力学をコンピュータ上でシミュレートすることができれば、我々の住む宇宙をシミュレートできる可能性がある。現実的には、量子色力学は非常に複雑であるため、世界最高レベルのスーパーコンピュータを使ったとしても数フェムトメーターの世界しかシミュレートできない(1フェムトメーターは10-15メートル)。しかし、このような制限はコンピュータの性能向上によって解決できる可能性がある。だが別の問題として、コンピュータで量子色力学を完璧にシミュレートできるのか?という疑問もある。

 これに対し、独ボン大学の研究チームが「Constraints on the Universe as a Numerical Simulation」(数値的シミュレーションによる宇宙の制約)として、一定の答えを述べている。まず、現実世界の物理量というのは連続しているが、コンピュータでシミュレーションを行う場合、これらは離散的な値でしか扱えない。そのため、コンピュータシミュレーションによる世界では現実の世界(連続的な世界)とは異なる挙動をするものがあるという。

 たとえば、物質を構成する微粒子の位置座標に対し離散的な制約を課すと、その粒子が持つエネルギー量に関する制約が生まれてしまう。そうすると、たとえばある一定以上の高エネルギーを持つ宇宙線は存在できず、また角度ごとに(そして立方体状の対称性を持つように)エネルギースペクトラムの偏りが発生してしまうという。

 実は、このような高エネルギーを持つ宇宙線の減衰については、「GZK限界」という同様の現象が予言されている。ただし、これは宇宙線が光子との衝突によって減衰するためだと言われていた。しかし、技術の発達により、現在ではGZK限界を超える宇宙線を観測できるようになり、スペクトラムの偏りも観測可能だ。つまり、これらを観測することで「我々の住む宇宙がシミュレーションかどうか」を判断できるという。

 ただし、これはあくまで離散的な数値シミュレーションによって宇宙を構築しようとした場合の話であり、まったく異なる方法論でのシミュレーションであれば、このような制約は現れないかもしれない。また、離散化の粒度をもっと細かくした場合、我々の持つ現在の技術では違いを観測できないという。

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