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ブランド見聞録:ブランドはマーケットを勝ち抜く経営ツールです:第10回 中小企業のブランド戦略(2)
ブランドというと欧米が本家本元のような気がしますが、私は違うと思っています。日本の商家が守り続けてきた“暖簾”と“看板”いう考え方は顧客に対する“信頼感”の証であり、まさに“ブランド”そのものなのではないでしょうか。
■古くから、日本はブランド先進国だった
以前のコラムでも述べたように、ブランドの正体は“信頼感”です。そして、それはターゲットに対する“情報”と“経験”から生まれます。伝統ある“暖簾”や“看板”を守り、創業数百年を超える長寿の老舗企業は、欧米より日本の方が遥かに多いはずです。と考えると日本こそがブランド先進国であるとも言えます。長年にわたって外資系広告会社でブランド戦略の重要性を徹底的に叩き込まれた私が言うのですから間違いありません(笑)。
“暖簾”や“看板”に傷をつけないように商いを続ける。これは四方を海に閉ざされた小さな島国だからこそ、隣近所の“信頼感”を損なわないように暮さないと、生きていけなかったという現実も影響しているのかも知れません。惜しいのは“家訓”や“家法”と呼ばれ、ブランド戦略のように余り日の目を浴びなかったということです。
歴史ある老舗といえども、現在のマーケットに対応しなければ生き残れません。例えば創業490年を超える和菓子の「虎屋」でさえ、80年ぶりに製品のモデルチェンジをしたり、2003年に六本木ヒルズに新業態の「トラヤカフェ」をオープンさせたり、時代性とマーケットを読んで先んじています。
■ブランド構築に際して、何を残し、何を捨て去るのか
虎屋で参考にしたいのが、老舗にとって大切なのは単なる歴史や仕来りではないということです。要は伝統あるブランドとして何を残し、何を捨て去るかです。実は老舗だけではなく、先回のコラムでも述べた事業承継をする企業はもちろん、新たに創業する企業も、大企業も、中小企業も同様に、まずブランドの核として何を選択し、戦略を策定するのか重要なのです。
以下は、20年以上続いている、あるエステサロンのコンサルティング前の戦略の一部です。このエステサロンは事業承継を前に、お客様の年齢層が高く、リピート率の低さに悩んでいました。
●メインターゲット:50代の女性
●ブランドキャラクター:優雅で上品
●ブランドメッセージ:シミ・シワ専門のエステサロン
女性がエステを選ぶ基準は、①クチコミ②料金(コストパフォーマンス)③大手チェーン④高級店という調査データがあります。そこで新たなブランド戦略を策定する際に考えたのは、クチコミとリピーターを増やすために、サービスのメニュー構成と価格設定を見直し、メインターゲットを“30代後半”の女性にして、ブランドキャラクターも“若々しく、親しみやすい”に変え、ブランドメッセージも“シミ・シワのないピュアな笑顔をあなたに。”にしました。 さらに、もっと若い層を狙うためにサブブランド化を図り、多店舗展開している内の幾つかの店名を変更。よりリーズナブルな価格設定を提案しました。
女性はいつまでも若く、美しくいたいものです。ターゲットを30代後半にしたとしても、いまの50代の方は絶対にいらっしゃいます。何故なら、決してご自身を50代とは自覚していないからです。また、コストパフォーマンスが良くなれば、エステサロンの敷居が低くなり、来店するリピート客も若い層も増えるでしょう。若い層が増えれば、ネット上のクチコミも自然と増えるはずです。
■実を伴わないブランドは絶対に成立しない
次に問題になるのがサービスの質です。要はブランドとして“信頼感”を得るための“情報”と“経験”の後者にあたる技術と接客のクオリティのアップを図らなければなりません。“情報”の方はちょっと頭を働かせれば、様々な方法が思いつきます。しかし、“経験”となると実を伴わなければなりません。
そこで、このエステサロンではクレドを作成してスタッフ内に浸透させると共に、接遇マナー講師によるセミナーの実施を提案しました。後は経営陣と店舗スタッフのやる気次第です。
はじめてコンサルティングを依頼する中小企業の中には、すべてをコンサルタントがやってくれると勘違いしている経営者の方が少なからずいらっしゃいます。コンサルタントはあくまでもサポートする立場です。主体はあくまでも企業側であり、自らが戦略に則して変わろうと動かなければ、何も変わりません。これはダイエット用のサプリメントを飲んで、運動もせず、良く食べて、「このサプリは効かないな~」と言っているのと同じです(笑)。
次回のコラムでは、中小企業にとってのブランド戦略の策定の仕方をより具体的に述べたいと思っています。
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