リーダーとコミニュケーション~「目標の達成」と「組織の維持」を両立させる為に~

2011年8月9日 15:54

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■Communicationとは何か?
 もともとの語源はラテン語のcommunis ( common, public, 共通の) communio(交わり, comm共に unio一致)+ munitare(舗装する, 通行可能にする)というところから来ているようだが、平たく言えば言語、非言語(動作や表情など)の双方を活用しながら個人、あるいは集団に対して感情、意思、思考、知識などを共有、シェアする方法、あるいはそれら全般を指すものである。

 現在のビジネスマーケットにおいてマーケット価値、顧客価値、社会的価値を満たし競争相手よりも半歩抜きん出ようとした場合、このコミニュケーション力に負うことが多いし、各仕事の場面、場面においてその成否を左右する最後の部分がこのコミニュケーション力の差となっているという現実がある。

 例えば現在多くのビジネスにおいてそのマーケット上に存在している「商品」、「サービス」、「価格」、「エリア・立地」、あるいは「流通形態」のどれをとっても各社各様でどこか一社が飛び抜けているということはテクノロジーブレイクスルーを擁するマーケット以外ではあまりない、しかも飛び抜けていたとしてもそれを競争相手に模倣されるまでの時間はあまりにも短い、まさに血で血を洗うがごとき状況なのである。このようなマーケット環境の中でマーケット内競争に打ち勝ち、高粗利益体質の事業を実現する為にはそこで働く個人個人のコミニュケーション力と組織としてのコミニュケーション力を向上させて行くことが不可欠である。

■リーダーの役割
 この中で重要なコミニュケーションの中心的役割を担うリーダーには二つの機能が必要となる。二つの能力と言ってもいい、それは「課題達成機能」と「集団維持機能」である。この二つの機能のバランスを取りながら組織の目的、目標を達成して行くことがリーダーの仕事なのだ。

 そしてこの二つの機能、能力の源泉となっているのがコミニュケーション力である。つまりリーダーという仕事は組織におけるコミニュケーションの送受信装置であり、目的、目標の達成の為に人事と予算の権限というパワーを授けられたCommunication・Hubである。

 先ず「課題達成機能」としてのリーダーの役割についてはわりと分りやすいのではないだろうか、組織における目的、目標の明確化、所謂、我々の組織は「何を」、「どれくらい」、「いつまでに」、「どのように」ヤルのかという事を明確にして、それを組織内部の隅々にまであらゆる方法をもって伝達し、そして共有する事である。その為にはそれを達成すれば組織として、また個人としてどんな未来が描けるのかといったところまでを共有しなければならない。加えて対外的なコミニュケーションもリーダーの大切な役割である。

 これらをやり続け本当にシェアする為にはコミニュケーションにおける受信の能力が問われる、これが「集団維持機能」とそれに必要な能力である。組織の各階層毎に違う受け取り方や感情、組織内のマジョリティとマイノリティそれぞれの感情や影響力、対外的にもマスコミやオピニオンリーダー達の影響力など、これらについて広く深く理解し、目的、目標達成の為にバランスを取らなくてはならない。

 よくあるパターンとして「玉虫色のコミニュケーション」や「以心伝心、肩ポンコミニュケーション」などが有るが右肩上がりの経済環境ならばともかく現在のような混沌としたマーケット環境においてはこのような都合のいいコミニュケーションで成果は出ないと思っていていいだろう。

 組織としての目的、目標、それらを達成する為に必要な「課題達成機能」はフル活用、即ち目に見える形で問題、課題、それを解決して行く為のプロセスを明確にした上で、そこから更に「集団維持機能」としての人間の感情の取り扱い問題に入るべきである。

 ビジネス上のマーケットポジションを獲得する為にはこの順序はMustだ、例えばこれが逆転あるいはイーブンの関係にあるのが「家庭」ではないだろうか、家族の存在意義は互いの「幸福」の為に支え合っているその時間そのものであり、決してそれぞれ家族固有の目的達成の為ではないはずである。ここがビジネスに関するマネジメントと家庭運営との違いである。

■無言のリーダーシップ
 ここまでお読み頂いたリーダーの人物像はあくまでもトップマネジメントのことである、トップマネジメントを想定して「課題達成機能」と「集団維持機能」についてお話しをした。では、トップマネジメント以外の場合、例えば現場のリーダーがどのような役割を担ってどのように行動すればいいのだろうか。

 前線にいるリーダー、即ち企業であれば売上を獲得する為に直接顧客と接している、若しくは非常に顧客に近いところで個別目標と部下を背負っているリーダーのことだ。簡単に言ってしまえばこれらの現場リーダー達に必要とされる機能、能力はトップマネジメントの能力と何ら変わりはない、ただそのコミニュケーション上の相手が対個人になる事が多いというだけである、だからといって決して単純な仕事ではない。

 現在のような混沌としたマーケットと実質的な国内総生産が下がり続ける国勢においては個人の力が負の方向へ向かうとき、時としてそれは凄まじいパワーを持つことがあるからだ。その事を念頭に置き対個人のコミニュケーションを継続して行かなければならないのだ、決して楽な仕事ではない。このような現場リーダーが日々意識することによって速攻的に成果に繋がることがある、読者の中で一度機会があれば試して頂きたいと思う、それは「無言の意思伝達」である。

 伝えなければならない事を言語を活用して(文書も含めて)伝えるだけではなく、非言語のコミニュケーション(動作や表情)を使ってコミニュケーション上の発信をしてみることをお勧めする。いつも言語によるコミニュケーションを中心としている出来る上司である「あなた」がある日突然無口になり、自分がしゃべることよりも相手の話しを聞く姿勢がある事を伝え傾聴のスキルを磨きながら、表情の変化やボディランゲージ、数少ない言葉から発せられる重みのあるメッセージがチーム内に変化をもたらす事だろう。

 これは所謂引きの力というもので、講演会などでわざと小さな声で話しをしたりする人もいる。そして実際に真の信頼関係が出来ているチームにおいてはほとんど言語を使わないで顧客と部下に対して信頼と安心感を与えるリーダーがいたりする。しかしこの大いなる実験、スキルアップの為の訓練は現場リーダーである時にしか試す事が出来ない。言語による発信をしないトップマネジメントはその事による利益よりも損失の方がはるかに上回ってしまうからだ、将来トップマネジメントを目指す方は是非とも現場リーダーを任命されているうちにお試頂きたい。

 今回はビジネスにおけるマネジメントリーダー達はどのような役割を期待されているのか、そしてそれを遂行する為に最も必要な機能、能力がコミニュケーション力だということをお話し致しました。さまざまな環境の変化や日々発生する諸問題に振り回され、本来の役割を見失いがちなリーダー諸氏におかれては、自己を見つめる時間を強制的にでもお作りになられ、これらのことをお考え頂ければと思います。リーダー諸氏の活力がそれぞれの組織の活力であり、それぞれの組織の活力が日本の活力だということをあらためて考えてみて下さい。

著者プロフィール

敦賀 正樹

敦賀 正樹(つるが・まさき)  クオリア・マネジメント・パ-トナ-ズ株式会社 代表取締役・事業再生支援ディレクタ-

陸上自衛隊、シティホテル勤務を経た後、大手コ-ヒ-ショップチェ-ンにて管理部門マネージャー、人事制度改革プロジェクトチームの中心メンバー、そして経営トップの秘書として経営統合プロジェクトや経営戦略の変更に関するプロジェクトメンバーとして活躍。その後、外資系投資銀行からの依頼を受け、民事再生法適用後のリゾートホテルの総支配人として着任。ホテルコンセプトやマーケティング戦略の変更、人事、組織の見直しなどを通して短期間でのリ・ブランディングを指揮する。現在は成長と再生の現場を事業領域とした事業支援コンサルティング会社の経営を担っている。
クオリア・マネジメント・パ-トナ-ズ株式会社 URL<http://www.qmpi.co.jp/index.html>

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