あなたの周りのリーダーシップ~環境変化と求められるリーダー像について~

2011年4月13日 17:23

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■リーダーシップとは?
 あなたは、「リーダーシップ」とは? と聞かれると何とお答えになりますか?
 
 以下、ウィキペディアより抜粋
 一般的には一人の人間がその他の人間から服従、信頼、尊敬、忠誠、協力を得られるような方法で人間の思考、計画、行動を指揮でき、かつそのような特権を持てるようになる技術及び才能を指すと考えられている。それは意思決定を行う指揮、労力や資源を配分・管理する統制、心的作用による統御の三機能から構成されると考えられているのが一般的。
 
 これが一般的な辞書に書いてある説明です。なんだか分ったような、分らないような、そんな説明ですよね。では、これをあなたの職場や地域の活動に置き換えてみるとどうなるでしょう。
 
 日頃複数の人間が寄り集まって何かを実行する際、自然とリーダーが決まっていませんか?それはどんな基準と価値観でリーダーが選ばれているのでしょうか?逆に正式なプロセスを経てリーダーとして任命された人なのに何かしっくりこない、何かが違う、本人もやり難そうにしている、そしてフォーマルなリーダーの他にもう一人インフォーマルなリーダーが出来てしまい、組織運営が二重構造になってしまっている。こんな事が身の回りにありませんか? では、何故こんなことになってしまうのでしょうか? 

■人間が持つ5段階の欲求
 唐突ですが、「マズローの欲求5段階説」は御存じでしょうか?経営学の教科書にも出ているのでご存知の方も多いと思います。アブラハム・マズローは1908年にニューヨークシティに生まれ、1934年に心理学の領域で博士号を取得している心理学者です。既存の心理学の枠に囚われることなく隣接する多くの学術分野へも研究対象を広げて活動をされた方です。
 
 マズローが唱えた欲求の5段階説は人間の心理をその置かれた環境に応じて5つに分類し、かつその階段を上がって行くプロセスに人間としての成長があると説いてます。その階段を順に①生理的欲求、②安全の欲求、③所有と愛の欲求、④承認の欲求、⑤自己実現の欲求というものです。現在の日本で生活をしているとこの①と②は当然の事として、在って当たり前の前提なのではないでしょうか。そして日々の生活の中では③と④に対する活動が公私共にメインとなり人によっては⑤を目指している。そのような環境ではないかと推測致します。

 このような事を前提として今回の東北地方太平洋沖地震と福島原発における問題をフォーカスしてみると、マズローの欲求5段階説でいうところの①生理的欲求と②安全の欲求が一瞬にして不自由な状態となり崖っぷちに追い詰められてしまいました。今、被災地でそして全国の大小様々な組織において何が起こっているのか。そしてそれをリーダーシップという切り口で見た場合どんなことが起こっているのか、これについてお話しを致します。

■1995年1月17日、阪神・淡路大震災の現場で
 時は1995年1月17日、午前5時46分。場所は神戸市中央区。当時、私は一従業員として港近くに聳え立つ高層ホテルで夜勤明けの日でした。地震が起こった直後からホテルの中はパニック状態です。日頃従業員から尊敬の念を持たれていた管理職の人達は全く役に立ちませんでした。当日泊りと夜間勤務の従業員はアルバイトを含めて20名前後、お客様は200名ほどでした。

 先ず実行した事は館内の火元、ガス、水元の確認です。それと同時進行で階段をつかい手分けをして一部屋、一部屋を回りお客様の状況を確認、そして全てのお客様をロビーフロアに集めて毛布をお配りし、今何が起きているのか、建物の安全性と水や食料の備蓄量の説明、電話の貸し出し(地震直後は通話ができた)を実施し、その後冷蔵庫の中からスープ類を出して来てガスボンベを使って温めお客様全員にお配りした事を記憶しています。ここまでを1時間以内で完了させました。次に現状把握と宿泊客のケアを目的とした対策本部を館内に設置しそれぞれ担当者を決めざっくりとした計画を作り実行しました。従業員の安否確認を担当した私は一件ずつ電話をかけ確認をして行きました(地震直後は通話ができた)、その間ラジオからは死者300名、500名とニュースが流れており、外の様子を想像しながら事にあたっていました。
 
 最終的には後日、馴染みのお客様リストを持ち一件、一件弔問に回った事を記憶しております。そしてその後建物、従業員の心の問題、お客様の来館数の問題などが解決して行き、災害以前の状況に戻ったと思えたのは4、5年後のことでした。

■「有事」に必要なリーダーシップ
 さて、この阪神・淡路大震災の直後に現場を指揮していたのは誰なのでしょうか?
 これは本当の話しなのですがこの現場を指揮し回していたのは当時20代半ばの役なしの一般従業員だったのです。この事から私はあることに気が付きました。普段の環境時、所謂「平時」と緊急事態発生時である「有事」とでは求められるリーダーシップに大きな違いがあるのだと。

 「平時」には所謂常識的発想と形式が重んじられ目的や目標、計画の策定、そして実行に対する効果確認に関するコミニュケーションに多くの時間が必要です。したがってそれら全体に対して目が行き届き、緻密に計画を推進して行く為の仕組みづくりに長けていたり、相反する考え方の人間に対してもうまく協調しながら事を進めて行く人間関係構築能力に長けているタイプがリーダーには向いているのです。

 しかし、これが「有事」だと一変します。マズローの5段階欲求説にある①生理的欲求と②安全の欲求を組織的に確保する為にアバウトで良いので瞬時にシナリオが描けてそれを実行する為にあらゆる障害をこれまた早急に排除し、その為ならば他の組織との軋轢や人間関係の破壊も厭わず、自組織の生命と安全を確保すること、その一点に対して動物的感覚をもって対処する能力が必要なのです。加えて戦局を見極め守りから攻めに転換させるセンスも必要です。いつまでも守りばかりでは組織の目的を達成する事も、人々が生きて行く為の気力を維持することも出来ないからです。

 これらの能力はいつ、どこで身につけられるのでしょうか? それはその人間が通過して来た過去の経験とそこから身につけた事がベースとなり、それを活用した応用、そして失敗からの学び、それが全てなのだと思います。
 
 この様な視点で東北地方太平洋沖地震、及び原子力発電所、そして日本全国に存在する大小さまざまな組織で現在起こっている問題を見てみる事をお勧め致します。案外偉い人達が拘っている事が問題の本質からズレていることがお分りになるのではないでしょうか?

■~おわりに~
 今回は「平時」と「有事」におけるリーダーシップの違いについてお話しを致しました。あなたとあなたが所属している組織にとって今は「平時」ですか?それとも「有事」ですか? そしてその組織のリーダーはどんな経験を経て今の立場にあるのでしようか? 今は組織の未来を考えるいい機会なのだと思います。この国の未来と子供たちの為に今一度リーダーシップについて考えてみてください。

 最後に、今回の東北地方太平洋沖地震で被害に遭われた方々にお見舞い申し上げるとともに、亡くなられた方々に心からお悔やみ申しあげます。「夜明けが来ない夜はなし」、様々な問題が山積している事でしょうが一日も早く災害に見舞われた人々に心からの笑顔が戻る事をお祈り申しあげます。

著者プロフィール

敦賀 正樹

敦賀 正樹(つるが・まさき)  クオリア・マネジメント・パ-トナ-ズ株式会社 代表取締役・事業再生支援ディレクタ-

陸上自衛隊、シティホテル勤務を経た後、大手コ-ヒ-ショップチェ-ンにて管理部門マネージャー、人事制度改革プロジェクトチームの中心メンバー、そして経営トップの秘書として経営統合プロジェクトや経営戦略の変更に関するプロジェクトメンバーとして活躍。その後、外資系投資銀行からの依頼を受け、民事再生法適用後のリゾートホテルの総支配人として着任。ホテルコンセプトやマーケティング戦略の変更、人事、組織の見直しなどを通して短期間でのリ・ブランディングを指揮する。現在は成長と再生の現場を事業領域とした事業支援コンサルティング会社の経営を担っている。
クオリア・マネジメント・パ-トナ-ズ株式会社 URL<http://www.qmpi.co.jp/index.html>

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