RCEP:神戸会合開催――MSFは日韓政府に対し有害な条項案の削除を呼び掛け
配信日時: 2017-02-23 17:10:56
2月27日より、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)協定の第17回交渉会合が開始されるに伴い、交渉参加16ヵ国が神戸に集う。これを受け国境なき医師団(MSF)は、安価なジェネリック薬(後発医薬品)の入手を妨げる有害な条項案を撤回するよう、日韓両政府に呼び掛けている。問題となる条項は公衆衛生を犠牲にして製薬企業の力の増進を強調するもので、世界中の何百万人もの命が脅かされる。交渉は非公開だが、両国は盛んにRCEP協定案を推進してきた。特に日本政府は、自身が国連や先進7ヵ国(G7)で訴えてきた安価な治療へのアクセスを実現するためにも、RCEPで重要な役割を果たすことが求められる。
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脆弱な保健システムを揺るがす
MSF日本事務局長のジェレミィ・ボダンは「日本は国連やG7で、高額な薬価への対策と、手頃な費用の治療の必要性を訴えてきました。その一方で、RCEPにおいては従来よりも厳格な知的財産条項を主張しており、矛盾が生じています。条項案の1つは、特許独占を長引かせ、法外な薬価をさらに長期化させることになります。また、脆弱な保健システムを揺るがせ、公衆衛生に関わる新たな課題への取り組みに欠かせない、患者重視の研究開発を抑止してしまうでしょう」と指摘する。
日韓が先導する知財条項は、国際貿易の既定よりもはるかに要求が高い。これによって、製薬企業の保持する通常20年の特許期間を延長させ、市場競争を阻む「データ独占」を、既存薬の製剤の更新でしかない特許に値しない改変に対しても認めることが目指されている。また、投資章案に関しても同様に懸念が生じている。インドと東南アジア諸国連合(ASEAN)の政府が、公益のために行なう知財制度の設定と薬価規制を理由に、国内法廷外の非公開裁判で製薬企業から何百万ドルもの損害賠償請求訴訟を起こされるリスクが拡大するからだ。これらと類似の条項は環太平洋パートナーシップ(TPP)協定にも含まれるが、TPPはMSFやさまざまな関係者から、医薬品のアクセスにおいて史上最悪の貿易協定との烙印を押されていた。
MSF必須医薬品キャンペーンの南アジア地域責任者を務めるリーナ・メンガニーは「最悪のTPP知財条項が、日本によって裏口からRCEP交渉に持ち込まれてしまいました。特許期間延長やデータ独占は、既存薬の独占を許す『エバーグリーニング』(常緑化)の一形態で、競合するジェネリック薬の参入を致命的に滞らせ、法外な価格を設定する製薬企業の力を増長させます」と話す。「RCEP交渉参加国は、既存の公衆衛生保護策を守り、全世界の何百万人もの治療と救命に必要とされる安価な薬の供給を、インドのような開発途上国が継続できるようにしなければならないのです」
すでに世界中で問題となっている薬価の高騰
市場独占のもとで高騰する薬価によって、既に世界各国の政府予算は圧迫され、MSFなどの治療提供者や人びとは、富裕国でさえも薬を入手できなくなっている。2001年、製薬企業がHIV/エイズの感染者1人の治療1年分に課した価格は1万米ドル(約113万円)以上。南アフリカ共和国などの国々では、1日500人以上の人が亡くなっていた。そして今、過去10年間でがんの新治療法の費用は患者1人あたり10万米ドル(約1133万円)を超え、一部の国でC型肝炎薬1錠が1000米ドル(約11万円)を超えた。しかし国連事務総長が設置した「医薬品アクセスに関するハイレベル・パネル」の最新報告では、2国間および広域の通商・投資協定に臨む政府は、人びとの健康に対する権利を満たすという義務に抵触する知財・投資条項が盛り込まれないように取り計らうべきだと提言されている。
MSF南アフリカで医療コーディネーターを務めるアミル・シュルフィ医師は「私たちはすでに南アフリカにおける活動で、薬剤耐性結核とHIV/エイズの治療薬の価格が政治と利潤のために高騰し、人びとが影響を受けているのを目のあたりにしています。RCEPのような通商協定で厳格な知財条項が採用されれば、MSFが世界各地で行う治療で頼りにしている、安価で良質なジェネリック薬の入手可能性をいっそう狭めてしまうでしょう」と話す。
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