都市の神聖な緑地が支える鳥類の多様性~神社仏閣・歴史公園に注目して観測~

プレスリリース発表元企業:中央大学

配信日時: 2024-11-20 14:05:05



概要
 中央大学理工学部の高田まゆら教授らの研究グループは、都市部における鳥類の多様性保全の観点から、都市に残された「聖地」の重要性を示す論文を発表しました。
 都市部に残る緑地は、生物多様性保全に重要な役割を果たしていますが、都市化の進行に伴う面積の減少が危惧されています。緑地の中でも、神社仏閣や歴史公園など、文化的・信仰的価値を併せ持つものは「聖地」と定義され、これまでの研究から生物多様性が高いことが明らかになっています。しかし、都市部ではその価値が十分に評価されてきませんでした。
 本研究グループの論文では、文京区の聖地(神社仏閣)において繁殖期及び越冬期に鳥類調査を実施し、都市公園との比較を行った結果、聖地のほうが都市公園よりも鳥類の多様性が豊かであることを示しました。さらに、植生調査により、これら鳥類の多様性は植生の複雑さに影響されており、聖地における適度に弱い植生の管理が鳥類の多様性の維持に寄与している可能性が示唆されました。





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【研究者】
  高田 まゆら 中央大学 理工学部 教授 (人間総合理工学科)
  松本 航汰 中央大学 理工学部 (人間総合理工学科)、東京大学 大学院農学生命科学研究科
  中島 一豪 中央大学 理工学部 教育技術員 (人間総合理工学科)
  伊藤 睦実 中央大学 理工学部 教育技術員 (人間総合理工学科)

【雑誌情報】 
雑誌名:Urban Forestry & Urban Greening (Elsevier社)
オンライン掲載日:2024年10月22日
論文タイトル:Sacred sites provide urban green spaces that maintain bird diversity in the megacity of Tokyo, Japan
著者:Kota Matsumoto¹, ², Kazuhide Nakajima¹, Mutsumi Ito¹, and Mayura B. Takada¹
所属:1 中央大学 理工学部
   2 東京大学 大学院農学生命科学研究科
  DOI: 10.1016/j.ufug.2024.128550


【研究内容】
1. 背景
 都市部の緑地は、都市に生息する様々な生物の生息場として機能し、生物多様性保全の観点から非常に重要な役割を果たしています。人々は多様な生物から自然との触れ合いなどを通して精神的・文化的に様々な恩恵を受けていることから、都市の緑地を保全することは重要です。しかしながら、近年の急激な都市化により、緑地の減少や分断が進み、都市部の生物多様性が減少することが危惧されています。大都市においては、広い面積の緑地を新たに生み出すことは困難なことから、既存の緑地を適切に保全する必要があります。
 都市部には様々なタイプの緑地がありますが、文化的・信仰的価値を併せ持つ緑地は「聖地」と定義され、長期間維持されてきた背景があることから、自然植生に近い環境を留めていると考えられます。この緑地環境は、都市の生物多様性にとって、特に重要である可能性をもっています。これまで海外で行われた研究では、郊外の聖地に着目し、インドの寺院やヨーロッパの教会等で生物多様性が特に高いことが示されています。しかし、都市部で行われた研究はほとんどありません。そこで、本研究では、東京の大都市でも比較的多く残されている神社仏閣及び歴史公園を都市の聖地と位置付け、都市の生態系で上位捕食者に位置する鳥類を対象に調査を実施し、都市公園との比較を行いました。さらに、植生調査を行うことで、聖地で鳥類の多様性が高まるメカニズムを考察しました。

2. 研究内容と成果
 調査は東京都文京区に位置する神社仏閣(9地点)、歴史公園(3地点)、都市公園(12ヶ所)で実施しました。鳥類調査では、各地点に面積に応じてランダムに調査ポイントを設定し、各ポイントにて10分間、半径25メートル以内に出現または鳴いた鳥を記録する「ポイントセンサス調査」を行いました。この調査は、鳥類の繁殖期にあたる2023年5月から7月および越冬期の2023年12月から2024年2月にかけて、各調査ポイントで3回ずつ実施しました。この鳥類調査によって得られた約2000個体30種の鳥類データを、それらの生態から都市性鳥類、森林性鳥類、水辺性鳥類の3つのグループに分類し、聖地と都市公園でその多様性が異なるかどうかを解析しました。解析の結果、緑地のタイプごとに鳥類の出現パターンが異なることが分かり、特に神社仏閣では都市公園に比べて各地点に特有の鳥類が見られること、また、繁殖期の神社仏閣及び歴史公園では森林性の鳥類の個体数が、越冬期の神社仏閣では鳥類種数が、それぞれ都市公園よりも多いことが明らかになりました。さらに、植生調査を2023年9月から10月の間に行い、各調査ポイントの植被率*¹⁾、下層植生の豊富さ、樹木の胸高直径*²⁾、落葉性を測定し、植生構造を明らかにすることで、鳥類がどのような植生の影響を受けているかを解析しました。その結果、神社仏閣で個体数が多かった森林性鳥類は、下層植生が豊富で常緑樹が多いほど個体数も多くなることが分かり、聖地で鳥類の多様性を高めるメカニズムに関わることが示唆されました。
 本研究の結果から、都市の聖地では都市公園に比べて鳥類の多様性が高く、この多様性は植生構造に起因していることが示唆されました。一般的に都市公園などの緑地においては、防犯・安全の観点から見通しが良くなる植生管理が求められており、強い管理圧下にあると考えられます。本研究の結果を踏まえると、文化的価値や自然崇拝などの信仰的価値を併せ持つ聖地では相対的に弱い、粗放的な管理になった結果、複雑な植生を留め、鳥類の多様性を支えているというメカニズムが考えられました。以上から、都市部に位置する聖地の生物多様性保全上の価値及び、生物多様性が高まるメカニズムが新たに明らかになりました。

3. 今後の展開
 今回の調査は限られた期間で行われたことから、東京都文京区にある聖地を対象としましたが、今後は調査範囲を拡大し、都市化の程度の違いも考慮した聖地の価値の検証を目指します。さらに、継続的な調査のデータや過去の資料を活用することで、都市化の影響を時間的変化も考慮したうえで検討することを目指します。こうして都市の聖地の価値を再確認することで、OECM*³⁾等の保全地区として保全を進めていくなど、都市の生物多様性保全への貢献が期待されます。また、こうした文化的価値を併せ持つ聖地であっても、近年の都市化の脅威にさらされていることから、今後も継続的なモニタリングが必要であると考えられます。

4. 謝辞
 本研究を行うにあたって、有益な助言を提供してくださった片山直樹氏に感謝申し上げます。また、データ収集への協力を頂いた根津神社、須藤公園、肥後細川庭園、ならびに東京大学大学院理学系研究科附属小石川植物園に感謝申し上げます。本研究は一部、中央大学特定課題研究費の支援を受けました。

【お問い合わせ先】

<研究に関すること>
高田 まゆら (タカダ マユラ) 
中央大学理工学部 教授(人間総合理工学科)
E-mail: mayura.203[アット]g.chuo-u.ac.jp

<広報に関すること>
中央大学 研究支援室 
TEL: 03-3817-7423および1675FAX: 03-3817-1677
E-mail: kkouhou-grp[アット]g.chuo-u.ac.jp


※[アット]を「@」に変換して送信してください。

【用語解説】
*1)植被率
地面から0.3m以下の植物もしくは枯葉の被度を目視で測定した値。

*2)胸高直径
地面から1.2mの位置における立木の直径。

*3)OECM
Other Effective area based Conservation Measuresの頭文字をとったもの。保護地域以外の地域で、文化的・精神的・その他地域関連の価値と共に、生物多様性の域内保全にとって肯定的な成果を達成する方法で管理されている地域。2010年の生物多様性条約第10回締結国会議で採択された「2030年までに、少なくとも陸域及び海域の30%」を保全するための達成手段の一つとして掲げられた。




▼本件に関する問い合わせ先
中央大学広報室
山本 麻耶
住所:東京都八王子市東中野742-1
TEL:042-674-2047


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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