【東京医科大学】真菌標的型ドラッグデリバリーシステムを開発 ~難渋する真菌症の薬物治療への応用に期待~

プレスリリース発表元企業:東京医科大学

配信日時: 2024-08-21 20:05:06









東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)微生物学分野の中村茂樹主任教授、犬飼達也助教らの研究グループは、東京大学大学院工学系研究科 カブラルオラシオ博士らのグループとの共同研究により、病原真菌に対して治療薬を効率よく送達できるドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発に成功しました。このDDSデバイスに充填したアムホテリシンBは、細胞毒性が軽減し、かつ抗真菌作用が増強することを確認しました。また、カイコ感染モデルを用いた治療実験により、真菌標的型DDSデバイスを使用することで、より低濃度のアムホテリシンB投与で治療効果を得られることが分かりました。




【概要】
 東京医科大学(学長:林 由起子/東京都新宿区)微生物学分野の中村茂樹主任教授、犬飼達也助教らの研究グループは、東京大学大学院工学系研究科 カブラルオラシオ博士らのグループとの共同研究により、病原真菌 ※1 に対して治療薬を効率よく送達できるドラッグデリバリーシステム(DDS) ※2 の開発に成功しました。
 このDDSデバイスに充填したアムホテリシンB ※3 は、細胞毒性が軽減し、かつ抗真菌作用が増強することを確認しました。また、カイコ感染モデルを用いた治療実験により、真菌標的型DDSデバイスを使用することで、より低濃度のアムホテリシンB投与で治療効果を得られることが分かりました。本研究成果は、2024年8月14日、国際専門誌「Journal of Drug Delivery Science and Technology」(IF 4.5)に掲載されました。
 本成果は、抗真菌薬の新規開発が困難な現状において、新規DDSデバイスによる既存薬の有効性・安全性の向上効果を示したものであり、難渋する深在性真菌症治療の薬物治療への応用が期待されます。


【本研究のポイント】
・ポリエチレングリコールポリアミノ酸ブロック共重合体 ※4 に真菌の細胞壁に特異的に結合するデクチン-1 ※5 受容体を搭載することで、真菌に強い集積性を獲得した真菌標的型DDSデバイスを創出しました。
・真菌標的型DDSデバイスを利用したアムホテリシンBは、細胞毒性が軽減し、抗真菌活性が向上することを確認しました。
・真菌標的型DDSデバイスを利用したアムホテリシンBは、アムホテリシンB単独よりも低用量でカイコ感染モデルの生存率を改善することを示しました。

【研究の背景】
 真菌が内臓に感染する深在性真菌症は極めて予後不良な重症感染症ですが、現在使用できる治療薬は10種類以下と抗菌薬に比べ圧倒的に少なく、さらに既存抗真菌薬に耐性を獲得した真菌の出現が本邦を含め、世界中で確認されています。目覚ましい医療の発展に伴う易感染宿主の増加に伴い、近年では深在性真菌症の患者が増加しており、より効果の高い新規抗真菌薬の開発は喫緊の課題ですが、真菌という生物種がヒトと同じ真核生物であることから、ヒトに毒性を示さず、真菌のみを制圧する治療薬の開発は困難であり、新薬開発が停滞しています。

【本研究で得られた結果・知見】
1. デクチン-1搭載DDSデバイスの真菌に対する強い集積性
 本研究では、真菌を標的とするデクチン-1受容体をポリエチレングリコールポリアミノ酸ブロック共重合体に結合させたDDSデバイスを作製し、蛍光標識や金コロイド標識を施した後、デクチン-1結合有無によるDDSデバイスの真菌の細胞壁への特異的な集積を共焦点レーザー顕微鏡もしくは電子顕微鏡下で確認しました(図1.A-C)。次に、真菌標的型DDSデバイスを真菌-哺乳細胞共培養系に投与した結果、真菌に強く結合することが明らかとなりました(図1.D)。なお本研究では、深在性真菌症の原因真菌として多く検出され、臨床的重要度の高いAspergillus fumigatusを使用しています。




2. 真菌標的型DDSデバイスに充填したアムホテリシンBの抗真菌活性
 開発した真菌標的型DDSデバイスに既存抗真菌薬アムホテリシンBを充填し、真菌に対する抗真菌活性を評価しました。投与後48時間ではアムホテリシン単独(図2.レーンA)と比較して抗真菌活性に変化は認められませんでしたが、72時間後では抗真菌活性の亢進が確認されました(図2.レーンD)。


3. 真菌標的型DDSによるアムホテリシンBの細胞毒性の軽減
 真菌標的型DDSデバイスに充填したアムホテリシンBの細胞毒性を検討しました。細胞毒性は、A549細胞への添加から12時間後に細胞から放出されるLDH量で評価しました。A549細胞単独および真菌との共培養条件下で20 μg/mLのアムホテリシンBを投与後、有意なLDHの放出が確認されました。対照的に、DDSデバイスに充填したアムホテリシンB 20μg/mLで投与した場合では、A549細胞単独および真菌-培養細胞共培養条件下の両方でLDHの放出は観察されませんでした(図3)。




4. 真菌感染カイコモデルを用いた治療実験
 最後に、真菌感染カイコモデルを用いた治療実験を行いました。DDSデバイスを利用した真菌標的型DDSアムホテリシンBは、アムホテリシンB単独よりも低濃度で生存率の有意な向上が確認されました(図4)。


【今後の研究展開および波及効果】
 本研究で開発した真菌標的型DDSデバイスの使用により、既存薬または新規抗真菌薬の有効性・安全性を向上させることができ、深在性真菌症の治療成績の改善が期待できます。さらにDDSデバイスは修飾の柔軟性を有していることから、今回搭載したデクチン-1分子を他の病原体抗原特異的分子に変更することで、真菌以外の病原体をターゲットとするDDSデバイスが創出でき、様々な感染症治療への応用が期待されます。

【掲載誌名・DOI】
掲載誌名:Journal of Drug Delivery Science and Technology
DOI:https://doi.org/10.1016/j.jddst.2024.106073

【論文タイトル】
A Novel Fungal-Targeted Drug Delivery System Dectin-1-Targeted-PEG-Amino Acid Polymer Block Enhances Antifungal Activity and Reduces Cytotoxicity of Amphotericin B

【著者】 
Tatsuya Inukai, Pengwen Chen, Hiroko Kokuba, Horacio Cabral, Shigeki Nakamura*
(*:責任著者)

【主な競争的研究資金】
日本学術振興会科研費 若手研究 (研究代表者 犬飼達也 24K19271 )

【用語説明】
※1 病原真菌:真菌は、カビを含む生物群の分類学上の名称であり、細菌とは異なります。およそ10万種程度知られており、アスペルギルス属、カンジダ属を代表としたヒトにアレルギーや感染症など健康障害を生じる真菌を病原真菌とよばれています。

※2 ドラッグデリバリーシステム(DDS):薬物の体内動態を制御できる技術であり、薬効を最大限に発揮させ、副作用を低減させることを達成させる薬物送達技術のことです。

※3 アムホテリシンB:真菌細胞膜のエルゴステロールと結合することで、細胞膜を不安定化させることにより、菌体内成分を漏出させることによって抗真菌作用をあらわします。真菌に対して優れた抗真菌作用がある一方で、ヒト細胞膜のコレステロールにも結合性を示すことから細胞への傷害性が高く、腎機能障害等の副作用が知られています。

※4 ポリエチレングリコールポリアミノ酸ブロック共重合体:ポリエチレングリコール(PEG)セグメントとアミン残基1種以上を側鎖に有するポリアミノ酸セグメントからなるブロック共重合体であり、これらの自己組織化により得られる高分子ミセルは、さまざまな薬物に対するナノスケールの生体内送達用キャリアーとして有用であることが知られています。

※5 デクチン-1:C 型レクチンとよばれる一群の膜結合蛋白質に含まれます。ヒト細胞でのデクチン-1受容体は、真菌の細胞壁成分である外来性β-グルカンと高い親和性を持つ物理化学的特性を有します。生物学的機能として、真菌に認識されたデクチン-1受容体は、受容体の細胞内ドメインを活性化し、真菌の排除に関連する炎症性サイトカインの発現を誘導することで真菌に対する感染防御に重要な役割を果たします。


▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
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