【東京農業大学(共同研究)】ビリン合成制御によるシアノバクテリアのフィコビリソームの機能改変

プレスリリース発表元企業:学校法人東京農業大学

配信日時: 2024-07-26 12:00:00








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ビリン合成制御によるシアノバクテリアのフィコビリソームの機能改変

2024年7月26日
東京農業大学
東京都立大学
東京工業大学

ポイント


光合成微生物シアノバクテリア(*1)は、集光性アンテナ複合体フィコビリソーム(*2)を用いることで効率的に光エネルギーを捕集し光合成に利用しています。
フィコビリソームは光を吸収するビリン(*3)という化合物とタンパク質からなります。ビリンは捕集する光の色に応じて異なっており、細胞の色にも大きく関わっています。
一般的な青緑色のシアノバクテリアのビリンは青色のフィコシアノビリンですが、自然界には赤色のシアノバクテリアも存在しています。このようなシアノバクテリアは赤色のビリンであるフィコエリスロビリンを持っています。
研究グループはフィコエリスロビリンを誘導剤依存的に合成するシアノバクテリアを構築し、シアノバクテリアの細胞色を緑から茶色、ピンク色に変えることに成功しました。
緑色のシアノバクテリアにおいて、フィコエリスロビリンが過剰に蓄積すると、フィコビリソームの構造が壊れることがわかりました。
フィコエリスロビリンの生産量を適切に制御することで、野生種が利用できない緑色光でも光を捕集し、光合成装置にそのエネルギーを伝達できるフィコビリソーム(キメラフィコビリソーム)を作り出すことに成功しました。
シアノバクテリアはカーボンニュートラルな有用物質生産ホストとして期待されています。この研究で開発されたフィコビリソームの制御技術は、光をより効率的に捕集できるシアノバクテリアの創出や人工光合成など、様々な分野での応用が期待できます。

発表論文
 本研究成果は国際学術誌「ACS Synthetic Biology」に掲載されました。
 著者: Mizuho Sato*, Takeshi Kawaguchi*, Kaisei Maeda, Mai Watanabe, Masahiko Ikeuchi, Rei  Narikawa, and Satoru Watanabe, *共筆頭著者
 タイトル:Functional Modification of Cyanobacterial Phycobiliprotein and Phycobilisomes through  Bilin Metabolism Control
 掲載誌名:ACS Synthetic Biology (2024)
 https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acssynbio.4c00094#
 受諾日:令和6年6月5日
 掲載日:令和6年7月22日

概要
東京農業大学大学院バイオサイエンス専攻、佐藤瑞穂、川口毅 修士課程学生(研究当時)、渡辺智 准教授、東京都立大学大学院理学研究科、渡辺麻衣 特任助教、成川礼 准教授、東京工業大学科学技術創成研究院化学生命科学研究所 前田海成 助教、および東京大学 池内昌彦 名誉教授らの研究グループは、光合成微生物であるシアノバクテリアの集光アンテナ複合体フィコビリソームに含まれるビリンの代謝を改変し精密にコントロールすることで、フィコビリソームの性質を改変することに成功しました。

発表内容
光合成微生物シアノバクテリアは、光合成に必要な光を効率よく集めるためにフィコビリソームと呼ばれる“アンテナ”をもっています(図1)。このフィコビリソームは、光を受け取る性質をもつビリンという化合物とそれを支えるタンパク質でできています。赤色の光を好むシアノバクテリアは、フィコビリソームに青色のビリン(フィコシアノビリン)を使っています。一方で、緑色の光を好むシアノバクテリアは、赤色のビリン(フィコエリスロビリン)を使っています。自然界では、フィコシアノビリンだけを持つシアノバクテリアと、フィコシアノビリンとフィコエリスロビリンの両方をもつシアノバクテリアがいます。シアノバクテリアは、ビリンの量や種類を調整することで様々な光環境に適応しています。

研究グループは、このビリンの調整を人工的に行うことでフィコビリソームの性質をコントロールできる方法を開発しました。青緑色のシアノバクテリアであるシネココッカスの細胞内でフィコエリスロビリンの合成酵素(PebAB)を誘導剤の有無に応じて発現させることで、フィコエリスロビリンの量をコントロールすることに成功しました(図2)。誘導剤を添加してPebABを発現しつづけると、青緑色のシネココッカスの培養液は茶色になり、さらに誘導剤を添加して培養を続けると培養液はピンク色へと変色しました。誘導剤を抜くと茶色だった細胞色は青緑色に戻ることも示され可逆的に制御できることもわかりました(図3)。

青緑色、茶色、ピンク色のそれぞれの細胞からフィコビリソームを取り出して比較すると、茶色とピンク色のフィコビリソームは複合体構造が壊れていることがわかりました(図4)。しかし、誘導剤を少量いれて弱くPebABを発現させると、複合体構造を維持したままフィコシアノビリンとフィコエリスロビリンが共存したフィコビリソーム(キメラフィコビリソーム)が得られることに気がつきました(図1, 2)。フィコエリスロビリンは緑色の光を吸収する性質を持ちます。そこで緑色の光のもとで光合成の活性と増殖を調べたところ、キメラフィコビリソームを持つシアノバクテリアは緑色光を光合成に利用でき、野生株よりも早く増殖することがわかりました(図5)。

今後の展望/波及効果
シアノバクテリアはCO2を固定しつつ炭素化合物を合成するため、カーボンニュートラルな次世代の有用物質生産ホストとして期待されています。フィコビリソームの機能改変を目的とした本研究は、シアノバクテリアの環境適応能や細胞機能の進化の解明に貢献できるだけでなく、地球に降り注ぐ光エネルギーを余すことなく利用するための高性能な集光システムの開発にも貢献できる画期的な成果です。

多くのフィコエリスロビリンを含みつつ、より安定な複合体を構築できれば、さらに効率よく緑色光を吸収できるようになるかもしれません。何故、フィコエリスロビリンを過剰に蓄積するとフィコビリソームが崩壊したのか、原因はまだわかっていませんが、ビリンが結合するタンパク質にその謎を解く鍵があると考えています。このように研究グループはフィコビリソームの構造的な特徴をさらに明らかにすると共に、それらの知見を活かして、自然界のフィコリビリソームを超える性能を持つフィコビリソームの創成を目指して研究を進めています。

本研究は、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)(JPMJAL1608)、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)(JPNP17005)、JSPS科研費(23H02130、23K26823、24H00871)の支援を受けて実施されました。

用語注釈
*1 シアノバクテリアは藍藻とも呼ばれる原核微細藻類です。植物の葉緑体の祖先生物と考えられており植物と同様の酸素発生型光合成により増殖します。シアノバクテリアは多種多様な生物群であり海、湖沼、氷河など地球上の様々な環境に生息しています。増殖に有機炭素源を必要とせず、光合成によりCO2を吸収しながら成長すること、さらに植物よりも増殖が早いことから、持続型物質生産を可能とする次世代ホストとして世界中で注目されています。

*2 フィコビリソームは、シアノバクテリアなどに存在する光捕集システムです。光エネルギーを捕捉し、光合成の反応中心に伝達します。フィコビリソームは、タンパク質とビリンという化合物から構成されています。シアノバクテリアは環境中の光のスペクトルに応じてフィコビリソームの色素組成を調整します。これにより、シアノバクテリアは様々な光環境に適応し、光合成効率を最大限に引き出すことができます。

*3 ビリンは、発色団として働く化合物(開環テトラピロール)であり、光エネルギーの吸収および伝達に関与します。これまでに数種のビリンが見つかっていますが、主要なのは青色のフィコシアノビリンと赤色のフィコエリスロビリンです。フィコシアニンは、フィコシアノビリンが結合した色素であり、赤色の光を効率的に吸収します。一方フィコエリスリンはフィコエリスロビリンがタンパク質に結合しており、緑色の光を効率的に吸収します。自然界にはフィコシアニンとフィコエリスリンの両方を持つ種も存在しており、ビリンの量を調節することで周囲の光環境に適応します。




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図1.集光性アンテナ複合体フィコビリソーム




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図2.フィコエリスロビリンの制御によるフィコビリソームの機能改変


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図3.PebAB 誘導発現シアノバクテリア培養液の継時的変化


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図4.PebAB過剰発現によるフィコビリソーム複合体の崩壊


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図5.緑色光下における増殖の比較







本件に関するお問合わせ先
東京農業大学 企画広報室
TEL : 03-5477-2650 / Email : info@nodai.ac.jp

東京都公立大学法人
東京都立大学管理部企画広報課広報係
TEL : 042-677-1806 / Email : info@jmj.tmu.ac.jp

東京工業大学 総務部 広報課
広報推進グループ(E3-13)
TEL : 03-5734-2975 / Email : media@jim.titech.ac.jp

関連リンク
細胞ゲノム生物学研究室
https://www.nodai.ac.jp/academics/life_sci/bio/lab/501/

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