誤診される「ギフティッド(ギフテッド)」,見えにくくなる生きづらさとは。『ギフティッド その誤診と重複診断』第5刷重版出来。
配信日時: 2022-09-13 13:03:33
近年よく目にする「ギフティッド」。「特定分野に特異な才能のある児童生徒への指導・支援」として文科省が議論を続けている一方で,言葉だけが先行し見落とされてしまっているギフティッド者の苦痛,困難とは。
心理学書を中心に教育学や社会科学の専門図書を発行する株式会社北大路書房(所在地:京都市北区)は、発達心理学の専門書『ギフティッド その誤診と重複診断』を2022年09月09日に第5刷重版致しました。
[画像1: https://prtimes.jp/i/104695/4/resize/d104695-4-3d385228ffcbd6c0c42b-5.jpg ]
ギフティッドは天才や発達障害を意味しない
「ギフティッド(ギフテッド)」と聞いてあなたはどのようなことを思い浮かべるでしょうか。いわゆる天才,もしくは神童と呼ばれる子どものことを想像するかもしれません。漠然としたイメージはあるものの,一体何をもって「天才」と呼ぶのでしょうか。知能テストでIQの基準を超えた人,ずば抜けた創造的思考をもつ人,特定の学問領域で卓越した才能を発揮する人...様々な特徴が考えられます。
ギフティッドとは何かという問題は今なお議論が続いており,どの程度の並外れた力量や素質のある人がギフティッド者とみなされるのかは明確に決まっているわけではありません。
だからこそ,ギフティッドをIQと同等のものと考えたり,ある1つの特性としてとらえるのではなくスペクトラム(境界があいまいで,連続的であること)としてとらえることが重要となっています。はじめに述べたような「天才」や「神童」と呼ばれる誰もが見てわかるギフティッド児だけではなく,むしろ普通に見える子がギフティッド特有の生きづらさや困難を抱えていることが多いのです。ギフティッド児はあらゆる能力が高いのではなく苦手な領域も存在している一方で,突出した能力によってそれが見えにくくなっているのです。
また,2E(twice-exceptional)と呼ばれるギフティッドと発達障害の二つの特性をあわせもつ場合もありますが,それはギフティッドネスが発達障害の特性であるということではなく,また発達障害の特性がギフティッドネスということでもないのです。ギフティッド児や成人ギフティッドが実際になりやすい障害もあります(p.56)が,そのような場合でも優れた才能だけが外からは目立ち,障害が見えにくくなるために,適切な診断や介入が難しくなるという問題があります。
そのため世間一般の人たちだけではなく,医師などの専門家の間でもギフティッドが十分に理解されておらず,発達障害だけではなく精神疾患を主とする様々な疾患と誤診されています(p.v, vi:監訳者まえがき)。
ギフティッドの知的特性や多様性,さらに社会的・情緒的・行動的特性やニーズがなぜ,そしてどのようにして誤診されてしまうのか。本書は実際の具体的事例をふまえ,医療従事者やカウンセラー,セラピスト,さらには教育に関わる全ての人たち,そして当のギフティッド者がギフティッドの理解を深めることのできる一冊となっています。
なぜ誤診されてしまうのか
まず,誤診とは何を意味するのでしょうか。広義にはギフティッド児の実際の教育や健康上のニーズが周囲の認識とずれていること,狭義には,このズレが原因で(a)その子の行動や心配な点がギフティッドネスによってより適切に説明できるにもかかわらず,メンタルヘルスの診断名や学習障害の診断名がつけられること,あるいは(b)その子の健康上の障害や学習上のニーズが見逃され,必要な診断がなされずにいることを本書では意味しています(p.53 第2章:ギフティッド児と成人ギフティッドの誤診と重複診断)。
では,なぜギフティッド児,成人ギフティッドの誤診が生じてしまうのでしょうか。原因は大きく次の3つが考えられます。
ここ数十年の間に過剰診断や,特異な行動をすぐに障害と結びつける傾向が高まり,また学校や職場などでは周囲との調和に重きが置かれるようになったこと。
専門家(スクールカウンセラーや教師,精神科医,心理士など)にギフティッドの特性に関する知識が欠けているため,ギフティッドの典型的な行動が様々な障害と間違えられてしまうこと。
実存的うつや神経性無食欲症のように一部のギフティッド児や成人ギフテッドに多くみられ,実際その診断が的確な障害があること。 (p.54-5)
これには,ギフティッドの行動特性は社会的・情緒的な要素が強く関連している(p.19,第1章:ギフティッド児・成人ギフティッドの特性より)にもかかわらず,「行動上の問題」からギフティッド児を診断する場合には知的能力や創造性の要素ばかりが重要視され,個人やその生活環境などが見落とされてしまうということが考えられます(p.20)。
たとえば,ギフティッド児は次のような社会的・情緒的特性がみられます。
●年齢の割に並外れて語彙が豊富で文章構造も複雑である。
●好奇心が非常に強く早熟で,質問はとどまることがない。
●想像上の友だちが大勢いる。
●並外れたユーモアがある。
●複雑なゲームを考案するなど,人々やものごとを仕切りたがる。
こうした特性がギフティッドネスの一部であると理解されない場合,誤診へつながる可能性が生じます。ギフテッド児も成人ギフティッドも,「行動上の問題」のために医療機関に紹介されることが非常に多いですが,ギフティッドの行動特性はそれ自体が生得的に社会的・情緒的問題を引き起こすことは滅多になく,特性と状況(環境)要因との相互作用によってギフティッドネスが「行動上の問題」とされ,障害の診断根拠の一部として意味づけられてしまうのです(p.23)。
「ギフティッド」によって見落とされること
「ギフティッド(ギフテッド)」という言葉だけが先走り,「天才でいいな」,「この子はギフティッドなんだからいい未来が待っているに違いない」,という周囲の人々や親の声,そして「場所さえあれば勝手に伸びるから場所さえ与えればいい」,「すべての子どもに同じような支援をするべきだ」,「わざわざギフティッドを支援する必要はない」というギフティッド支援,教育への批判は少なくはないでしょう。
しかし,ギフティッド児の多くは,自分がギフティッドだとは思っておらず,また成人ギフティッドは自分に特別な知的能力や創造性があることを積極的に否定することもあります(p.262)。そうした中で,親や周囲の人々の過剰な期待や偏見,決めつけとのギャップによってギフティッド児,成人ギフティッドの生きづらさや困難が生じるです(p.244 第11章:ギフティッド児や成人ギフティッドが抱える対人関係の問題)。
実際のケースとして,周囲の要求に適応できずにいた結果として,ギフティッド児や成人ギフティッドが怒り,抑うつ,その他の精神疾患を患うということもあり得ると著者は述べています。(p.281-2:第13章 ギフティッドの行動特性と病理学的行動との識別)。
また,親がとっさに「この子はクリエイティブだから仕方ないわ」など,望ましくない社会的行動の言い訳としてしまったり,放任的な自由を与えすぎてギフティッド児が家庭内で強い権利があると思うようになる,そしてギフティッドネスを否定するなど,親子関係での問題。同年齢の仲間との間で孤独を感じたりなじめないと感じながらも,仲間と合わせようとするあまり自分の能力を隠したりするピア・プレッシャーなど,仲間関係での問題。そしてパートナーや雇用関係,社交性など成人ギフティッドが経験する大人の対人関係など対人関係の見落とされがちな問題を認識することが必要となるでしょう。
ギフティッドの特性によって見えにくくなっていることから起因する誤診や問題を理解し,そして理解するうえで必要な支援について考える一助となる一冊です。
【イベント】監訳者である角谷詩織先生(上越教育大学大学院)のごイベント3件【告知】
【10/8,9 日本子ども学会学術集会第18回子ども学会議withコロナ社会で生きる子どもたち その発達と未来を考える】
[画像2: https://prtimes.jp/i/104695/4/resize/d104695-4-e221f3675d085f272689-2.jpg ]
https://kodomo18gifu.peatix.com/
詳細は上記リンクから
・角谷先生がご登壇されるプログラム日程
2日目 10月9日(日)
09:40~ 理事会企画・シンポジウム「ギフティッドと子どもの多様性」
【コーディネーター・シンポジスト】
安藤寿康氏 (常任理事・慶応義塾大学文学部教授)
角谷詩織氏 (上越教育大学大学院学校教育研究科准教授)
当事者の方 (予定)
[画像3: https://prtimes.jp/i/104695/4/resize/d104695-4-f357e686f27db1e2fa6f-1.jpg ]
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【10/29 第12回子ども学カフェ】
https://kodomogakkai.jp/04/2022.html
・テーマ:理事会企画シンポジウム「ギフティッドと子どもの多様性」を終えて(仮)
・場 所 : オンライン開催
・参加費 : 無料
・お申込み方法 : 準備中(9月下旬に申込みを開始。詳細はHPにて)
・報告者:安藤 寿康(慶応義塾大学文学部教授),角谷 詩織(上越教育大学大学院学校教育研究科教授)
・概 要:2022年度の学術集会「第18回子ども学会議(10/8、9)」では、初めての試みとして理事会企画枠を設け、ギフティッドをテーマにしたシンポジウムを開催することとなりました。前回(第17回子ども学会議)の自主企画シンポジウム「ギフテッドの的確な理解と支援のために」への反響が大きく、学会として継続して取り上げたいテーマの一つと考えたからです。第12回子ども学カフェでは、10月9日のシンポジウムでの登壇者同士の意見交換や会場からの質問等を踏まえ、改めてこのテーマについてお話をうかがいます。どうぞふるってご参加ください。学生も大歓迎です。(日本子ども学会HPより)
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【2023/1/20 ギフティッド教育への招待2023】
[画像4: https://prtimes.jp/i/104695/4/resize/d104695-4-f4587cbb914ae5d12b10-3.jpg ]
https://invitationtogifted20230120.peatix.com/
詳細は上記リンクより
2023年1月20日(金)20:00~21:00
「専門家に聞く」シリーズ “定義”がないからこそ知りたい「ギフテッド」とはどんな子ども?
・テーマ:「ギフティッドの子どもの気持ちの理解」
・会場:Zoom(ウェビナー形式)
・参加費:1000円
・概 要:ギフテッドの子どもはどんな子どもなの?ギフテッドの子どもに必要な指導とは?子どもたちの個性を伸ばすには?教育に携わる方々が知りたいことについて、教育学、発達心理学の専門家にお聞きします。(上記イベントページより)
・主催:ギフテッド教育への招待2022実行委員会
事務局 株式会社リエゾン・デートル(酒井由紀子)
目次
序章
1節 「ギフティッド」という語は何を意味するのか?
2節 ギフティッド児や成人ギフティッドは問題を抱えるリスクが高いのか?
第1章 ギフティッド児・成人ギフティッドの特性
1節 行動特性/2節 ギフティッド児の専門機関受診のきっかけとなることの多い問題
3節 成人ギフティッドが支援を要する主な理由/4節 激しさ・繊細さ・過興奮性
5節 過興奮性と誤診/6節 思考スタイル/7節 理想主義/8節 仲間関係/9節 非同期発達
10節 独特の興味関心/11節 創造性/12節 合わない教育環境,理解のない家庭に起因する問題
第2章 ギフティッド児と成人ギフティッドの誤診と重複診断
1節 なぜ,ギフティッド児や成人ギフティッドがそれほど多く誤診されるのか?/2節 重複診断(2e)
3節 SENG による全米調査/4節 医療やカウンセリングの専門家の役割
第3章 注意欠如・多動症
1節 ADHD かギフティッドか,それとも両方か?/2節 従来のADHD の診断傾向
3節 ギフティッドの行動特性とADHD の行動特性の識別/4節 まとめ
第4章 怒りの診断
1節 ギフティッド児と怒り/2節 怒りの診断/3節 反抗挑発症/4節 重篤気分調節症
5節 素行障害〔行為障害〕/6節 間欠爆発症/7節 自己愛性パーソナリティ障害/8節 まとめ
第5章 観念性疾患・不安症群
1節 強迫症/2節 強迫性パーソナリティ障害/3節 摂食障害
4節 自閉スペクトラム症とアスペルガー症候群/5節 社会的(語用論的)コミュニケーション障害
6節 シゾイドパーソナリティ障害〔統合失調質パーソナリティ障害〕
7節 統合失調〔症〕型パーソナリティ障害/8節 回避性パーソナリティ障害/9節 その他の不安症群
第6章 気分(感情)障害
1節 双極性障害/2節 気分循環性障害/3節 抑うつ障害〔うつ病性障害〕
4節 持続性抑うつ障害〔気分変調症〕/5節 実存的うつ
第7章 学習障害
1節 学習障害の診断/2節 限局性学習障害/3節 まとめ/4節 非言語性学習障害
5節 感覚統合障害/6節 聴覚情報処理障害/7節 認知リハビリテーション/8節 まとめ
第8章 睡眠障害
1節 短時間睡眠者と長時間睡眠者/2節 不眠症/3節 過眠症/4節 その他の睡眠障害/5節 まとめ
第9章 アレルギー,喘息,反応性低血糖症
1節 脳と胃腸/2節 アレルギーと喘息
3節 反応性低血糖症/一時的なグルコース不足/4節 その他の自己免疫疾患
第10章 嗜癖性障害群
1節 アルコール摂取,薬物使用とギフティッドネスに関する研究
2節 ギフティッド者は,なぜリスクが高いのか?/3節 アルコール依存症のサブタイプ/4節 専門家への示唆
第11章 ギフティッド児や成人ギフティッドが抱える対人関係の問題
1節 対人関係の問題を診断する/2節 親子関係/3節 仲間関係/4節 大人の対人関係/5節 診断と治療
第12章 診断のプロセス
1節 診断とギフティッド児・成人ギフティッドと診断/2節 誤診を回避するための論理的アプローチ
3節 短期記憶障害の例/4節 処理速度障害の例/5節 聴覚処理障害の例/6節 感覚統合障害の例
7節 反抗挑発症の例/8節 障害が障害でなくなるとき
第13章 ギフティッドの行動特性と病理学的行動との識別
1節 診断のプロセス/2節 知的能力を尊重したコミュニケーション
第14章 ギフティッド児・成人ギフティッドのための医療機関,カウンセラーを見つける
第15章 資料
1.学会・関連団体/2.インターネット上の情報
著者,監訳者,訳者
【著者】
J.T.ウェブ,E.R.アメンド,P.ベルジャン,N.E.ウェブ,M.クズジャナキス,F.R.オレンチャック,J.ゴース
【訳者一覧(*は監訳者)】
角谷 詩織*(上越教育大学)
榊原 洋一*(お茶の水女子大学名誉教授)
小保方 晶子(ハイデルベルグ大学心理学研究所)
山本 隆一郎(江戸川大学社会学部人間心理学科,江戸川大学睡眠研究所)
井上 久祥(上越教育大学)
知久 麻衣(コネチカット大学大学院)
書誌情報
[画像5: https://prtimes.jp/i/104695/4/resize/d104695-4-3d385228ffcbd6c0c42b-5.jpg ]
【書名】ギフティッド その誤診と重複診断:心理・医療・教育の現場から
【定 価】5,720円(本体5,200円+税10%)
【判 型】A5判 392頁
【出版社】株式会社北大路書房
【発売日】2019年09月25日
【コード】ISBN978-4-7628-3081-5 C3011
【概要】1つ以上の分野で並外れた才能を示すギフティッド。しかし,その行動特性ゆえ幼少時から偏見や無理解の対象となりやすく,様々な精神疾患と「誤診」されることが少なくない。本書では,豊富な事例から類似する障害の特性と比較し,ギフティッドの抱える特有の問題や支援の実践を示す。正確な理解に向けた手引きとなる一冊。
【リンク】
https://www.kitaohji.com/book/b580250.html
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https://www.amazon.co.jp/dp/476283081X/
株式会社 北大路書房
https://www.kitaohji.com/
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