G7「将来のパンデミックに備え、脅威に対処するため、今 行動を」薬剤耐性対策は全世界で次に備える課題 新型コロナ禍の陰で、静かに拡がる薬剤耐性
配信日時: 2021-08-23 14:00:00
2021年6月に行われたG7コーンウォール・サミットでは、その多くの議題が新型コロナウイルス感染症で、未だに終息の兆しが見えないパンデミックに関しての共通のアジェンダが取りまとめられました。その中で現在のパンデミックの対応と将来に起こりうるパンデミックに備えるため、国際保健、健康安全保障システムの強化が盛り込まれ、そこに薬剤耐性対策を含む一文が添えられていました。
画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/272187/LL_img_272187_1.png
大曲 貴夫 先生
新型コロナ禍の陰で拡がる薬剤耐性を、AMR臨床リファレンスセンター 大曲センター長が、世界における薬剤耐性対策と日本の状況について解説しました。
■薬剤耐性は各国が一丸となって取り組む重要課題のひとつ
2015年、WHO総会での「薬剤耐性に対するグローバル・アクション・プラン」の採択を受け、ドイツで開かれたG7エルマウ・サミットでの保健分野に関する声明では、G7諸国が協調して薬剤耐性菌対策に取り組む方針が盛り込まれました。保健大臣会合宣言文には、薬剤耐性対策として、国別行動計画の策定・支援、感染予防・感染制御、抗菌薬の研究開発の促進などが掲げられました。翌2016年の国際保健のためのG7伊勢志摩ビジョンでは、グローバル・アクション・プラン、ワンヘルス・アプローチの国際協力強化、サーベイランスシステム構築や、抗菌薬適正使用の推進、抗菌薬の生産維持等を掲げました。
2019年G20岡山保健大臣会合において「AMR(薬剤耐性)を含む健康危機への対応」がテーマのひとつとして議論され、昨年のG20リヤド財務相・保健相合同会議の共同声明では、薬剤耐性とワンヘルス・アプローチの重要性なども、パンデミック防止の観点が付加されて言及されています。
このように毎年、世界のトップが薬剤耐性についての議論を重ね、今後起こりうる薬剤耐性のパンデミックに備えるよう警告しています。薬剤耐性はひとつの国で行うだけでは不十分で、世界中で対策を行わなければ終息することはありません。新型コロナウイルスで感染症の恐ろしさを知った今こそ、各国が一丸となって取り組む重要課題といえるでしょう。
■サマリー
1. 薬剤耐性は各国が一丸となって取り組む重要課題のひとつ
2. 新型コロナウイルスの次に来るパンデミックは、薬剤耐性菌かもしれない
3. CREをはじめとした薬剤耐性菌の検出が相次ぎ、危機感が強まる
4. 日本のMRSAによる疾病負荷は欧州の3.6倍
5. 欧米では薬剤耐性対策として、新薬の開発に国が支援
6. 動物の健康や環境保全を含めた「ワンヘルス」アプローチが欧州・北欧で進む
7. 自ら意識を持って薬剤耐性対策に取り組むことが大切
■新型コロナウイルスの次に来るパンデミックは、薬剤耐性菌かもしれない
今年のG7共同宣言では新型コロナウイルス対策が多くを占めていました。世界が直面する目に見える問題として新型コロナウイルス対策が重要であることは明らかで、少なからずその影響が薬剤耐性にも及んでいると考えています。一度感染が拡大すると、終息に何年もかかり、世界的に経済活動が低迷することを、今回のパンデミックで身をもって体験しました。感染症の恐ろしさを新型コロナウイルスによって、世界中が知り、薬剤耐性も同じパンデミックになることは容易に予想がつきます。新型コロナウイルス感染症は、重症化すると人工呼吸器が必要となります。そのような状況での治療では、薬剤耐性菌による二次感染も問題となるため、新型コロナウイルス感染症の重症化と薬剤耐性は切り離せない関係となっています。
■CREをはじめとした薬剤耐性菌の検出が相次ぎ、危機感が強まる
薬剤耐性の中でも米国疾病管理予防センター(CDC)が「悪夢の耐性菌」と呼び、世界的な脅威とされるCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)は、米国、欧州、アジア諸国などで検出され、国内でも院内感染事例が報告されています。カルバペネム抗菌薬は、これが効かないと他に効く抗菌薬はないといわれるほどの広い抗菌作用を示す薬剤です。カルバペネム系抗菌薬に対して耐性を示すCREによる感染症では、治療が非常に困難になります。米国からの報告によると、血流感染を起こすと50%が死に至るというスーパーバグです。CREの他にも世界的な脅威となる薬剤耐性菌の検出が各国から報告され、危機感が強まっています。当センター病院でも、海外から帰国して入院された患者さんの約半数から薬剤耐性菌が検出されています。
すでに国内での薬剤耐性菌検出は珍しいことではなくなっています。
日本ではフルオロキノロン耐性大腸菌の検出が増加しており問題となっています。フルオロキノロン耐性大腸菌が高い割合で検出されている国はアジア諸国をはじめ、世界に多数存在します。今後、欧米や日本が協力し合い、より具体的に対策が進められていく予定です。
■大腸菌に占めるフルオロキノロン耐性の割合
他国の問題に見えても、ビジネスや旅行などの人の移動や家畜の輸入などさまざまな理由で感染が拡大する可能性があります。
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フルオロキノロン耐性の割合
*Center for Disease, Dynamics Economics & Policy (cddep.org) (C) Natural Earth
ResistanceMap:Antibiotic resistance.
https://resistancemap.cddep.org/AntibioticResistance.php
■日本のMRSAによる疾病負荷は欧州の3.6倍
当センターと国立感染症研究所の研究では、日本における、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)とフルオロキノロン耐性大腸菌の菌血症による死亡者は年間 約8,000名と推定しています。DALY(障害調整生命年)という指標を用いると、日本では2018年に、人口10万人あたり137.9DALYsの薬剤耐性菌による疾病負荷があったと推定されました。中でも、日本はMRSAと薬剤耐性大腸菌による負担が大きく、MRSAでは欧州の3.6倍となっています。
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MRSAによるDALYsの比較(2015年)
■欧米では薬剤耐性対策として、新薬の開発に国が支援
細菌感染症を抗菌薬で治療すると、あらたな薬剤耐性菌が生まれることがあります。
すべての抗菌薬が効かなくなる前に、新しい抗菌薬を開発することも、薬剤耐性におけるひとつの対策です。近年、抗菌薬の開発は停滞気味ですが、欧米では国が開発費用や供給の一部を負担することで、新薬の開発と供給の環境を整えています。
日本では、新薬の開発に国が支援を行う動きが出始めました。また安定供給のための支援の取り組みは、現在、議論が交わされているところです。
■動物の健康や環境保全を含めた「ワンヘルス」アプローチが欧州・北欧で進む
薬剤耐性菌は人から人だけではなく、動物、川や海などの環境、食品からも感染することがあります。環境問題に関心が高い欧州や北欧では、人、動物、環境を“ひとつの健康”として捉える「ワンヘルス」という考え方が受け入れられ易く、ワンヘルスを通した薬剤耐性の啓発も行っています。抗菌薬を使わない食肉の販売など、延いては薬剤耐性の対策に繋がることなども積極的に行われています。
今年のG7共同宣言においても、“人間及び動物の健康と環境との重要な関連性を認識し、パンデミックに対する予防と備えのすべての側面について「ワンヘルス」アプローチを強化することにより、その取り組みの統合を促進する”としたカービスベイ保健宣言を承認しています。
日本でも2016年に行われた“One Health”に関する国際会議で、薬剤耐性対策の重要性について訴求するなど、ワンヘルスを意識した取り組みが進められています。
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「ワンヘルス」アプローチ
■自ら意識を持って薬剤耐性対策に取り組むことが大切
薬剤耐性対策は政府や医療関係者だけの問題ではありません。一人ひとりができることは感染症対策と抗菌薬の正しい使用です。ほとんどのかぜには抗菌薬は必要ありません。抗菌薬の処方を求めない、軽いかぜ症状の時は病院に行かない、普段からの予防でかぜをひかないことも有効な薬剤耐性対策になります。
■お話しを伺った先生 大曲 貴夫 先生
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター 理事長特任補佐
国際感染症センター センター長/DCC科長/感染症内科医長併任
AMR臨床リファレンスセンター センター長
日本感染症学会 感染症専門医・指導医/日本内科学会 認定内科医
総合内科専門医
ICD制度協議会 インフェクションコントロールドクター
Master of Science in Infectious Diseases (University of London)
~なぜ薬剤耐性(AMR)が問題になっているのか
国連が「2050年にはAMRで年1,000万人が死亡する事態」と警告~
■AMRとは?
AMR(Antimicrobial Resistance:薬剤耐性)とは、本来なら効果があるはずの抗菌薬(抗生物質)が効かない、もしくは効きにくくなることです。抗菌薬とは細菌などの微生物が増えるのを抑えたり殺したりする薬です。抗菌薬を使用すると、微生物はさまざまな手段で逃げ延びようとし、その結果、抗菌薬が効きにくい薬剤耐性を生じることがあります。体内で増殖した薬剤耐性菌は、人だけでなく、動物や環境にも拡がることがあります。
■AMRは世界が抱える大きな問題
国連は昨年4月に、このまま何も対策をとらなければ、2050年までにAMRによって年に1,000万人が死亡する事態となり、がんによる現在の死亡者数を超え、経済的にも08-09年の金融危機に匹敵する破壊的なダメージを受けるおそれがあると警告しました。
*本来なら治療可能な病気が、薬が効かないために死亡する可能性があるということです。そうならないために、一人ひとりがAMRの問題に、今、取り組むことが必要とされています。
AMRの問題は、人の健康だけでなく動物や環境にも目を配って取り組もうというワンヘルスの考え方に基づき、畜産、水産、農業など各分野で抗菌薬の使用の見直しなどに取り組まれています。
■AMR対策で私たちにできること
AMRが拡大した原因のひとつに、抗菌薬の不適切な使用があげられます。私たちにできることは、抗菌薬を正しく使用することと病気の感染を予防することです。かぜやインフルエンザなどウイルス性の疾患には、抗菌薬は効きません。医療機関にかかって薬を出されないと不安かもしれませんが、医師が抗菌薬はいらないと判断したらそれに従い、処方された場合は医師の指示に従いきちんとのむことが重要です。抗菌薬を正しく使用するとともに、感染症にかからないこと、また人にも感染させないという感染対策が抗菌薬の使用を減らし、AMR対策につながります。
■私たちにできるAMR対策
●抗菌薬を正しく使う
かぜに抗菌薬は効きません。抗菌薬が必要かな?と思ったら、自己判断で服用せず、医療機関にかかり医師の指示に従いましょう。
抗菌薬をとっておいたり、人にあげたり、もらったりするのはやめましょう。
●感染対策
・手洗い
手洗いは感染対策の基本です。外から帰ったとき、トイレの後、食事前などはしっかり手洗いをしましょう。
・咳エチケット
咳やくしゃみが出るときはマスクをして飛沫が飛ばないようにしましょう。
マスクがない時は、ハンカチや袖の内側などで鼻と口を覆いましょう。
・ワクチン
ワクチンで防げる病気があります。必要なワクチンを適切な時期に打ちましょう。
・感染を拡げない
のどの痛み、咳、鼻水、発熱などの症状がある時は、学校、幼稚園などは休み、出勤、外出も控えましょう。
詳細はこちら
プレスリリース提供元:@Press
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