バイリンガル環境と赤ちゃんの語彙発達評価に関する記事公開

プレスリリース発表元企業:ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所

配信日時: 2021-06-17 13:00:00

「バイリンガル環境で子どもを育てると、子どもの言語発達が遅れる原因になりますか?」

0~6歳までを主な対象とした早期英語教育、早期バイリンガル教育に関しては様々な意見が交わされています。そこで、ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区 所長:大井静雄>では、保護者の皆様や教育関係者の皆様から寄せられる疑問に対し、先行研究を基にお答えする記事を定期的に公開しています。今回は子どもの語彙発達の評価についてお答えします。


■ バイリンガル児をモノリンガル児と単純に比較することは不適切
バイリンガルの場合、両方の言語で語彙発達の遅れが見られない限りは言語発達遅滞とは言えません(Kohnert, 2013, p.24)。さらに、その「遅れ」は、単純にモノリンガルと比較することは不適切です。今回はどのような方法を用いると、バイリンガル児の語彙発達を適切に評価できるのか、先行研究から見ていきます。


■ 成長とともにバイリンガル児が二言語で獲得する語彙概念は増加
まず、バイリンガル乳幼児の語彙は、両方の言語で知っているものよりも、片方の言語のみで知っているもののほうが多いことがわかっています。英語・スペイン語の両方にふれながら育っているバイリンガル児(0歳88カ月〜2歳66カ月)27人を長期的に調べた研究(Pearson , Fernandez, & Oller, 1995)によると、両方の言語で知っている語彙概念は平均30%ほどでした。

しかし、バイリンガル児は一つの事物に対して両方の言語で語彙を獲得するのが難しい、ということではありません。まだことばを話し始めたばかりのバイリンガル児も一つの事物に対して両言語で語彙を獲得できることを示した研究(Quay, 2008)や、片方の言語のみで知っている語彙は年齢が上がるとともに減っていく(小学1年生:約50%→小学5年生:約30%→大学生:約10%)ことを示した研究結果(Pearson, 1998)もあります。


■ バイリンガル児の語彙発達は両方の言語で評価する
以下の図は、バイリンガルの語彙が一方の言語のみで知っている語彙、もう一方の言語のみで知っている語彙、そして両方の言語で知っている語彙から成り立っていることを示したものです。バイリンガル児の片方の言語の語彙を、その言語のモノリンガル児の語彙と比較することが不適切であることは明らかです。

なぜならば、バイリンガルは状況によって言語を選択するため、言語と状況はいつも語彙と結びついているからでます。その状況と結びついてない一方の言語の語彙は最初の段階では学習されないのが普通ですが、時間と共に一方の言語によるさら更なる経験を通して語彙は増えていくということです。これらのことから、バイリンガル児の語彙発達を評価するときには、両方の言語を考慮する必要があると考えられます。

画像1: https://www.atpress.ne.jp/releases/263476/img_263476_2.jpg


■ バイリンガルの語彙数を新たな方法で評価した結果
言語学者Pearsonは、バイリンガルの片方の言語のみの語彙量をモノリンガルと比較して言語発達の遅れと結びつけることを疑問視し、バイリンガルの語彙数を評価する新たな方法を1993年に提案しています(Pearson et al., 1993)。これは、バイリンガル児の二言語の語彙を合計した数を、モノリンガル児と比較しようとするものです。

Pearsonらが新たな評価方法を用い、アメリカの乳幼児(生後8〜30カ月)を対象に、バイリンガル児とモノリンガル児を比較した結果、表出語彙数も理解語彙数もモノリンガルに劣ることはありませんでした(Pearson et al., 1993)。さらに、その後の追跡調査した研究(Pearson&Fernandez, 1994)でも、少なくとも一方の言語では、または、両方の言語の語彙を合わせれば、その発達ペースとパターン(2歳の半ば〜後半で語彙が急増する、など)は、各言語のモノリンガルの発達の標準範囲内にありました。

このように、二つの言語を合わせて語彙量を評価すればバイリンガル児とモノリンガル児の語彙発達は同等であることを示した研究は、ほかにも複数報告されています。


■ 「サイレント・ピリオド(沈黙期)」は語彙発達の遅れではない
家庭外(保育所や幼稚園など)で第二言語に触れる子どもは、最初のころに「サイレント・ピリオド」と呼ばれる時期を経験する場合があります。この時期は、周囲からのインプットを聞いて理解することに集中しているため発語や発話が少なく、意味を理解できるインプットが十分に与えられればアウトプットを始めると考えられています(Krashen, 2009)。また、子どもが自ら「サイレント(沈黙)」であることを選び、母語または母語での思考を使って新しい言語環境に参加しようとしている学習期間である、という見方もあります(Bligh & Drury, 2015)。

この子どものサイレント・ピリオドは、何も学んでいない「沈黙期」なのではなく、新しい言語環境に慣れるまでに必要な期間だったのです。必ずしもすべての第二言語学習者がサイレント・ピリオドを経験するものではないと考えられますが、特に言語環境が変わって間もない子どもの場合は、ある一時期において発語が少ないからといって、語彙発達の遅れとみなすことには注意が必要です。

より詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

■バイリンガル環境で子どもを育てると、子どもの言語発達が遅れる原因になりますか?(語彙発達評価編)
https://bit.ly/3cNwrhf


■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所
(World Family's Institute Of Bilingual Science)
事業内容:教育に関する研究機関
所 長:大井静雄(脳神経外科医・発達脳科学研究者)
所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7
パシフィックマークス新宿パークサイド1階
設 立:2016年10 月
URL:https://bilingualscience.com/


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