IEEEメンバー ヒューマノフィリックシステム研究の第一人者『九州大学大学院 荒川 豊教授が提言』

プレスリリース発表元企業:IEEE

配信日時: 2020-11-16 11:00:00

IEEE(アイ・トリプルイー)は世界各国の技術専門家が会員として参加しており、世界的な課題となっているネットワークセキュリティーに関しても、さまざまな提言やイベントなどを通じ技術の進化へ貢献しています。

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九州大学大学院 荒川 豊教授

IEEEメンバーである、荒川 豊 九州大学大学院システム情報科学研究院教授は、センサーとAIを使って人の行動を認識し、より良い選択や行動へと促すという、人に寄り添うIoT(モノのインターネット)をテーマに研究を続けています。荒川教授は各種研究の実現に向けて、ハードウエア、ソフトウエア、通信、すべての技術に精通する人材を育成する必要性、また、社会に関しては、IoTに対してメリットとリスクを十分理解して受容性を高めることの重要性を訴えています。

荒川教授の研究拠点は、2019年4月にヒューマノフィリックシステム研究室と名付けられました。ヒューマノフィリックシステムは造語で、人を意味する英語のHuman(ヒューマン)と、ギリシア語で親しいを指すPhilia(フィリア)、情報システムのSystemを組み合わせたものです。ヒューマノフィリックシステム研究室では、什器メーカーや交通事業者、住宅メーカーなど幅広い分野の企業や大学、研究機関と連携し、多種多様な研究を進めています。

荒川教授は、慶應義塾大学で通信技術を学びました。大学在学中から起業への意識が強く、学生活動や研究の傍ら、ホームページや携帯電話のアプリケーションを制作するベンチャー企業の立ち上げたに関わった経験を持っています。こうした起業経験が、後々になってアプリと通信を融合したIoTシステムを構築するのに役立ったといいます。

人に寄り添うIoTの研究が目指す大きな目標の一つが、行動変容です。ここで言う行動変容は、温度、湿度、力、位置、カメラ画像など、さまざまなセンサーを用いたセンサーネットワークで人の行動を把握・分析し、当人に適した情報などを提供することで、より良い選択や行動を促すことを指します。センサーで情報を把握されていることや、行動への意思決定に介入されていることを意識しないような仕組みがベストとなります。分かりやすい例では、米グーグルなどが提供するカーナビゲーションアプリにおける渋滞情報があります。
アプリユーザーは渋滞状況を確認して、目的地に向かうためのルート選択を行いますが、この渋滞情報はアプリユーザーの移動履歴から計算されています情報は意思決定に大きな影響を与えていますが、アプリユーザーは移動歴を計測されていることをさほど意識せずにその情報を利用しています。こうした仕組みを社会生活全般で実現しようというのが、荒川教授の研究です。行動変容の精度を高めるため「個人ごとの全ての行動を把握する」ことを究極的な目標に掲げています。

これまでの研究実績では、センサーネットワークを備えたスマートホームにおける行動認識技術や、AIを使ったカーシェアの偏在解消手法を提案しました。AIが得意とするのはリソースのマッチングであり、「AIが100%人の行動を把握した世界」を前提とすれば、車両偏在問題の解決方法として、ちょうど同じ区間を移動しようとしている人に車両利用を案内できると考えました。この研究がうまく行けば、社会(カーシェア)にとっても、利用者にとってもAIの恩恵がある世界を実現できます。現在は、九州大学内を走るAIバスAIMOを対象として、乗る人の行動変容を促すことで乗車効率を改善する研究へと進んでいます。

また、最近では、人の心理的な状態を把握する研究も行っています。例えば、スマートフォンやタブレット端末のタッチパネルの押し方や押す力の強さ、スクロール速度などから、使用者が何をしているか、や、アンケートに真剣に答えているかなどを割り出すシステムを開発しました。焦っているときなどは指の動きやタッチの強さに特徴が出ると言います。身につける負荷がかかるウエアラブル機器と違い、入出力を行うタッチパネルをセンサーとして活用するという点で、差別化された技術として期待されています。

ヒューマノフィリックシステム研究室では、産学連携も積極的に行っており、上述した心理状態の推定では、NTTデータ経営研究所など10社の従業員140人を対象とした、ウェアラブルデバイスによる心理状態計測に関する共同研究を進めています。睡眠状態や歩数、心拍といったウェアラブルデバイスから取得できるセンサー値と仕事の成果や心身の健康との関連性を研究しています。

また、IoTを用いてオフィス環境自体を改善していく研究も複数の企業と共同研究を実施しています。什器メーカーのオカムラとは、姿勢をセンシングし、適切な設定を教えてくれる椅子CENSUSを開発しています。他にも、バッテリレスの名札型場所認識センサーの開発や対話する(二酸化炭素濃度が高まると換気を促す)センサーなど、IoTの広がった未来のオフィス空間に関する研究を進めています。こうした研究が、体内時計を整える照明を開発しているドイツの照明メーカーWaldmann(バルトマン)の目に止まり、研究室全体をこの照明に置き換えることになりました。今後は、共同で光の色温度や照度が、働く人のメンタリティーにどういった影響を与えるのか、といった研究も進めていく予定です。

荒川教授の研究は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けつつも、着実に前進しています。前期のプログラミングの講義では、タイピング状況までセンシングできる講義環境を用いて学生たちの学習状況を収集、分析しました。対面講義再開に向けて、最寄り駅のバス停とキャンパス内のバス停の混雑度を計測、可視化するシステムitoconを開発し、伊都キャンパスに通う2万人の学生・教職員に情報提供しています。現在は、キャンパス内すべてのバス停、さらに生協食堂などにも混雑度センサーを取り付ける工事を進めており、情報技術によって混雑を回避するという行動変容を促しています。

ヒューマノフィリックシステム研究室の研究範囲は幅広い分野になります。各種センサー自体の知識はもちろん、取得したデータをプライバシーに配慮したものにし、エッジ側で通信に齟齬がでない量にしていく匿名化や画像処理技術、集まったデータを的確に分析する人工知能(AI)などの技術、分析したデータを分かりやすく、伝わりやすくユーザーに示すアプリケーションやインターフェースの技術などが主なものです。そのほかにも、通信の安全性、システムを社会に受け入れてもらう社会受容性、行動へのリスクを緩和する 保険制度、といったテーマもあり、最近では、心理学、行動経済学などさまざまな領域の研究者と協同して研究を進めています。
社会受容性の問題は、研究者だけの問題ではなく、将来的なユーザーとなる一般人全てが解決策を見出す必要があります。そのために、ヒューマノフィリックシステムをよく理解し、自らの生活にシステムが寄り添うことを許すにはどうしたらいいかを考える必要があります。

荒川教授は、ヒューマノフィリックシステムの研究分野に関心を持ち、実際に参加しようという若い研究者を求めています。ハード、通信、ソフトと広い分野に興味を持ち続けることはもちろん、今ある技術に不満を持ち、「もっと良くするためにどうしたらいいか」を考えて、自分で作ってみたいという想いを持つ人材が必要だと訴えています。


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