イタリア往還40余年、内田洋子の傑作エッセイ15篇。『サルデーニャの蜜蜂』
配信日時: 2020-06-09 11:30:00
伊日財団「ウンベルト・アニエッリ記念ジャーナリスト賞」(2019年度)
苦くても後に甘さがやってくる
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昨年、日伊両国間の相互知識や情報をより深めることに貢献したジャーナリストに対して、伊日財団より贈られる「ウンベルト・アニエッリ記念ジャーナリスト賞」を受賞した内田洋子氏。イタリア在住40余年、通信社ウーノ・アソシエイツ代表を務め、イタリアに関するニュースを配信するとともに、日本人が知らないイタリアの風土、社会、人々、食をテーマに数多くのエッセイ作品として発表している。伊日財団会長のウンベルト・バッターニ大使はこう評す。「内田洋子氏が提供するイタリアのビジョンは、多様な側面で興味深く、ある意味目を見張らされる。文化的観点からも重要な活動である」と。
本書は、著者が目にしたイタリアの日常に潜む美しいものを描く、あまりにドラマチックなエッセイ集。観光では巡り合うことのないイタリア人の素顔の「営み」をあたたかい眼差しで綴る。
表題作「サルデーニャの蜜蜂」では、古代ローマから続く養蜂家一家を描く。
«父と息子達、それに叔父だったか。出迎えたのは、親族の中でも血の繋がりが直系の男性だけだった。伝統芸能の奥義を極め次世代へ継ぐように、直系の血族が蜂にまつわる秘密を固守し、伝承しているのだった。
通された屋内は広くて質素だったが、そこが住居なのか作業場なのか、果たして倉庫なのか見分けが付かなかった。飾り気が皆無だったからだ。無垢板で作られたカウンターに、男達は小さなガラス瓶をいくつも置いた。中の蜂蜜はシャンパンのような淡い金色から木脂(やに)のような深い茶色で、色見本のようにグラデーションが美しい。父親がへぎのスプーンと小皿を渡し、私に試食するように勧めた。
蓋を開けると、たちまち甘くて切ない香りが立った。瓶を次々と開けると、カウンターには蜂蜜の数だけの香りが重なった。
「蜂蜜の匂いは、旬の花の香りです」
島の季節が、匙の中に凝縮されている。»
ジュエリーの煌めきと影を追う「私の宝石」、ペスト感染の防波堤だった港町で想う「リヴォルノの幻」ほか、イタリアの息遣いを感じる傑作エッセイ15篇。
一篇一篇、読後に心地よい余韻がやってくる。
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【著者プロフィール】
内田洋子(うちだ・ようこ)
1959年神戸市生まれ。東京外国語大学イタリア語学科卒業。通信社ウーノ・アソシエイツ代表。2011年『ジーノの家 イタリア10景』で「日本エッセイスト・クラブ賞」、「講談社エッセイ賞」を受賞。2019年「ウンベルト・アニエッリ記念ジャーナリスト賞」受賞。著書に『ミラノの太陽、シチリアの月』『ボローニャの吐息』ほか。訳書に『パパの電話を待ちながら』などがある。
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