娘、二十歳の夏。家族の秘密を伝える日がやってきた。『こんぱるいろ、彼方』
配信日時: 2020-06-08 18:20:00
70年代末にベトナムから来日したボートピープル一家のその後を描く。
「ベトナム人? お母さんが?」
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1978年、台風の日。戦争が終わり、体制の変わったベトナムから逃れるため、スアンと子どもたちは船に乗った――。
サラリーマンの夫と二人の子どもと暮らす真依子は、近所のスーパーの総菜売り場で働く主婦だ。職場でのいじめに腹を立てたり、思春期の息子・賢人に手を焼いたりしながらも、日々は慌ただしく過ぎていく。
ある日、大学生の娘・奈月が、夏休みに友人と海外旅行へ行くと言い出した。真依子は戸惑った。子どもたちに伝えていないことがあった。
真依子は幼いころ、両親や兄姉とともにボートピープルとして日本に来た、ファン・レ・マイという名前のベトナム人だった。真依子の母・春恵(スアン)は、ベトナム南部ニャチャンの比較的豊かな家庭に育ち、結婚をした。夫・義雄(フン)が南ベトナム側の将校だったため、戦後に体制の変わった国で生活することが難しくなったのだ。
奈月は、偶然にも一族の故郷ベトナムへ向かう。戦争の残酷さや人々の哀しみ、いまだに残る戦争の跡に触れ、その国で暮らす遠い親戚に出会う。
«つながり。
そんな言葉がふいに浮かぶ。おばあちゃんが生まれたときから、いや、もっともっとずっと昔から、自分への糸はつながっていて、たくさんの人と関わり合いながら、糸を広げて絡ませて、今の自分が存在するのだ。ちょっとやそっとのことではビクともしない、強くてしなやかな糸。それは世界中の誰もが持っている、つながり、そのものだ。
大きな窓の外で、緑の葉っぱが揺れている。おばあちゃんが育った街ニャチャン、お母さんの故郷ニャチャン。今自分がここにいることは、この世に生を享けたときから決められていたことではないかと錯覚してしまうほど、奈月はこの場所を好きになっていた。»
自分のルーツである国に深く関心を持つようになった奈月の変化が、真依子たち家族に与えたものとは――?
家族小説の名手が、70年代末にベトナムから来日したボートピープル一家のその後を描く新境地。
全国の書店員さんから反響の声、続々!
すぐれた小説は私たちを「対岸」に連れて行ってくれる。
そこには未知だったものや、知ってはいたが無関心だったものがある。
――本屋lighthouse 関口竜平さん
人間の持っている強さ、優しさが胸を打つ。
――文真堂書店ビバモール本庄店 山本智子さん
ベトナム戦争、沖縄の歴史、ただの言葉だけでなくて当事者の言葉を伝えてくれて、私たちは知ることが大事だと小説の力に胸が熱くなる。
――うさぎや矢板店 山田恵理子さん
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【著者プロフィール】
椰月美智子(やづき・みちこ)
1970年神奈川県小田原市生まれ。2001年『十二歳』で講談社児童文学新人賞を受賞。『しずかな日々』で07年に野間児童文芸賞、08年に坪田譲治文学賞を受賞。17年『明日の食卓』で神奈川本大賞を受賞。その他の著書に『るり姉』『かっこうの親 もずの子ども』『消えてなくなっても』『伶也と』『緑のなかで』などがある。
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