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世界最安通貨の下げ渋り【フィスコ・コラム】
*09:00JST 世界最安通貨の下げ渋り【フィスコ・コラム】
世界最安通貨のイランリアルが闇市場で下げ渋る場面が目立ちます。大統領選で改革派の候補が勝利し、欧米との対話再開による経済の回復が期待されているためです。ただ、11月の米大統領選の結果次第では対米関係を修復できず、逆戻りのリスクも想定されます。
現職大統領のヘリコプター墜落事故による死亡を受け、イランでは6月28日に大統領選が行われました。今月5日の決戦投票で改革派のペゼシュキアン元保健相が前政権の反欧米路線を受け継ぐ保守穏健派候補を破って当選。機能不全となった「核合意」を再開させ、経済の立て直しを進める方針です。通貨リアルは結果を受け、1ドル=59500リアルと安値圏でのもみ合いがみられます。
欧米と協調関係を再構築できるかどうかが、イランの浮沈の決め手になりそうです。米英独仏中ロの6カ国とイランが2015年に合意したイランの核開発をめぐる包括的共同作業計画は、穏健派のロウハニ政権下で合意に向かっていました。にもかかわらず、アメリカは2017年にトランプ政権が発足し協議を離脱すると、対イラン経済制裁を再開。その効果によりイラン経済は長期にわたり混乱が続いています。
リアルは世界最弱通貨となり、慢性的なインフレを招き国民生活を圧迫しています。ここ数年は最高指導者のハメネイ師を独裁者呼ばわりする反政府デモが首都テヘランを中心に頻発。事故死した保守強硬派のライシ師は、2022年に政府への抗議活動に参加した女性に対し暴力的な弾圧を繰り返してきました。このように、一般有権者の政府への反発が今回の選挙結果につながったと考えられます。
しかし、核合意再開による制裁解除は、そう簡単ではありません。11月の米大統領選に向け6月に行われた候補者討論会で、バイデン大統領の高齢問題が露呈しました。民主党はこのままバイデン氏を指名候補とするか、それとも新たに候補者を擁立するか注目されています。トランプ氏再登板なら、イスラエルと歩調を合わせイランへの批判を強め、制裁をむしろ強化させるでしょう。
ペゼシュキアン師はハメネイ師から、ライシ師の路線を引き継ぐよう求められています。ライシ師は強硬派とはいえ、中国の仲介により湾岸諸国との関係を立て直した実績もありました。改革派のペゼシュキアン師に期待されるのは保守強硬路線の継承ではなく、開放的な新しい国造りかもしれません。そんな思惑がリアルを支えているもようです。
(吉池 威)
※あくまでも筆者の個人的な見解であり、弊社の見解を代表するものではありません。《ST》
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