神鋼商事は上値試す展開に期待、25年3月期減益予想だが保守的

2024年5月28日 09:00

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

 神鋼商事<8075>(東証プライム)はKOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品、鉄鋼原料、非鉄金属、機械・情報、溶接材料・機器などに展開している。24年5月に策定した新中期経営計画2026では、基本方針として収益力の強化、投資の促進、商社機能の強化に加え、サステナビリティ・人的資本・資本コスト経営を推進し、企業価値向上を目指すとしている。25年3月期は国内の自動車関連や半導体関連の緩やかな回復を見込むが、人件費や営業活動費の増加で減益予想としている。ただし保守的な印象が強く上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。株価は戻り高値圏だ。高配当利回りや1倍割れの低PBRなど指標面の割安感も評価材料であり、上値を試す展開を期待したい。

■KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社

 神戸製鋼所<5406>系で、KOBELCO(神戸製鋼グループ)の中核商社として鉄鋼製品(鋼板製品、線材製品など)、鉄鋼原料(輸入鉄鋼原料、合金鉄、コークスブリーズなど)、非鉄金属(銅製品、アルミ製品、非鉄金属地金・スクラップなど)、機械・情報(ゴム・タイヤ機械、製鉄・非鉄機械、化学機械、環境関連機器、電池用材料、液晶用材料、PC部品など)、溶接材料・機器(溶接材料、溶接関連機器、溶接ロボットシステムなど)などに展開している。成長戦略としては、重点分野と位置付けているEV・自動車軽量化関連および資源循環型ビジネス関連の拡大を推進するとともに、サステナビリティ経営も強化している。

 21年9月には、日新イオン機器(NIC)から半導体・FPD用イオン注入装置の製造を手掛ける中国・NIHY(揚州)の株式を買い取り、社名を神商精密器材(揚州)に変更して子会社化した。21年11月には子会社の神鋼商事メタルズがベトナムにアルミ切断加工販売会社を設立した。21年12月には子会社のSCWが、日本エア・リキード合同会社から大半の溶接関連資機材事業を譲り受けた。23年2月には子会社の神鋼商事メタルズがシンクスコーポレーションと共同で、ベトナムにアルミ厚板切断加工販売会社を設立(神鋼商事メタルズの出資比率60%)した。23年9月には稲垣商店より、同社の非鉄金属卸売事業に関する権利義務を会社分割により承継させた新・稲垣商店の全株式を取得して連結子会社化した。またタイの現地法人TEMSがフィリピンに事務所を開設した。

 24年4月には超小型モビリティの製造・販売やMaaS事業を展開するKGモーターズ(広島県東広島市)に出資した。自動車電動化に関連する取引先の多様化を図るとともに、サスティナブルな社会の実現に貢献するビジネスの創出を図る。また子会社のマツボーとともに、珈琲豆用や医薬・化学業界向けの粉砕製粒機(グラニュレーター)を展開する日本グラニュレーターの全株式を取得して連結子会社化した。

 24年3月期のセグメント別経常利益は鉄鋼が66億34百万円、鉄鋼原料が15億14百万円、非鉄金属が16億35百万円、機械・情報が23億12百万円、溶材が7億44百万円、その他(不動産賃貸事業等)が27百万円の損失だった。鉄鋼、鉄鋼原料、非鉄金属の収益は取扱数量と市況の影響で変動しやすい特性がある。

 なお25年3月期より、現在の5本部体制を金属本部(鉄構ユニット、アルミ・銅ユニット、原料ユニット)と機械・溶接本部(機械ユニット、溶接ユニット)の2本部制に再編した。

■中期経営計画2026

 24年5月に策定した新中期経営計画2026(25年3月期~27年3月期)では、長期経営ビジョン2030で掲げた「明日のものづくりを支え社会に貢献する商社」を目指し、重要目標達成指標(KGI)としては、最終年度27年3月期の経常利益145億円、ROE(自己資本利益率)10.0%以上、ROIC(投下資本利益率)6.5%を掲げている。株主還元については、連結配当性向30%以上、または1株当たり配当300円のいずれか高いほうとする。

 基本方針として収益力の強化、投資の促進、商社機能の強化に加え、サステナビリティ・人的資本・資本コスト経営を推進し、企業価値向上を目指すとしている。事業戦略としては、現在のKOBELCOグループビジネス、および神鋼商事オリジナルサプライチェーンビジネスから得られる利益を拡大するとともに、サステナビリティをキーワードにSX新規事業推進案件への投資を進め、将来の収益柱育成を目指す。3カ年合計の投資額は230億円(うちDX&IT関連投資30億円)の計画としている。エリア的にはアセアン・インドを成長地域と捉え、重点投資を行う方針だ。

■サステナビリティ経営

 サステナビリティ経営に関しては、22年4月にサステナビリティ基本方針と重要課題(マテリアリティ)を制定するとともに、取締役会の諮問機関としてサステナビリティ委員会を設置した。22年6月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同するとともに、TCFDコンソーシアムに参画した。22年10月にはダイバーシティ推進プロジェクトチームを発足し、女性およびグローバル人材活躍に向けて30年までの目標を設定した。22年12月には、経済産業省が公表した「GXリーグ基本構想」への賛同を発表した。

 23年1月には、ユニバーサルマテリアルズインキュベーター(UMI)が設立したUMI3号脱炭素投資事業有限責任組合(UMI脱炭素ファンド)へ出資した。出資を通じて優れた脱炭素分野技術への支援や新規事業創出を推進する。23年2月には光変換光合成促進農法社(長野県岡谷市、以下:光変換社)への資本参加と業務提携を発表した。光変換社は、光変換光合成促進農法による農作物栽培用資材および農作物の生産販売を目的として09年に設立された農業法人で、高麗人参を短周期で収穫する短期促成栽培システム(19年に特許登録)を開発している。SDGsを推進している企業であり、本件を開発投資と位置付けて経営支援を行うとともに、新領域となる農業分野への足掛かりとする方針だ。

 23年9月には、ちとせグループの統括会社であるCHITOSE BIO EVOLUTION(シンガポール)に出資し、藻類基点の新産業を構築する「MATSURIプロジェクト」に参画した。同グループと協業し、微細藻類によるカーボンリサイクルや微細藻類を使った新規事業開津など、新たな資源循環型ビジネスモデルの構築を目指す。また、東京理科大学創域理工学研究科が23年4月に設置したサステイナブルアーバンシティセンターに対して協賛した。

 23年10月には、ESGや人権に関する問題意識の高まりと企業の社会的責任を踏まえて「神鋼商事グループ人権基本方針」を制定した。また「神鋼商事 統合報告書2023」を発刊した。

 23年12月には、奥村組<1833>、丸紅クリーンパワー、大成建設<1801>とともに、北海道石狩市における早生樹の植樹実証事業の開始を発表した。植樹した早生樹を石狩市内のバイオマス発電所で燃料の一部として使用することを見据えており、地産地消によるエネルギー事業の可能性を検討する。

 24年2月には、環境情報開示システムを提供する国際環境非営利団体であるCDPによる「気候変動」に対する取り組みや情報開示の評価において、咲くエンドに続いて「B」評価を取得した。24年3月には経済産業省と日本経営会議が選定する健康経営優良法人認定制度において、23年に続いて「健康経営優良法人2024(大規模法人部門)」に認定された。また24年4月には監査等委員会設置会社へ移行すると発表した。

■24年3月期経常最高益、25年3月期減益予想だが保守的

 24年3月期の連結業績は売上高が23年3月期比1.1%増の5914億31百万円、営業利益が1.2%減の132億96百万円、経常利益が1.1%増の128億14百万円、親会社株主帰属当期純利益が0.9%減の91億11百万円だった。配当は23年3月期と同額の315円(第2四半期末125円、期末190円)とした。配当性向は30.4%となる。

 経常利益は小幅増益にとどまったが過去最高益となった。売上面は中国での自動車向けアルミ取扱量が減少した一方で、鋼材価格の上昇や国内自動車分野の需要回復などにより小幅増収だった。コスト面では販管費が増加したが増収効果で吸収した。営業外収益では受取配当金が2億64百万円増加、デリバティブ評価益が2億63百万円増加、貸倒引当金戻入額が10億96百万円増加、持分法投資利益が6億26百万円減少、営業外費用では支払利息が6億85百万円増加、為替差損が1億68百万円増加、売掛債権譲渡損が2億99百万円減少した。特別利益では前期計上の固定資産売却益4億24百万円が剥落、投資有価証券売却益が1億67百万円増加した。

 セグメント別経常利益を見ると、鉄鋼は29.1%増の66億34百万円だった。国内自動車需要が緩やかに回復し、鋼材価格の上昇や、米国で過年度に計上した貸倒引当金の戻入なども寄与して大幅増益だった。鉄鋼原料は1.1%増の15億14百万円だった。神戸製鋼所の粗鋼生産減産に伴って主原料の取扱量が減少し、原料価格も下落したが、重点分野と位置付けている資源循環型ビジネスにおいてバイオマス燃料の取扱量が堅調に推移した。

 非鉄金属は38.9%減の16億35百万円だった。車載用コネクター関連の銅製品が堅調だったが、中国のアルミ板加工会社において自動車分野の取扱数量が大幅に減少した。機械・情報は6.6%増の23億12百万円だった。製鉄・タイヤ向け機械、建機部品などが減少したが、KOBELCOグループ向けの脱炭素関連商品の取扱量が増加したことに加え、メンテナンスビジネスが好調だった。溶材は7.5%減の7億44百万円だった。溶接材料の価格上昇がプラス要因だが、造船・自動車・建設機械向け取扱量減少に加え、生産材料でチタン原料の取扱量が減少した。

 全社ベースの業績を四半期別に見ると、第1四半期は売上高が1365億86百万円で経常利益が21億46百万円、第2四半期は売上高が1428億25百万円で経常利益が28億67百万円、第3四半期は売上高が1541億19百万円で経常利益が35億50百万円、第4四半期は売上高が1579億01百万円で経常利益が40億14百万円だった。

 25年3月期の連結業績予想は、売上高が24年3月期比5.3%増の6230億円、営業利益が19.5%減の107億円、経常利益が14.2%減の110億円、親会社株主帰属当期純利益が11.1%減の81億円としている。配当は24年3月期比15円減配の300円(第2四半期末150円、期末150円)としている。予想配当性向は32.6%となる。

 ユニット別の経常利益計画は、金属本部小計が8億円減の89億円(鉄鋼が7億円減の59億円、アルミ・銅が1億円減の15億円、原料が0億円減の15億円)で、機械・溶接小計が9億円減の21億円(機械が8億円減の15億円、溶接が1億円減の6億円)としている。その他は横ばいの0億円としている。

 鉄鋼は前期の米国子会社における貸倒引当金戻入額一巡や販管費の増加を見込んでいる。アルミ・銅は低調だった中国での緩やかな回復を見込むが販管費の増加を見込んでいる。原料はバイオマス燃料の取り扱いが堅調に推移する見込みだ。機械は売上高が横ばいだが販売管理費の増加、溶接は取扱量の横ばい推移を見込んでいる。

 25年3月期は国内の自動車関連や半導体関連の緩やかな回復を見込むが、人件費や営業活動費の増加で減益予想としている。ただし保守的な印象が強く上振れ余地がありそうだ。積極的な事業展開で収益拡大を期待したい。

■株価は上値試す

 株価は戻り高値圏だ。高配当利回りや1倍割れの低PBRなど指標面の割安感も評価材料であり、上値を試す展開を期待したい。5月24日の終値は7110円、今期予想連結PER(会社予想の連結EPS920円00銭で算出)は約8倍、今期予想配当利回り(会社予想の300円で算出)は約4.2%、前期実績連結PBR(前期実績の連結BPS9770円13銭で算出)は約0.7倍、時価総額は約630億円である。(情報提供:日本インタビュ新聞社・Media-IR 株式投資情報編集部)

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