自動車の型式指定問題に関する余談

2024年2月21日 16:51

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 「エンジン性能曲線図」参考イメージとしてGR86のものを提示(画像提供 トヨタ)

「エンジン性能曲線図」参考イメージとしてGR86のものを提示(画像提供 トヨタ)[写真拡大]

 日野、ダイハツ、豊田自動織機と、認証試験での不正が多発している。「認証試験」を軽視する事はあってはならない。日本製品に対する信頼を失墜させる犯罪行為である。が、この「認証試験」不正に関して私見を交えながら考察したい。

【こちらも】その国に「自動車」が定着するまでの差とは

●実力には大きな差

 VWの米国でのディーゼル排気ガス偽装事件の様な「出来ない事」を虚偽申告で誤魔化したのとは異なり、「時間的余裕」が無かった事が原因だったからだ。

 学校の試験に例えれば、全く歯が立たなかったVWと、もう少し時間があれば全部答えられたダイハツの違いだと考えれば良いだろう。

●学校の実力テスト

 貴方が学生の頃を思い起こして見て欲しい。

 例えば、数学の普段の成績が80点程度の実力だったとする。

 突然予告なく「実力テスト」が実施された場合と、「自己申告」で獲得可能想定点数を自己申告する場合の、どちらが低めの点数となるだろう?

 ここでは、身の程を弁えない能天気な学生は存在せず、自身に真剣に向き合っている真面目な学生を前提として考えて欲しい。

●自己評価と自信・過信

 普段から最低限80点を割り込む事は皆無に近く、84~85点が普段の成績であるなら、「今度のテストで何点取れるか?」と聞かれた場合、最低限でも80点は確実だと思われるので例えば「82点」と低めに申告するだろう。

 しかし、予告なくテストが実施された場合には「85点」獲得できるかも知れない。

 何が言いたいのかというと、型式認定の数値には「審査値」と「届出値」がある事で、表記される数値が変わるという事実が存在する。

●「審査値」と「届出値」の違い

 「審査値」とは、文字通り審査した結果の数値である。

 これに対し、「届出値」とは、メーカーが幾多の試験をして計測した結果、「この数値なら絶対クリア可能」と自信を持って提示(申告)した数値である。

 「自動車後進国」と違って、国産メーカーの場合の品質管理は行き届いており、まかり間違っても極端な数値の差は無い。

 どれだけ精度が上がっても、「正規分布曲線」と呼ばれる「釣鐘型」の山なりのカーブが「なだらか」になるか「急峻」になるかの違いだけだ。

 しかし、それでも良い方に振ったサンプルと、悪い方に振ったサンプルとでは差異がある。工作レベルが低ければ、カーブはなだらかになる。

 例えば、100gを目標値として製造した場合、高精度の製造技術なら、せいぜい99.5gから100.5gの間に集中する為に急カーブの山となるが、低精度なら95gから105gの間に散らばるから、なだらかな山になる訳だ。

●メーカー側の申告数値

 自己申告した数値が、実際に計測した数値よりも低いと、極言すれば「過大申告」となってしまう。

 従って、メーカーは申請時には余裕を見た控えめな数値を提示する関係で、「審査値」の方が「届出値」よりも良い数値が出る傾向がある。

●データ改ざん

 ダイハツのエアバッグ試験を、実際の衝撃で膨らませるべきところ、タイマーで膨らませたのは、明らかにやってはならない「不法行為」である。

 衝突して「一定以上の衝撃を受けた場合」に「確実に膨らむ」必要があるのに、タイマーで膨らませる行為は、本来の実験の意味を全くなしていないからだ。

 だが、その他の項目を検討すると、サラリーマン社会の「上に物が言えない」風土、「無理しても納期に間に合わせる」体質から引き起こされたものと思われる。

 共産圏諸国の場合、計画の遅延や成果が上げられない場合には、自身の生命にまで影響する程、過酷な状況だそうだが、平和な民主主義の国では、極論だがせいぜい「昇進遅れ」程度の被害だけだ。

 ここが、共産圏諸国等の製品を検討する場面では、国産車とは別次元の慎重な判断が必須となる所以だ。

 逆に言えば、そんな国の製品に無暗に信頼をおくのは、大冒険だと感じている。

 豊田自動織機の「データの見栄えを良くしたい」との理由は、部外者だから推測で物を言うなら、技術者の自己満足から引き起こされたのではないかと、勝手に推論している。

●筆者の勝手な推論

 昔のカタログには「エンジン性能曲線」とか、詳しいデータが掲載されていた。

 昨今は燃料系も電子燃料噴射装置でコントロールされるが、昔の気化器(キャブレター)仕様の場合、「2ステージ4バレル」といったタイプがあった。

 そんな気化器だと、低速域ではプライマリーで、高回転域で加速する際等にセカンダリーも稼動開始する際に、供給する燃料の段差が発生する。

 そんな場面で、エンジニアは性能曲線を実測値よりもなだらかに、スムーズに繋げたいと考える。

 そこで多少手を加えて、「性能曲線の見栄えを良くする」加工をしたのが「改ざん」とされたのでは無かろうか?

 素顔が可愛いなら、下手に化粧をしなければ良かったのだろうと、勝手な想像をして見た。痘痕も靨(あばたもえくぼ)と言うではないか。

 専門家が気にする程、性能曲線を読み解ける素人はそんなに多くいないのは事実だ。

 正直にやって、多少余計に時間がかかるにしても、数値の達成は可能な筈だから、上位職が余裕を与えてやる姿勢を持てば、今般の「認証試験」関する「改ざん」みたいな問題は起こらないだろう。

 一旦ストップがかかった認証も、順次問題無い事が解明されて、生産再開しているのが現状である。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

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