【映画で学ぶ英語】『ジョン・ウィック:コンセクエンス』、上杉謙信の名言を英訳?

2023年9月28日 16:27

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 9月22日に公開された『ジョン・ウィック:コンセクエンス』は、キアヌ・リーブス主演のアクション映画「ジョン・ウィック」シリーズの4作目だ。

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 リーブスが同シリーズで主演を務める最後の作品となる本作の上映時間は、2時間49分とシリーズ最長。ワディラム、大阪、ベルリン、パリと世界の名所を股にかけ、過去作にまさるとも劣らない華麗なアクションの連続となっている。

 今回はこの映画から、日本の戦国武将・上杉謙信の名言にもとづいていると思われるセリフを取り上げたい。

 なおこの記事は映画のネタバレを含む可能性があるため、未鑑賞の方は注意されたい。

■映画『ジョン・ウィック:コンセクエンス』のあらすじ

 凄腕の殺し屋ジョン・ウィックは、掟を破ったため、世界の犯罪組織を束ねる「主席連合」から生命を狙われるようになった。

 ジョン・ウィックはワディラムの砂漠で主席連合の首長を倒すが、主席連合はメンバーの1人であるグラモン侯爵にジョン・ウィック殺害を命ずる。

 グラモン侯爵は、ジョン・ウィックの旧友であるケイン(「イップ・マン」シリーズのドニー・イェン)を刺客として差し向ける。

 一方ジョン・ウィックは主席連合との争いを一気に解決するため、グラモン侯爵に決闘を申し込むことにした。

 次々に襲いかかる敵を倒しながら、ジョン・ウィックはグラモン侯爵の本拠地・パリを目指すのだった。

■上杉謙信の名言か?

 今回取り上げるセリフは、映画の終盤、パリ・モンマルトルの丘の上にあるサクレ・クール寺院での決闘の場面のセリフだ。

 グラモン侯爵はケインを決闘の代理人に指名してジョン・ウィックと戦わせることにした。どちらかが死ぬまで続けられる決闘の中で、ジョン・ウィックとケインは次の言葉を交わす。

John Wick: Those who cling to death, live.
Caine: Those who cling to life, die.

ジョン・ウィック「死ぬことに執着するものは、生きる」
ケイン「生きることに執着するものは、死ぬ」

 このセリフは上杉謙信の名言、「死なんと戦えば生き、生きんと戦えば必ず死するものなり」にもとづいているのではないだろうか。そのように解釈できる理由を、次に文法的に説明していきたい。

■表現解説

 “Those who”は、「~する人びと」という意味だ。”Those”は「それらの人びと」という意味であり、続く関係代名詞”who”が、「それらの人びと」の説明となって、「~する人びと」という意味になる。このセリフでは、”those who”以下が”live(生きる)”や”die(死ぬ)”の主語となっている。

 ”Cling to"は、文字通りには「くっつく」という意味だが、「~にしがみつく」「~にすがりつく」「~に固執する」「~にこだわる」という意味になる。

 物理的な接触だけでなく、感情的、精神的な依存やこだわりを表すことが可能だ。例えば「会社は伝統的な価値観にこだわった」という場合、”The company clung to its traditional values”となる。

 ”Those who”は書き言葉でよく使われる表現であり、口語で使用してもよいが、よりフォーマルな印象を与える。今回のセリフでも、話し言葉だが格言のような重みが生まれる。

 上杉謙信の名言、「死なんと戦えば生き、生きんと戦えば必ず死するものなり」は、「運は天にあり」で始まる言葉の一部だ。永禄9年(1566年)、謙信37歳のとき春日山城内の壁に書いたと伝えられており、大正6年(1917年)刊行の布施秀治著『上杉謙信伝』でも紹介されている。ちなみに春秋戦国時代の兵法書『呉子』に同じような言葉がある。

 スタエルスキ監督やキアヌ・リーブスは、千葉真一、三船敏郎、黒澤明といった日本のアクション映画の影響を強く受けている。上杉謙信の名言を知る機会もあったことだろう。英語では新約聖書、『マタイによる福音書』にも似た表現が存在するが、意味の上では上杉謙信の言葉が最も近いのではないだろうか。

 いずれにせよ、スタエルスキ監督が「意図的に曖昧で、解釈の余地があるようにした」と語っている結末も考えると、意味深なセリフであることにかわりはない。(記事:ベルリン・リポート・記事一覧を見る

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