D型アミノ酸が腸内の病原菌や炎症を抑えることを発見 慶大ら

2022年8月26日 08:00

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今回の研究の概要(画像: 慶應義塾大学の発表資料より)

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 アミノ酸はタンパク質の材料であり、生物にとっては必要不可欠なものだ。一般的に人間の体を構成しているアミノ酸はL型と呼ばれるものだが、L型を鏡に映した形をしたD型のアミノ酸も存在している。だが長い間、D型アミノ酸は人間にとって作用を持たないものとして注目されてこなかった。慶應義塾大学は19日、D型のアミノ酸の1つであるD型トリプトファンが、腸内の病原菌の増殖を抑えて腸炎を防ぐことを発見したと発表した。

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 今回の研究は、慶應義塾大学薬学部の金倫基教授、明治ホールディングスを中心とする研究グループにより行われ、2日のiScienceに掲載された。

 アミノ酸は20種類あり、そのアミノ酸の組み合わせやつながり方で、さまざまなタンパク質が作られている。20種類のアミノ酸にはそれぞれD型とL型があり、ちょうど右手と左手のように、構成する要素(手のひらの場合、親指、人差し指など)は同じだが、絶対に重ならない形をしている。

 L型とD型は化学式としては同じだが、そのほんの少しに見える違いにより、性質が異なるものも多い。アミノ酸の場合味が異なっていたり、医薬品では作用が異なるものがあることは知られている。

 人間の体を作るタンパク質は、全てL型アミノ酸で作られている。一方D型アミノ酸については細菌の細胞壁に存在していることは知られていたが、それ以外の作用はほとんど知られていなかった。だが近年、哺乳類の体内でもD型アミノ酸が役割を果たしていることなどが明らかになってきている。

 研究グループは、腸内細菌によって作られたD型アミノ酸が、強い殺菌作用を持つことに注目。D型アミノ酸が腸内環境を保つために役立っているのではないかと考え、腸内病原細菌の増殖にD型アミノ酸各種がどのような影響を与えるのかを調べた。

 その結果、ほとんどのD型アミノ酸の添加で、マウスの腸内病原体の増殖が抑えられることが、試験館内の実験で明らかになった。

 その中でも特に、病原細菌の増殖を抑えた2種類のアミノ酸、DメチオニンとDトリプトファンについて、病原菌に感染したマウスの生存率に影響を与えるかどうかを調査。するとDトリプトファンは、マウスの体内で細菌の増殖を抑えて生存率を上げることがわかった。さらにDトリプトファンが、細菌感染で生じる腸炎を抑えることも判明したという。

 そこで、D型トリプトファンがマウスの腸内細菌にどのような影響を与えているのかを調べた。すると、増加する細菌と減少する細菌が存在することが判明。つまりDトリプトファンは腸内細菌の組成を変化させることで腸炎を抑えていると考えられた。

 さらにDトリプトファンを与えられた細菌の中でどんな変化が起こっているのかを調べたところ、インドールアクリル酸が多く検出されたという。そこで、マウスにインドールアクリル酸を多く含む飼料を与えて病原性細菌に感染させたところ、生存率が上昇。このことより、Dトリプトファンを与えることで菌体内でインドールアクリル酸が増加し、細菌の増殖が抑えられると考えれた。

 今回の研究で、D型アミノ酸の新たな機能として、腸内細菌の状態を改善し、細菌感染や、それを原因とする腸炎から生命を守ることが明らかになった。今後治療や予防などに役立っていくことが期待できるだろう。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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