【小倉正男の経済コラム】アップルが中国離れ、「ゼロコロナ」でリスク極大化

2022年6月14日 09:41

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記事提供元:日本インタビュ新聞社

■長期ロックダウンでGDP(4~6月)はマイナス成長

 中国経済が分岐点に立っている。あるいは、曲がり角を迎えているといったほうがよいかもしれない。

 中国のGDP(国内総生産)だが、1~3月は実質成長率で4・8%増(前年同期比)だった。不動産開発投資が一服状態に入っているが、消費、民間投資などが順調だった。だが、3月には消費が急減速し、飲食などが大幅なマイナスに転じている。この時期、新型コロナ感染症が徐々に都市部に浸透し始めたことを示している。

 4~6月のGDPは、マイナス成長に陥るという見方が出ている。「ゼロコロナ政策」による上海など各都市・地域の長期ロックダウン(都市封鎖)が本格化し、経済そのものが停止したためである。

 日本の自動車産業なども上海などから部品供給が止まり、国内工場の操業を一時的に休止する動きが表面化している。6月には上海などのロックダウンが解除された。だが、中国の長期ロックダウンは、中国に集中しているサプライチェーンが寸断され、機能不全に陥るというリスクを顕在化させた。

■日本企業も長期ロックダウンに揺れ動く

 日本の製造業各社は、中国に製造・販売で依存度を高めてきている。それだけに「ゼロコロナ政策」「ロックダウン」でサプライチェーンが機能しないというのは相当に頭が痛い。2021年には電力不足から地方政府に工場操業を制限されたという経験もしている。長期ロックダウンは、電力制限どころか経済全体が停止するのだからほとんど致命的な事態である。

 中国に工場を持っているある国内機械メーカーなどは、2022年は「中国の需給見通しは一服」と保守的に構えてきたが、それでも想定を大きく超える低下となっている。その機械メーカーはインドにも工場があるが、インドのほうは需要が好調ということで設備投資拡充を急遽実施する方針に切り替えたとしている。

 繊維アパレル製品などの国内製造企業は、上海の縫製工場を閉鎖したとしている。ASEANの工場に業務を移管・集中化して効率化を図るのが狙いである。この会社は上海のロックダウン以前にASEAN移管を決定したのだが、「人件費コストなど先々を睨んで判断した」としている。この決定が遅れていたら、アパレル縫製品の日本国内市場への納入・物流が見込めず「逸失売り上げ」「逸失利益」が生じていたところだった。上海工場は閉鎖したままだが、いずれその工場は売却する方針と語っている。

■中国を大国化させたのは米国の自由貿易主義による利益追求

 日本企業の「中国依存」などは実はまだかわいいレベルだが、問題なのは米国企業である。例えば、米国を代表する企業であるアップルなどは製品の90%以上を中国で製造している。iPhone、ノートパソコンといったアップル製品の大半は「メイド・イン・チャイナ」である。

 アップルは、半導体製造のインテルなどと並んで自由貿易主義に乗って「水平分業」で大成功してきた企業だ。アップルは、鴻海精密工業(ホンハイ)などの台湾EMS(製造受託企業)各社にiPhoneなどの製造を委託している。台湾EMS各社はそれぞれ進出している中国工場でアップル製品を製造している。アップルは、台湾EMS各社では飽き足りず中国EMS企業にも製造を大規模に分担させている。

 アップルは、徹底した合理主義=効率化による利益追求企業であり、悪くいえば強欲、銭ゲバ(かなり旧いか?)型といえる。アップルは、ファブレス(自社工場を持たない)=「水平分業」を特色として、その結果中国でほとんどの製品を製造する現状をつくっている。

 アップルなどの動きをみていると、中国が大国化したのは米国の強欲な利益追求を体現した自由貿易主義の帰結だったのではないかといわれても仕方がない。

■アップルも今更ながら「中国依存」離脱に動く

 アップルにおいては、中国で大半の製品を製造しているという「中国依存」の極端な高さがリスクとなっている。そのアップルだが、今更ながらEMS企業に「中国以外での製品製造を拡大せよ」という意向を伝えたといわれている。具体的には、インド、ベトナムなどへの製造拠点の分散・多様化を要請したとされる。

 2021年中国では電力の使用制限で製品製造が遅延した。いまはゼロコロナ政策によるロックダウンに直撃されている。サプライチェーンが寸断され、工場稼働は長期停止が避けられなかった。アップルは巨額の「逸失売り上げ」「逸失利益」に見舞われた。仮に、「台湾有事」という地政学的クライシスが起これば、アップルは「逸失売り上げ」どころか、キャッシュが全く入ってこない事態になりかねない。製造拠点の「最適配置」再構築に迫られている。

 IPEF(インド太平洋経済枠組み)、Quad(日米豪印戦略対話)にみられるように、米中の対立関係は後戻りできない状況に入っている。米国は中国に過度に集中するサプライチェーンをデカップリング(切り離し)で分散・多様化する戦略に転換している。

 アップルのティム・クックCEOとトランプ前大統領はもともと仲良しの友人として知られている。2019年トランプ大統領(当時)の中国への高関税政策で、クックCEOは「中国依存」リスクに直面している。中国で製造されたアップル製品は、米国市場では高関税を課され割高にならざるをえない。アップルには大きな危機であり、米国の消費者にとっても高値で買わされるという不満が爆発する状況だった。

 トランプ大統領はクックCEOに「米国でつくれば関税はかからない」と。アップルはその時サムスン電子(韓国)との市場競合を理由に高関税から逃れている。そのアップルが遅ればせながら、「中国依存」から離脱に動き出している。

(小倉正男=「M&A資本主義」「トヨタとイトーヨーカ堂」(東洋経済新報社刊)、「日本の時短革命」「倒れない経営~クライシスマネジメントとは何か」(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長などを経て経済ジャーナリスト。2012年から当「経済コラム」を担当)(情報提供:日本インタビュ新聞社・株式投資情報編集部)

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※この記事は日本インタビュ新聞社=Media-IRより提供を受けて配信しています。

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