SMBC日興の相場操縦疑惑 東京地検特捜部が加わり、幹部の一斉事情聴取で・・? (上)

2022年2月19日 16:03

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 21年11月、SMBC日興証券の社員に株価操作の疑惑が浮上して、証券取引等監視委員会が同社の強制調査に着手したと報じられた。それから約3カ月が経過した。

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 疑惑はSMBC日興証券の社員が、特定銘柄の株価維持を意図した取引を繰り返す、「相場操縦」を行っていたのではないかということだ。

 相場操縦とは、マーケットにおける株価の形成に人為的に関与して、株価の上昇や下落へ誘導することを狙うものだ。金融商品取引法には、市場から公平性を奪う最大の違反行為とされ、10年以下の懲役か1千万円以下の罰金、或いは併科されることに加えて、法人に対する両罰規定も定められている。

 今回のSMBC日興証券に関わる事案のポイントは、不正な取引に対して「ゲートキーパー(門番)」の役割を自覚して、「取引を公正に保つ」ことが期待されている証券会社が、自ら不正な取引に手を染めたのではないかというところにある。極論すると、警察官が強盗に押し入ったり消防署員が放火をするようなものだから、証券業界の根本的な職業倫理の問題なのだ。

 「売り」が増えれば下落し、「買い」が増えると上昇するのが、株価変動の基本的なメカニズムである。今回の事案は、大株主が保有する株式を現金化する際に当日の終値相当額で証券会社が引き取り、証券会社は時間外の相対取引で懇意な投資家に転売して、転売価格から引き取り価格を差し引いた残りが証券会社の報酬となるという、「ブロックオファー」取引の一形態だ。

 登場するのは、大株主(売主)と証券会社(仲介者)に投資家(買主)の3者で、3様のメリットがある。例えば当日の終値が合計1億円だった大株主には、値崩れを起こすことなく1億円の現金化に成功するメリットがあり、総額1億100万円で購入した複数の投資家も買いが膨らんで高値掴みとなるリスクから解放される。証券会社には1億100万円(売却価格)から1億円(引き取り価格)を差し引いた残額(100万円)が報酬として残る。

 ところが、当日の終値が大株主の期待値を下回ってしまうと、大株主が売却を拒んでキャンセルされるリスクにつながる。この場合には、証券会社の報酬が望めなくなる以上に、大株主の期待を裏切り「しこり」を残すリスクが発生する。大株主からの買取価格を下回って投資家に売却することは、証券会社の損失に直結するため許されない。自然体で ブロックオファー取引に臨んで、適正な報酬を得た上で取引が終了する余地は、実際のところあまり多くないのかも知れない。

 大株主から持ち込まれるブロックオファーのオーダーから、リスクを排除しようとする誘惑の大きさは相当のものだろう。(下)に続く(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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